75 行こう
☆前回のあらすじ☆
…夢
勇者が目を覚ますと、文字通りすべてが終わっていた。ソニウムとの戦いも、魔力採掘機の破壊も。一体どれほど眠っていたのだろうか、目をこすりながら周囲を見回すと酷い有様だった。
「状況は…?」
「おはようございます、勇者さま。ソニウムとクローン・テトラは討伐完了しました」
そう報告したアスペラの顔は暗くよどんでいる様子だった。戦いの壮絶さが嫌というほど伝わってくる。
「こっちの被害は?」
「…っ」
アスペラがふらっと視線を動かすのに合わせ、辺りをよく見てみると、教会はすっかり崩れ、そこら中に人間の残骸のような異物が転がっている。
「私とシェンティア、カエデさん、ルクスさんは比較的軽症。アミスさんとクローン・アミスさんは頭が吹き飛んでしまい死亡。ゴーレムちゃんはクローン・テトラと因縁があったらしく精神がおかしくなってしまいました」
「…外も、酷いな」
教会の外では、たまたま近くにいた冒険者たちが回復魔法で治療し、兵士達が担架を使い、遺体を運んでいる。
「ええ、ベナトさんが呼んでくださった銃兵隊も死者多数。避難させた信者もほとんどが流れ弾で死亡または重症です」
被害は今までとは比べ物にならないほどだった。しかし、勇者は前に進まなくてはいけなかった。亡くなってしまった人たち、彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない。
「勇者、アスペラ、行きな。ここは俺とルクスで片付ける」
「いや、でも....」
カエデやルクス、生き残った銃兵隊のみんながこちらに希望の眼差しを向けていた。そして、カエデは勇者に風車を託す。
「持っていけ。役に立つかもしれない。お前が使わずとも」
「…ありがとう」
風車を手に取ると、聞きなれた自動車のエンジン音が聞こえてきた。ベナトだ、銃兵隊を呼んだ後、車を取りに行ってここまで迎えに来てくれたのだろう。
「乗ってください。送りますよ」
アスペラが荷物を積み込んで車に乗り込もうとしているとき、勇者は瓦礫の上で座り込んでいるゴーレムちゃんに話しかけていた。
「大丈夫か?」
ゴーレムちゃんの様子は酷く、いつもの明るさや軽口を叩く元気も残っていなかった。
「ゴシュジン、ワタシは人間デス」
「ああ、前にもそう言っていたな」
「ダカラ、この場所ハ…この事件ニついてハ!私に任せてください!」
勇者はゴーレムちゃんの過去については何も知らなかった。きっとこの先もずっと知ることはないのだろう。そう、ゴーレムちゃんが勇者の過去を知ることが無いように。
奴隷市場でたまたま購入することになった十二年式魔導ゴーレム人形2型、いつも可愛く身の回りのことを何でもこなす優秀な人形。ご飯をいっぱい食べててピンチの時にはいつも助けてくれた存在だ、別れるのは惜しいが彼女の意思は尊重したかった。
「今までありがとう。後のことは任せたよ」
ゴーレムちゃんは口を開かなかった。エネルギーが切れてしまったようだ、魔力を吸収して再び目が覚める前に勇者は彼女の前を立ち去るのだった。
「行こう」
「はい」
「そうじゃな」
少し離れた森の中には、教会の様子を見ていた存在があった。
「これは…ソニウム様を旧化させるとかそんな次元じゃないな。下手すれば私が死ぬ」
エモティは協会に残った冒険者や銃兵隊の様子を見て、だれにも見つかることなく魔王城へと逃げ帰っていった。
一方、ベナトが運転する車は南へと進んでいく。荒れた道を走り、周囲には家がなくなっていく。この先に魔王城があるのだろう、とても暗い魔力が漂っている。
「皆さん眠ってしまいましたか....」
ベナトの運転する車は、やがてノヒン国最南端にあるイクスビという小さな漁村にたどり着いた。小さな家や漁をするための小屋が点々とするだけで特にこれといったものはない。邪悪な魔力を除いて。
「とりあえず、皆さんを宿に運び込むとするか」
しばらくして、勇者は目を覚ました。小さな部屋の小さなベッド、黒ずんだ壁は来るものを拒絶しているようだが、今の勇者には関係なかった。
「どこだここは?」
部屋を出て、キシキシと音が鳴る古びた階段を降り、近くの部屋をノックして入ると、そこにはとても老いた宿の主人がお茶を淹れて静かに座っていた。彼は勇者を少し見ると、軽く手招きして座るように促した。
「お待ちしておりました。最後の勇者様」
勇者が主人の前に腰を下ろすと、彼は一杯の紅茶を出した。
「ああ、お構いなく…って言うのは逆に失礼ですかね?」
「今更気にするようなことではないですよ」
「…最後の勇者ってどういう意味ですか?」
主人の言葉が気にかかっていた。『最後』という言葉は、いい意味で使われることよりも悪い意味で使われることが多い。
「私は、ここで何人かの勇者を見送ってきました。そのうちの一人の持っていた本にソロモン72柱の悪魔について書かれていたのです。その悪魔の序列と転移してきた勇者様方はどことなく似ていたような気がして気になったのです」
こじつけとも思えるような話だが、異世界に転移することが現実に起きた。そして、転移は前の世界で起きたことであるため関係がないとは言い切れない。
「僕もこの世界に来る前は、なろう小説やファンタジー系の作品に触れることも多かったのでなんとなくわかります。ソロモン72柱の序列72位は確か…」
「アンドロマリウスです」
「そうそれ、盗まれたものを取り返すいい悪魔かと思いきや、ちゃっかり一部を自分のものにする悪魔。僕はこの世界に転移する前に拳銃を盗んだ。戦いの合間に他人の武器も盗んでいる。そして、支知家の人間は代々立派な警察官だ」
なんとなく当てはまる。ただそれだけでは確証が持てなかった。
「僕の彼女は71番目の勇者だ。序列71位は確かダンタリオン、男と女の顔を持ち思考操作や学芸に強かった記憶がある」
振り返るとこれも大体あっている。奈苗 一華は男らしいところもあった。ロックバンドをやっていて芸術関係にも強い。思考操作は...あまりあてになるものは無いが。
「う~ん...気にしなくてもいいんじゃないかな?」
「うむ...そうですね」
その日の夜。不安で胸がいっぱいになりながら仲間の部屋に向かう。ちなみに宿代はベナトが支払ってくれていたようだ。
「ん?勇者殿か」
シェンティアの部屋の扉を開けた。彼女は普段通りランプの明かりで本を読んでいた。
「…二人で会話をするのはこれで最後になるかもしれないから最後に聞いておきたい」
「何じゃ?」
「シェンティアはどうしてついて来てくれていたんだ?危険を冒してまで」
するとシェンティアは勇者の顔を少し見て、再び本に視線を移した。見ると、何かを書き込んでいる様子だ。
「ただ知りたいのじゃ。人間が人間でなくなる様子が」
「そうか…」
「明日は決戦じゃ。しっかり寝るとよい」
シェンティアの部屋を後にした勇者は、次にアスペラの部屋の扉を叩く。
「勇者さま...」
アスペラはベッドの上で震えていた。その姿は今まで見たことが無いほど弱弱しいものだった。
「眠れそうにないか?」
「勇者さまは大丈夫なんですか?」
「僕は...一度死んでいる。自分で自分を殺したんだ」
アスペラの顔は暗いままだった。
「勇者さま、今日は一緒に寝てもいいですか?最後ですし、何より私は怖いんです」
勇者は少し躊躇した。一華の顔が脳裏に浮かんできたのだ。だが、彼女は賢二の幸せを願っていた。その願いを叶えようとしてもいいのではないだろうか。
「わかった。今日は一緒に寝よう」
この日の夜はとても長かった。なかなか眠ることはできなかった。そして、明日はついに魔王との決戦だ。
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ソニウム
身長 159㎝ 体重 46㎏ 属性 無
固有魔法 悪夢の中
配下帝序列四位の上位の魔族。性格は好奇心旺盛で子供のような残酷さを持っている。モンストラム教の中でクローンを作っていたのも単純な好奇心からだ。クローンには教徒たちが集めた冒険者や騎士や兵士の血液を使っている。モンストラム教の教祖というわけではないのでモンストラム教はこの先も残り続けるだろう。




