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プロローグの勇者  作者: 黒板係
豪華客船編
67/77

67 力を我が物に

☆前回のあらすじ☆

い:行け!倒せ!

か:勝て!倒せ!

の:乗り遅れるな!倒せ!

お:恐れるな!倒せ!

す:凄まれるな!倒せ!

し:知らしめろ!勝利は我らに!

 レジーナマリス号に乗り込んだ水兵隊たちは船内を駆け回り客室を回り、次々と乗客たちを避難させていく。とても慣れた動きだ。しかしレジーナマリス号の端の方に絡みついたクラーケンの足は船体に食い込んでいた。


「クヘヘ…足が邪魔で進めないね」


「バルナ上等水兵、ここは自分がいきます」


最上フロアにたどり着いたバルナ上等水兵率いる小隊の一人である一等水兵がノックガンをクラーケンの足に押し当てて引き金を引く。


ズドン!


「クヒヒ!流石、肩の骨を砕いて道を作る精神力!」


しかしノックガンの威力を持ってしてもクラーケンの足の表面を少し抉る程度にとどまった。それだけではない、耳を澄ます遠くから子供のなく声が聞こえる。


「うわぁ~!おかあさ~ん!」


「クへ~…この奥ですね~」


「バルナ上等水兵、他の通路は?」


「この奥は一部屋しかないから他の通路はないね。クヒヒ…沈没する前に足を切断しますよ」


「「「はっ!」」」


一方、他のフロアでは順調に避難誘導が出来ている。寄生虫に対しても複数で取り囲み、脚の関節にカットラスの刃を入れることで動きを封じることが出来る。乗客は次々に外に飛び出すものの、レジーナマリス号と戦艦を繋ぐ縄橋は不安定であり、なかなか避難できないでいた。


「勇者さま、外に人がかたまっていると寄生虫に襲われる危険が」


「そうだね…アスさん、携帯貸して」


「…?どうぞ」


勇者は自分の携帯でローニックに、アスペラの携帯でナタレに電話を掛け、現在の状況を聞いた。


トゥルルルル…ガチャ


「今の状況は?」


「おう!もうすぐ着くぜ」


「船倉にいた人たちは全員外に脱出した」


「このクラーケンは特殊個体で一般銃器がほとんど通用しない、大砲を使いたいんだが用意はできるか?」


海賊と水兵、返ってきた答えは違う。


「いつでもブッ放せるぜ」


「用意はできているが乗客の安全を確保できないと砲術長が指揮をとれない」


海の荒くれ者である海賊と海の治安を守る水兵の違いだ。しかしグズグズしている暇はない、クラーケンという重りがついた船が持ちこたえられるのはあと15分程度だろう。事実、現在レジーナマリス号は大きく傾き、デッキと海面の距離があと7m程にまで迫り、船首の方は既に海水に浸かっている。


「さっきから船体から嫌な音がする。救助が終わるまであとどれくらい?」


「あと5分はかかる」


「わかった」


今の状況で取れる最善の策が頭に浮かぶ。あまりにも頭のおかしい策だ。しかしこれしかない、ローニックとナタレの二人に伝えるとそれぞれが通信機で情報を共有していった。


「無謀な策だが艦長から許可が下りた。水兵隊は今から準備に取り掛かる」


「レジーナマリス号が視界に入った。俺の固有魔法を使うから急げ」


すると、レジーナマリス号と戦艦の間に大量の小舟が浮かんだ。乗客たちはその上を渡り、水兵隊たちは急いで縄梯子を下ろして乗客が上がってこられるように準備をした。


呪いの幽霊船(マグナクラッシス)。…久しぶりだ、人のために固有魔法を使うのは」


ローニック率いる海賊団が乗る海賊船が、帆船軍艦とは反対側で大砲の射程距離に入った。勇者の合図があるまでしばらく待機する。


「勇者さま!何をする気ですか!」


甲板では、乗客が一通り避難が終わった。三隻の帆船軍艦のうち乗客がギチギチになるまで乗せた一隻がエルク港に引き返す。そして勇者一行は最後までクラーケンの相手をしなくてはならない。


「とにかく時間を稼ぐんだ!水兵隊が化けイカ専用の爆弾を作っている!」


「わかりました。けどもうどうしようもありません」


「アスさん…ありったけの魔力で支援魔法をかけて」


勇者は膝まで海水に浸かる甲板で、静かに目を閉じた。そして魔法小袋の中にあるメモリア水晶に意識を向ける。そしてアスペラはそんな勇者にありったけの魔力で支援魔法をかけた。メモリア水晶の魔力、そしてアスペラの魔力が体中を駆け巡るのを感じながら叫んだ。


「勇者さま⁉まさか!」


「変身!」


掛け声と同時、輝く炎と漆黒の炎が勇者を包み、ネウダナクで切断した角の切り口のうち、左の切り口からは黄金の角が、右の切り口からは漆黒の角が生た。そして白のローブに灯る二つの炎は魔力の流れを表しているかのように強く揺らめき、首から頬にかけて血管が赤く光る。


「勇者さま…」


アスペラが勇者の顔を見ると左目のドラゴンのような角膜や瞳孔が睨む。


「アスさん、俺は一瞬だけ魔族としての自分を受け入れる!」


「はい…5分だけにしてくださいね」


すると避難誘導の手伝いに行っていたシェンティアとゴーレムちゃんが戻って来た。


「勇者殿!乗客は粗方避難が終わったのじゃ!」


「ゴシュジン!ブチカマシテクダサイ!」


「いくぞ!」


甲板が割れる程の力で踏み込んだ勇者は、高速で壁に張り付いた大量の寄生虫を切り裂きながら船尾まで走り、乗客の気配の数を確認すると船尾を踏み壊しながら空へ跳び、空中でサーベルを抜くと全力でクラーケンの足に向かって振りかぶる。


失礼な剣技(ボランスフェルム)!」


放たれた巨大な斬撃はクラーケンの足を一気に5本切断した。


「クヒッ⁉」


「バルナ上等水兵!今です」


バルナが少年を抱えると勇者と目が合った。そして示し合わせたかのように小隊は最上フロアから飛び降りる。


ラットは死んだ(イーテルムース)!」


着地地点に大量のネズミが積み重なり、トランポリンのように全員を戦艦の方に跳ばした。


「クヒヒ…助かりましたね」


「お母さん探さなきゃ」


「クヘッ…迷子探しも楽じゃないね」


そしてそのネズミたちは組体操のように足場になり、勇者を外輪の上に着地させる。


「(不味い...人間を襲いたい)」


不安を抱えるがもう奴の好きにはさせない。

読んでいただきありがとうございます

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(モチベーション向上のため)


ローニック

身長 168cm 体重 58kg 属性 青

固有魔法呪いの幽霊船(マグナクラッシス)

海賊船の船長。性格はとにかく荒くれで大雑把、勇者と関わっていくうちに振り回されるようになった。ウラグト海峡で仲間がやられた件については、海賊になった時点で死は覚悟していたはずだと割り切っている。

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