74 夢
☆前回のあらすじ☆
配下帝ソニウムと対峙
教会の中、薄暗い空間に蝋燭の明かりが点々と揺らめいているその空間は本来であれば心落ち着く場所なのだろう。ただこの場所は異様だった。ずらりと並んだチャーチベンチに座る教徒たちは皆、祈りを捧げるように手を組んだ状態で眠っていたのだ。
「まあ、何でもいいか」
「勇者さま、もう少し興味を持ってください」
「…何なんだこれは」
異様な空気間の中アミスがこの場所のことについて軽く説明し始めた。
「ここは新しく入信してきた教徒たちを支配するための場所です。モンストラム教にとって都合のいい夢を見せる、言わば洗脳です」
何を振興するかはその個人の自由だ。ここにいる人たちも自らこの場所に来ているのならこちらが手を出すのはナンセンスだろう。とにかく今の目的はソニウム討伐と魔力採掘機の破壊である。
「やるぞ!」
おもむろにロケットランチャーRPG-7を取り出した勇者は弾頭の安全キャップを外し、ハンマーを起こしてソニウムに向かって引き金を引いた。シューっと一直線に飛んで行ったロケット弾はソニウムにあたる直前、何者かに弾き飛ばされた。
「何っ⁉」
ドーンと背後の壁が崩れ曇天の隙間から差し込む光が入ってくる。そしてその光はその何者かを照らした。その姿は普通の人間のようだった。ただ、いくつか違うことがあるとするなら彼の瞼は縫い付けられ、腕には巨大な刃物とマシンガンが取り付けられていた。
「なにあれ....」
皆、戸惑いを隠せない様子だった。その様子を見ていたソニウムは不敵な笑みを浮かべて言った。
「その子はクローン・テトラ。いろんな遺伝子を混ぜて作った上位種よ」
「う~ん…ベースは勇者さまみたいですね」
「俺?似てる?」
「何でもいい!俺とルクスはソニウムを殺る」
カエデとルクスがチャーチベンチの背もたれを飛び移りながら接近すると、その音に反応したクローン・テトラがマシンガンを乱射し始め、壁に穴が開いていく。
「皆行くよ!」
勇者とアスペラ、アミスがテトラに向かっていく。その間に他の3人は入り口や崩れた壁から信者たちを外に放り投げていく。そんな中でアミスがテトラに大鎌を振ったその時だった。カエデの猛攻を交わしながら勇者に接近してきたソニウムが魔法を唱えてきた。
「悪夢の中」
瞬間、黒い霧の塊のようなものが目の前で出現し、勇者は避ける間もなくその中へ入り込んでしまった。
「…ん?」
目が覚めると、そこは東京にある実家の自室だった。ベッドに寝ころんだまま、ふと真横にあるデジタル目覚まし時計に目をやると、そこには自分が転移した日付が記されていた。
「…夢?こっちが現実?」
ふらりと起き上がるとしっかり学ランを着ていた。どうやら日頃の疲れがたまり、塾に行く前に仮眠をとっていたらしい。
「ケンちゃん、起きてらっしゃい。塾に行く時間だよ」
1階から母親の声が聞こえる。目ボケ眼をこすりながら階段を降り、母がいるであろうキッチンに行くと、いつもと変わらない様子で夕飯の支度をしている母の姿があった。
「おはよ、スープの下ごしらえはできたけどメインは何がいい?」
「…生姜焼き。豚肉あったでしょ」
「そうしよっか、じゃあ行ってらっしゃい」
母の目を盗んでキッチンから包丁を持ち出し、参考書やテキストと共にリュックサックに入れ、玄関に向かう。
「そういえば父さんは?」
「何か大きな事件があったみたいで遅くなるって」
「…そう」
満月が見える道、頭がぼんやりしながらも体は自然と前に進んでいく。ただ、進む方向は塾とは違かった。人でごった返す繁華街を通り抜け、薄暗い道をとぼとぼ歩くと、今は使われていない雑居ビルにたどり着いた。
「(ここがどこでもいい。もし奴らがいるならもう一度)」
ここは半グレがたむろしている場所だった。リュックサックを投げ捨て、その中に歩みを進める彼は、中から出てくる半グレを一人一人丁寧に蹴り飛ばし、苦しめることなく首に穴をあけていった。
「…」
最上階まで歩くと、そこにいたのは半グレのリーダー。転移する前もここで出会っていた。じわじわ近づいてくるその光景に驚いた半グレはおもむろにトカレフを取り出して、震える手でこちらに狙いを定めてくる。
「やめろ…来るな!」
「ほんとに、なんでそんなもの持っていたんだか…密輸したのか、どっかで買ったのか。どうでもいいか、転移したときのただ一つだけの心残りはお前だ。お前が生き残ったことだ」
パンッと銃声が鳴る。転移前はここで腹部に致命傷を負い、逃げたのだ。ただ、今は違った。異世界で散々ひどい目にあった後の拳銃というのは大した脅威ではない。弾丸は外れた、その隙にただ直線的に走り、奴の心臓に包丁を深く刺した。
「…疲れた」
ただ力なくうずくまる。もうこれから何をしていいのかわからない、空っぽの存在になり下がった。
「やったな」
「…っ⁉」
振り返ると、そこにいたのは彼女の奈苗 一華が立っていた。2個上の彼女は直近のバンドの衣装を着てこちらを見下ろしている。その姿を見たことで、安心したのか体から力がスーッと抜けていった。
「俺のためにこんな…。まさか賢二がこんなことするとはね」
「一華ちゃん…僕は、もう疲れたよ」
「待て待て、異世界での様子はあの世から見てた。俺はお前を助けるためにここに来たんだ、立って」
彼女に手を引かれ外に出ると、そこには自分たち以外誰もいなかった。
「悪夢が始まる...。早く目覚めないと、どこで死んだか覚えているか?」
「清砂大橋から荒川に飛び込んだ」
それを聞いた一華は安心した様子だ。ここから清砂大橋まではそんなに距離はない。
「歩こう、送るよ」
「うん」
家が立ち並ぶだけのつまらない道を二人は思い出を振り返りながら歩いた。
「ほんとにごめんな。俺のせいで」
「一華ちゃんは悪くないよ。僕が短気だった」
一華は後悔していた。一連の出来事は彼女が半グレに辱められたのが始まりだ。襲われた恐怖、そして何より自分の体が汚されたという事実、普段から強く振舞っていた彼女は弱かった。また、彼女が想定していなかったことがある。弱いと思っていた彼氏は無駄とも言えるほど強かった。
「そういえば一華ちゃんはなんで僕が転移したこと知っていたの?」
重い空気がスッと軽くなった気がした。
「俺が71番目の転移者だから、だな」
「そうだったんだ」
清砂大橋の中ほどまで歩いてきた。幸い、まだ悪夢はそんなに進行していない。彼女と別れたくないという気持ちをぐっと抑えて柵をまたいだ。
「そういえばお前、自分の名前とか憶えているのか?見ていた様子だと転移のショックで忘れていたんじゃないか?」
「…そうだね、覚えていないよ」
一華の唇は震えていた。大好きな彼氏がこんなことになって悔しいのだ。
「賢二だよ…君の名前は、支知 賢二だよ」
「そっか…。ありがとう、これで自分を取り戻せた」
久しぶりに二人で笑い合うことができた。それが何よりうれしかった。だが、ソニウムの魔法によって悪夢は徐々に進行していくようだ。街は暗くなり、何かのうめき声が聞こえてくる。
「賢二!早く行って」
「一華ちゃんは⁉」
「大丈夫、賢二の悪夢なら出てくるのは特撮の怪人だろ?オルフェノクでもワームでもかかってこい!だな」
「ありがとう!行ってくる」
「いってらっしゃい」
柵から手を放す。最後まで彼女の顔を見ていたいと目を見開いていると、何かを叫んでいた。
「俺のことは忘れて!新しい彼女作るんだぞ!」
これが最後の言葉だった。ドボンと体が荒川の冷たい水にたたきつけられた。
「(ありがとう、俺の勇者)」
足掻いてもがいてあらがって、月光を見ながら沈みゆく賢二は、目を覚ます。
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奈苗一華
身長 165㎝ 体重 55㎏ 属性 無
固有魔法 最後のロック
主人公賢二の彼女、一人称は俺で歳は20、賢二の2個上と思っているが、賢二は転移してから誕生日を迎えているので1個上。ロックと酒が好きで賢二と酒をもむことを望んでいたが叶わなかった。現在は賢二の悪夢の中で思い出に浸りながら怪物と戦い続けている。




