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05 冒険者の資格

☆前回のあらすじ☆

師匠にボコボコにされて狼に殺されかけた

  目が覚めた。天井に走る木目も半年で見慣れてしまったものだ。布団から抜け出し学ランの襟を正すと胸ポケットにかすかな違和感を覚えた。


「(学ランの胸ポケットに何かある?)」


取り出してみると、雑に破かれた紙切れにこの世界の文字が殴り書きされていた。


「ムスクルとアウリスに文字を教えてもらったけど結局まだ少ししか修得出来ていない。だからこれを書いたのはあの二人ではないとすると………あのエルフか!」


胸の奥にざわめきが残る。それをひとまずの見込み、とりあえず下に降りる。


「あ、起きてきた」


階下に降りるといつものように朝食のパンやスープの匂いが漂っている。テーブルに着いた二人の様子を見ると二人は何か話し合っていたようだ。


「何事ですか?」


「いやぁ~ロードウルフ倒せたならもう旅に出てもいいんじゃないかなって話してたんだよ」


この二人に鍛えられて多少は強くなれたのだろうか。前の世界では多少強い方ではあったが不安は拭えない。いつものように朝食を食べながら話を続ける。


「この世界に来てから約半年、二人から色々なことを学んだ…出発しよう」


いつもより大きくちぎったパンを頬張り水で流し込んだ。そしてしばらくすると最後に3人でイタコト村の商店に買い出しに行くことになった。まだ朝の冷気が残る空気の中、村の畑には朝露が光っている。すっかり生活の一部となった道を進んでいく。


「えーと、まずはこれを買ってあげようと店主に取っておいてもらっていたの」


店に入るとムスクルは店主と少し会話をして白い巾着袋を受け取った。


「魔法小袋~」


「魔法小袋?」


「まあ簡単に言えば物が何でも入る魔道具ね」


「(なるほどつまり四次元ポケットか)」


店の奥ではアウリスがマントを物色していた。そして渡されたのは毒々しい程に赤いマントだった。少し身に付けるのは気が引ける。


「いやぁ~それはちょっと派手すぎるな~なんか吸血鬼みたい」


「じゃあこっちは?」


次に渡されたのは大きめのフードが付いた白いローブだ。布地は厚く硬めでしっかりとした作りになっていた。


「こっちの方がいいな学ランによく合う」


アウリスとその他の下着類や着替えを揃え、ムスクルの方に戻ると旅に必要な色々な道具を揃えていてくれた。ナイフ(大小)と砥石、ロープ、塩、小鍋、オイルライター、地図、方位磁石、水筒、オイル、どれも生存に必要な重みを放っていた。


「それ全部袋に入るの」


「もちろん」


全額ムスクルが支払ってくれた。その好意に胸の奥が熱くなる。最大級の感謝を伝え店を後にする。


「剣は貸したのを持っていっていいわ、後お金は出世払いでいわよ~」


「ちなみにいくらですか?」


「その防刃ローブだけで私の3ヶ月分の稼ぎが無くなるくらい」


「…ありがとうございます、頑張って返します」


家に戻ると荷物をまとめる。勿論この世界に一緒に落ちた物も。買ってもらったものを袋に入れベルトの左側にくくりつける、大きめのナイフは、右手で抜けるようにベルトの後ろ側に取り付ける。


「剣は手に持つか、忘れ物は...無いよな」


下に降りるとムスクルとアウリスが待っていた。どちらの顔も心配と期待に満ちていた。


「村の入り口まで送るよ」


イタコト村の入り口に着くまでの道中、約半年間の思い出を語り合った。そんな時間はすぐに過ぎ去り、村の入り口に着いた。


「地図は店で買ったわよね、あとはこのメモを持っていって、転移者申請の書類に必要だからね、オリスクという街にある全国共通ギルドで登録してね、あとは…気を付けるのよ……」


少し暗い顔をしているムスクルからメモとお金を受け取った。


「またねお兄さん、困ったことがあったらいつでも電話してね」


「ありがとう、いってきます(…電話?)」


これからの冒険を憂鬱に思いながら村から一歩踏み出した。


「オリスクまでは徒歩で5日くらいだな」


振り返れば二人の姿は小さくなっているかもう見えないだろう。だが一人で旅に出たこの気持ちが消えないよう、振り返らずに歩き続ける。青年、いや勇者の冒険はここから始まる。


「お兄さん大丈夫かな?」


「たぶんね…ロードウルフを倒したのは事実、革鎧を着た私を嘔吐させたのも事実、空から落ちて生存したのも事実、以外と強い人だから。きっと……」


勇者の姿が見えなくなるまでその後姿を眺めていたムスクルとアウリスの二人はまたいつもの日常に戻っていく。


一方


「あ~靴も買ってもらえばよかったな~、ローファーじゃきつい」


地図とコンパスを使い森の中の道を歩き続けること5日、畑が広がっている農道に出た。靴の裏はすっかりすり減り、縫い目も限界を迎えていた。登校から剣の鍛錬を支えてきたこのローファーもまた勇者といえよう。


そして奥に街が見えてきた。


「あそこがオリスクか」


街に入る前に手前の畑で農作業をしている人に声をかける。


「すみませ~ん、ちょっとお尋ねしたいことが~お話よろしいですか~?」


「なんだ~?」


農作業をしていたおじさんは作業を中断して、腰をググっと伸ばしてこちらの方を見る。


「この近くに公衆浴場はありますか~?」


「街に入って左手に大きな煙突が見えると思うからそこに行け~」


「ありがとうございま~す」


街に入ると近代的な建物が立ち並ぶ街並みが目にはいる。道には商人や冒険者、マスケット銃兵隊などが行き交っていた。前の世界とはまた違う雑多な光景だ。


「(結構発展しているな~まあとりあえず風呂だな)」


ムスクルとアウリスからもらったお金が少しある。旅の疲れを癒すために早速風呂に向かおう。中はかなり広く、熱い湯が疲れを洗い流し心も軽くなったような気がした。


「あ~いい湯」


二時間後、支払いに戸惑いながらも風呂を後にする。


「マッサージに衣服の洗濯サービスまであるとは、着替えを持っていてよかった」


汚れた学ランやローブ、下着類を預けギルドに向かう。


「すみませんギルドはどちらですか」


「地方ギルドならこの先を右、全国共通ギルドなら左だ」


通行人に道を訪ねながらなんとかギルドにたどり着いた。建物の外観は近代の銀行のようで内装は石や寄木で装飾されておりとても美しい。


「ようこそ全国共通ギルドオリスク支店へ」


冒険者たちで賑わうギルドはインクの香りや獣皮の香りで混沌としていた。気にせず早速受付窓口で手続きを始める。


「転移者の申請と冒険者の試験をお願いしたいのですが…」


「おぉ!このギルドで申請する転移者はお客様でちょうど50人目です。こちらの書類をどうぞ」


ムスクルに渡されたメモを見ながら記入欄を埋めていく。簡単な文法でたどたどしく記入するがそれを見た受付嬢は少し驚いたようだった。


「この世界の文字お上手ですね。ほとんどの人は私たちがお手伝いさせていただくことが多いのですが…。それでは次に転移者であることの証明をしてもらいます」


「どうすればいいですか?」


一枚の問題用紙を受け取った。


「こちらに答えて頂ければ大丈夫ですお客様より前に転移してきた方々の作った問題です。あちらのテーブルでどうぞ」


隅の方にある小さな机に座り問題を見る


Q1.富士山の標高は何m?

「ああ、こんな感じの問題か3776mだな」


Q2.What state is the Statue of Liberty in?

「日本人以外も転移しているのか…New Yorkで合っているよな?」


Q3.“写メ”とはなんの略

「世代を問う問題だな…写メールっと、今後転移してくる人は知っているかな」


計50問の問題に答えて提出する。


「32問正解ですね、お客様は転移者と認められるので転移者特別支援金が支給されます。こちらで装備や宿代を工面していただきます。」


ギルドの職員は別の紙と回答をまじまじと見て線の数や形を見ているように見える。おそらく問題の正誤ではなく文字を見て転移してきた人間を判断しているのだろう。


「ありがとうございます」


「お次は冒険者資格についてですが、こちら仮のギルドカードを発行しますので、そちらでEランク相当のクエストを受けていただきます。問題がないと判断されればそのままEランクの冒険者として認められます。」


「文字があまり読めないのですが…」


「協力者は1人までなら認められているので頑張って下さい。手続が終わるまであちらにお掛けになってお待ち下さい」


「(なんか肝心なところが雑だな…不正できそう)」


転移者関係の書類は上への報告やら何やらあって終わったのはすっかり日が落ちてからだった。外は電灯の明かりが道をやさしく照らしている。


「こちら仮のギルドカードになります」


カードを受け取って街に出る。夜の空気は昼の熱を冷まし酒の臭いや音楽で賑やかになってきていた。


「(とりあえず支援金もあるし宿を探すか……)」


今日は久しぶりにゆっくり眠ることができそうだ。明日からのクエストに胸を踊らせた。

読んでいただきありがとうございます

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全国共通ギルド

あらゆる街に支店があるギルド。冒険者の登録や昇級、クエストの斡旋をしている他、冒険者が利用する銀行でもある。レストランも中にあり、冒険者を長く滞在させることで泥棒からお金や書類を守っている。

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