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プロローグの勇者  作者: 黒板係
聖都編
76/77

76 魔王

☆前回のあらすじ☆

最後の夜

 とても静かな朝だった。勇者、アスペラ、シェンティアは宿の主人が用意してくれた簡単な朝食を無言で胃袋に押し込んでいた。特に何かをすることもなく、淡々とそれぞれ装備を整えていた。


「(リボルバー、予備の回転弾倉、手投げ弾、トカレフ...。トカレフは万が一、僕が死んだときのことを考えて破壊しておくか)」


勇者の準備は整った。


「(杖を磨いて、短弓の弦を張りなおして、大丈夫そうかな)」


宿の外に出ると、辺りは依然として暗くよどんでいた。砂浜の方へ向かうと今回魔王城まで運んでくれる漁師とベナトが何かを話していた。


「あの島に行くなんて割に合わねぇよ…」


「そう言わずに、何とかこれでお願いしますよ」


話を聞くと、ベナトが大金の入った袋を漁師に渡しているようだった。漁師の男は金を受け取るも、その顔には恐怖が張り付いている。


「ベナトさん、おはようございます」


勇者たちの顔を見るベナトの顔もまた不安な様子を拭えていない。


「ああ、おはよう…最後にインタビューいいかな?」


「もちろん」


これまで何回もインタビューされてきたが、最後となるとこのなんてことない時間も惜しくなる。最後のインタビューは思ったよりも少なく、いや、最小限だった。


Q.最後に一言お願いします


勇者は少し考えた。だけどすぐに自然と口が動いた。これが最後というわけではない、魔王に勝利した後にはヒーローインタビューが待っているはずだ。


「勝ちますよ、僕は勇者でノヒン国の希望だから」


勇者のその言葉につられてアスペラの口も開く。


「私は胸を張って勇者さまと里に帰ります」


シェンティアは漁師とともに小舟の用意をしていた。荷物を投げ入れ、どんよりとした暗い海に向かってググっと押した。


「乗るのじゃ」


漁師とシェンティアの乗る小舟に勇者とアスペラが乗ると、宿の主人とベナトがズボンを濡らしながら海の奥へ押してくれる。


「最後に一つ、記者としては魔王城へ行ってほしいです。でも、私個人としては行ってほしくないです」


「ありがとうございます。大丈夫ですよ」


舟は進む。ただ魔王城まで、舟の上で口を開いたものは誰もいなかった。皆、ただ静かに迫りくる魔王城を眺めているのだった。


数十分後、特に問題が発生することもなく島にたどり着いた。漁師はすぐに引き返していき、三人は魔王城まで歩みを進めていく。


「銀さん、この後の戦いでは最高火力を出さなきゃいけない。魔族としての自分を引き出すためにレジーナマリス号で初めて変身したあの姿になれないか?」


勇者はロングソードに口を近づけてボソッと話しかけた。そして鞘を耳に近づけると答えが返ってくる。


「出来る。ただ、呑まれるなよ」


そうこうしているうちに暗く長い道やいくつかの城門を越え、魔王城の居館の前にやって来た。


「準備はいい?」


「はい」 「んじゃ」


ギィ~っと大きな音を立てながら扉を開けると、そこには外観からは想像もできないような白を基調とした綺麗で優しい陽光の入る広間があった。


「…すごいな」


その光景に圧倒されていると、どこからともなく現れた存在があった。


「お待ちしておりました。魔王様は奥の玉座に居られます」


エモティだった。箒を手に持った彼女は歓迎するような様子でも、嫌悪感を持った様子でもなく、ただ面倒臭そうに魔王のいる場所を話すだけだった。彼女の横を通り過ぎる時ですらそれ以上の何も感じなかった。


「何もしてこないのか?」


フンと鼻を鳴らした彼女はこちらを向いて言った。


「魔王様は負けません。あなた達がいなくなれば私の仕事も楽になりますよ」


そう嫌味ったらしく言う彼女を後ろ目に、勇者達は魔王のいる玉座に向かう。とは言っても扉は目の前である。左右対称のサーキュラー階段の中心にあるその扉に汗で濡れている手を当てた。


ガコン...玉座の間の扉を開くと、そこには多くの窓があり温かみを感じる空間が奥へと広がっていた。その最奥には玉座があり、そこには...


「あれが魔王?生きているの?」


そこにいた...いや、そこにあったのは闇を極限まで濃縮したような色をした正二十面体の宝石のようなものだった。


「あれが魔王のようですね。ノヒン国の魔王については根源的な恐怖の象徴としか知らないのでどんな姿でも不思議ではありません」


「それなら、破壊しよう」


歩みを進めたその時だった。


「よく来たな、勇者よ」


声が頭の中に響いた。横を見るとアスペラも同様に声が聞こえたらしい、その声は暗く恐怖心をあおってくるようだった。


「それにしてもシェンティアよ…お前はどちらの味方なのだ?」


シェンティアは顔色一つ変えずに答えた。


「勝っている方じゃな。魔族の勢力も年々減っておる。降伏も考えているのじゃ」


そう言ってシェンティアは部屋の隅に座り、こちらを観る。傍観する気のようだ。


「我も小物になったな...。だが魔力は集まりつつある。この国を亡ぼす為、死んでもらおうか。勇者よ」


「へぇ、弱くなっているんだ...それは好都合。いくよアスさん!」


「はい!」


二人は息を合わせて床を蹴った。魔王に向かって走る。しかし、そう上手くはいかなかった。


「******」


頭の中に響く声ではない。翻訳されることのないその言葉が聞こえた瞬間だった。


「うっ!」


「ひぎゃーッ!」


体が斬れたのだった。勇者の左前腕と右足首が斬れ飛んだ。アスペラは顔面の右側から斜め左下にかけて一直線に大きな裂傷を負った。


「(変身する余裕はない)」


勇者は右手でリボルバーを抜くと自分の体より後ろにある窓に向けて叫んだ。


「逃げろ!アスさん!」


「でも」


「逃げろ!」


「…っ!」


状況を判断したアスペラは、その言葉を聞いた瞬間に振り返り、走り出した。その瞬間、魔王の次の魔法が発動する。


「******」


しかし、勇者がそれより早く動いた。リボルバーで次々と窓を破壊すると、今まで陽光だと思っていた光が消え、暗い空が見えだした。魔法は発動されることなく、アスペラは魔王城の外へ脱出したのだった。


「ほう…我の魔法を見切ったか」


失血死寸前の勇者はにやりと笑った。


「ああ、斬れ方で分かった。お前の魔法の効果は光と影の境界を無条件で切断することだ」


「その通り、そしてお前はここからどうするつもりだ?」


アスペラを逃がした今、勇者にできることは何もなかった。変身しようかと考えたが出血が多すぎて剣を引き抜く力はもう出せない。


「負けたよ」


完全に戦意を失った勇者はリボルバーをこめかみに当てて目を閉じた。


「次の勇者によろしくな」


バンッ


頭を撃ち抜いた72番目の勇者はこの場で絶命したのだった。




「…シェンティアよ、この者を埋葬しなさい」


「剣はどうするのじゃ?」


「破壊しておきなさい」


「了解じゃ」


シェンティアは勇者の死体を担いだ。そして魔王城から少し離れた墓地までやってくると、あらかじめ用意されていた棺桶に、魔法小袋やリボルバーと共に入れる。


「…」


棺桶の蓋は閉められ、墓穴に入れられた。墓石にはこの結末が分かっていたかのように支知賢二の名が彫られていたのだった。

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****

身長** 体重 **属性*

固有魔法******

最後の敵。これを倒すのが勇者の使命だった。


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