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53 ツノ

☆前回のあらすじ☆

この世界に落ちた勇者、あの時彼は生きれたのだろうか。

 アスペラがシャワー室の扉を開けると、そこには全裸の勇者がいた。それだけならよかった。振り返った勇者の頭からは血がたらたらと止めどなく流れている。


「勇者さま…?」


「アスさん…」


「とりあえずタオル巻いてください」


そう言ってアスペラは棚に置いてあったバスタオルを投げ渡した。そして目一杯腕を伸ばして勇者の目の前にある鏡にもバスタオルを掛けた。


「勇者さま、振り返らないでくださいね、恥ずかしいので」


後ろの様子が分からない。こんな状況を見られてしまったから何されるかわからない。


「頭、触りますよ」


「ああ」


アスペラは優しく勇者の髪をかき分ける。すると、頭に3cm程の小さな角が2本生えていた。


「(見間違いじゃなかった)」


「…私が切りますね」


「頼む」


アスペラもすべての服を脱ぎノコギリを持つ、右の角はもう3分の1程度切れている。血があふれる溝にノコギリの刃を入れ、少しずつ前後に動かす。


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


震動が頭蓋骨に響く。


「痛い…」


「すみません」


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


耳小骨がバラバラになりそうだ。


「怒ってる?」


「…このことはほかの二人は知っているんですか?」


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


音だ…音が怖い…


「ゴーレムちゃんは知っている。角がもっと小さいときに、植物園で見られている。シェンティアはどうだろう…知識としては知っているんじゃないかな」


「そうですか」


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


耐えられない。


「教えてくれてもよかったんじゃないですか?」


「ごめん…」


「いいんですよ、信頼されてなかったのは私の責任。最近は一緒にクエストも受けてないですしね」


「…………」


アスペラがどんな顔をしているのか想像もできない。ただ、されるがままだ。


コン………


右側の角が切れ落ちた。赤黒い切り口からは依然として血が流れている。


「癒しの風」


ノコギリに魔力を込めて使用したアスペラの回復魔法により血が止まった。


「次は左ですね」


「ああ」


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


「さっきは意地悪なこと言ってごめんなさい…」


「いや、こっちこそ。正直に相談すればよかった」


「…………」


「…………」


ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………ゴゴゴゴゴ………


「気分転換に楽しい話しませんか?そういえばワイバーンはどうでしたか?」


「…美しかったよ。迫力がすごくて、圧倒された」


「それはよかったですね」


「ああ、でも…どうせなら、絵本に出てくるような4本足に大きな翼があるドラゴンと戦ってみたいな」


「ははっ。あれは絵本の中にしかいませんよ」


「そうか…期待してたんだが、やっぱ手足4本+翼2本はどう進化しても骨が足りないか」


「そうかもしれませんね」


二人で笑いあっていると、アスペラはいつの間にか体中に血が飛び散っていることに気付いた。


コトン…


「もう切れたんだ」


「治癒の薫風。はい、お疲れさまでした」


爽やかな風に頭を包まれすっきりした気分になった。アスペラはシャワーで血を洗い流し、ノコギリを持ってそそくさと出ていった。


「(心配かけたな…)」


身体中に飛び散った血飛沫やタオルに染み込んだ血液を洗い流す。もくもくと昇る水蒸気には血生臭い匂いが混ざっている。この匂いを嗅ぐと、怖いような安心するような妙な気分になる。


「(こういうときこそ落ち着くんだ…)」


部屋着に着替え机に座って砥石を出す。水で濡らしてナイフを研ぐ。いつも宿でやっていることだ。その後は弾丸を込める作業だ。空の回転弾倉(シリンダー)を銃にセットし火薬、ワッド、弾丸を入れローディングレバーで押し込む。一つの回転弾倉に6発、それが3つ、こんな単純な作業をしているときが一番心落ち着くのだ。


コンコン


ドアをノックする音。アスペラはノックなんてしない、誰だろう。とにかく扉を開けてみよう。


「誰?」


「儂じゃよ」


ノックしたのはシェンティアだった。


「なんだシェンティアか」


部屋に通すとシェンティアはベッドに座った。勇者はさっきまで座っていた机に座り彼女と向かい合う。


「何の用だ?」


「ローブを脱いだ姿を見るのは久しぶりじゃの。まあ、アスペラの様子が変だったので心配して来てみただけじゃ」


シェンティアにまで心配されていたとは思わなかった。


「儂は戻るぞ」


そう言ってベッドから降り扉に向かって歩く。


「待って!一つ聞きたいことがある」


「何じゃ?」


「角のこと知っていたのか?」


「そろそろだとは思っておったぞ」


「そう…俺のこと、どこまで知っている?」


「言ったじゃろ。どこかに書いてあるあることしか分からん」


パタン…


シェンティアが部屋から出て行った。その日の夜、勇者は一睡もできなかった。ただただ部屋の外を眺めてぼ~っとしているだけだった。

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