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04 初戦

☆前回のあらすじ☆

魔法について教わったよ、勉強すると頭痛くなるよね

数ヵ月が経過し、季節はすっかり春へと移ろい、種芋を植える季節になった。冬の間は一面が深い雪に覆われていた畑も今ではすっかり黒々とし、湿った土のにおいが漂ってくる。


「あ゛~腰が痛い」


この数ヵ月間なにをしていたかというと、殆ど筋トレや剣術の勉強、この世界の文字の読み書きついてだ。それもそのはずこの世界に落ちてきたのは11月の出来事、いもの収穫を終え貯蔵庫に運び入れる作業が終わる頃、雪がちらつき始めあっという間に本格的な冬が来てしまったのだ。


「あ~センター試験もう終わった頃だよな。皆大学決まったのかな?」


ふとこぼれた言葉は遠い日常を思い起こさせる。前の世界の親友が数学Ⅱに苦戦していたように、異世界の言語を学んでいる自分もだいぶ苦戦していた。そして今、自分の腰の限界に挑戦している。


「さて、今日の作業も終わったことだしお昼にしましょう。二人とも手を洗って来なさ~い」


「「は~い」」


台所からムスクルの声が響き、作業を切り上げる。今日の昼食は芽キャベツとベーコンのスープだ。サッと食べて午後の鍛錬のための栄養を補給する。


「じゃあ今日から本格的に実戦形式で剣を振っていきましょ」


庭に出ると早速剣の練習だ。今まで室内でアウリスの笑いのツボを刺激しながら構えや戦術を習ってきた。今日はそれらを実際に使いながら実戦さながらに試すのだろう。


「よろしくお願いしますムスクル師匠」


アウリスが見守るなか二人は厚い布を巻いた木剣を構える。


「まあとりあえず何をしてもいいから、私を倒してみなさい。注意して、実戦では何をされるかわからないわよ」


なんとも真意を測りかねる言葉だ。師匠はポスタ•コーダ•ロンガという剣を後ろに低く構える体勢で優しく微笑む。そんなムスクル師匠からとてつもない殺気を感じ、自然と剣を握る手の汗腺が緩むのを感じる。


「その頭、少しお借りします」


木剣を握る両手を右後ろに回し一気に距離を詰める。


「(ポスタ•ディ•ドンナ•ソプラナ⁉あの構え、ほんとに私の頭をかち割るつもり?)」


ムスクルの手に力が入り木剣を振り上げる。


「今!」


ゴッ!


ムスクルの身体ではない、振り上げられるムスクルの木剣を狙ってて渾身の一撃を入れた。ムスクル師匠から舌打ちがこぼれる。


「(こっちが本命!)」


ドスッ!


振り上げられた剣に打ち込んだ今、二振りの剣は視界の左端に寄りムスクルの胴の右側はがら空き、そこを目掛けて右足で肝臓に強烈な蹴りを入れた。


「うぐっ……」


しかしムスクル師匠もDランクの冒険者、そう簡単には倒れない、蹴りによってできた間合、そして蹴りを入れたことによってできた若干のグラつきを見逃さなかった。


「初戦にしてはよく出来ていたわよぉっ!」


ガコッ


すぐに体勢を整えたムスクルの強烈な斬り上げが顎にヒットした。


「あ……ご………ゴボォ…」


脳が震える、いや、そう感じる間も無く意識が闇に沈んだ。そしてムスクルも…


「…あぁ…内臓が潰れかけた…ちょっと吐いてくるわね…」


そう言うとムスクルは口を押え、気分悪そうにその場から離れていった。



その日の夜、夕食を頬張りながらアウリスと雑談していた。


「おかわり!大盛で」


「お兄さん遠慮が無くなって来たね、いいことだ。それに今日の勝負は見ていてなかなか楽しめたよ」


「それはどうも」


「ところでお兄さん元いた世界で戦い方教わってたの?なんか動きにキレがあったけど」


「サバットって格闘技を少しね、まあ剣とは関係ないけど」


異世界の競技を説明するのは難しそうだ。だがアウリスはしっかりと耳を傾けてくれている。


「ふ~んそうなんだ。あっ来月からは実際の戦闘で使う魔法を色々見せてあげるから楽しみにしていて、あとロングソードも持ってきてね」


「ふ~んって……聞いたのアウリス師匠なのに……」


それから1ヶ月はムスクル師匠にボコボコにされながら剣術を習った。そして1ヶ月後、いつものように畑で働き、昼食をとった後、部屋に置いておいたロングソードを手に取り庭に出る。


「戦闘で使う魔法か…洗濯魔法や鍋を混ぜる小魔法なら生活のなかで色々見せて貰ったが。…楽しみだな」


庭では既にアウリスが木製の的を用意していた。


アウリスが水晶玉がついているシンプルな長杖を構える。


「よく見てな」


杖の先についている水晶玉が緑色に優しく光りその先に空気が渦を巻いているように見える。


「貫く風!」


そう言った刹那、周囲の風が吹き荒れ木製の的に円い跡がついた。自然の力が凝縮された一撃に思わず息をのむ。


「お~どんな威力で風が当たれば分厚い木の板にこんな跡がつくんだ?」


アウリス師匠がこちらに振り向きキメ顔を見せる。


「さあ!次は実際に受けてみな」


「死なないよね?」


冗談めかした声を上げつつも、20mほど距離を取って向かい合う。右手で剣を握り革手をした左手を刃に添えて防御の体勢をとる。アウリス師匠の長杖には既に魔力が込められていて風の流れを感じる。


「貫く風!」


ビュッ!と音が聞こえると同時に20メートル離れていたとは思えないような威力の風の矢が容赦なく体に衝突する。五臓六腑がつぶれるような衝撃に声が漏れた。。


「あ゛ぁ、形容し難い痛みと気持ち悪さ」


「いい感じね。ちょっと休憩にしようか」


のどかな春の昼下がり頬を撫でる風は心地よい。緊張でこわばっていた体がほぐされていく。


「ねぇ、サバットについて教えてよ」


「ん?あぁいいよ(興味ないのかと思った)」


「わーい」


わざとらしく喜んでいる。からかっているのだろう。


「サバットの起源はフランスという国の路上のケンカ術で、靴を履いていることを前提とした蹴り技が特徴の競技だよ。後に貴族も行うスポーツになった」


「どんな感じ?」


「サリュ(礼)、アンギャルド(構え)、アレ(始め)で試合開始、グローブと鉄板の入った靴で闘うんだ」


「へぇ~あ、水取ってきてくれない」


「あぁわかった」


青年の後姿を見つめるアウリスの瞳はどこか憂いを帯びていた。彼女はこの世界にやってきた人間が皆、悲惨な死を遂げたことを知っている。目の前にいる人はこの世界で戦えるほど強いのか見極めなくてはならない。


「(お兄さんこの世界でやっていけるかな?心配だ……)」


モヤモヤしていると耳に違和感を感じた。


「……ヴゥ゛…あと……二体……ックソ…」


苦しそうだがどこか闘志を感じる声が聞こえてくる。


「……久しぶりに救災の耳(クラモオーディオ)で声を拾ったな」


「師匠、水取ってきたよ」


「走るよ!」


アウリスは杖を手に取り森の奥に向かって走り始める。そして青年もコップを置き、その後を追って走った。


「何事?」


「ここから北西7000mほど先、急ぐよ」


「だから何事?」


不思議なことに森の中を全力疾走しているのに疲れを感じない。


「どういうことだ?」


「身体に馴染むでしょ私の支援魔法、うまい人の支援魔法はどんな人の身体にも対応できるんだよ。でも私は限界……」


体力の限界、アウリスはドサッと力なく倒れる。


「師匠!?」


「まっすぐ行けば人が見えるはずだから頑張れ」


「師匠ーッ⁉」」


アウリスの言葉に背中を押され一人で森を走る。幸い支援魔法の効果はまだまだ持続しそうだ。しばらく走ると次第に周囲の血痕と獣臭さが増えてくる。


「見えた!そこの人!」


「!?…人間…」


そこには頭から大量の血を流し、大きな木の根本に座り込んでいるエルフの少女がいた。


「何があった?」


「……逃げろ、人間!」


彼女は突き放すように力強く、だが小さく絞り出すような声で言った。


「何に襲われた?」


すぐにロングソードを抜いて構える。


「…ロードウルフ…5体殺した…多分あと2体、お前じゃ無理だ、早く逃げろ」


「ロードウルフ、ウルフ、ウルフ…狼か、なら逃げられないな。狼は賢いからね、俺の匂いに気付いて一旦離れたのか…」


ハンカチでエルフの頭の傷を圧迫止血するが、頭部からの出血はバカみたいな量が出るためなかなかうまく行かない。


「……人間、もういい、巻き込んですまない」


エルフの少女はボロボロの身体で必死に帰そうとしてくる。ふと後ろに気配を感じ振り返るとそこには体長3メートルを超える血塗れの狼がいた。


「一頭で来たのは様子見か、それとも一頭で狩れる獲物と判断したのか…」


ポスタ•ディ•フェッロ•メザーナという構えで、ロングソードを低く構える。


ガウッ!


獲物を視界にとらえた狼は素早く一直線に向かってくる。


「…(もっと引き付けろ)」


中型の肉食獣が攻撃するための行動、狼の飛びかかる予備動作、奴の体が深く沈む。


「グアァァァァァァァァァ!!」


静かに直立した状態から爆発的に腹の底から大声を出す、狼は驚き、飛びかかるタイミングが少し早まる。


「心臓、ここら辺だろ!」


剣を狼の方に向ける、決まった。タイミングが狂ったジャンプ、身体の下に構えられた剣、もう避けることはできない。


ドサッ


狼自身の体重によって剣が身体を貫通した。


グルァ……ガッ…


「うぅ……重っ」


オオカミを倒すことが出来た。が、からだの下敷きになってしまった。


「ハァ……ハァ……大丈夫か、人間……いま引っ張り出すからな」


エルフが自分の手を引くが、ボロボロの体にはあまり力が入っていない。


グルル…ガウ!


「……!まずい、もう一体が来た」


「君だけでも逃げろ!」


「……ありがとう、礼は後でする少し待っていてくれ」


エルフはヨロヨロした動きで離れていく。しかし、ロードウルフは魔獣、より魔力を多く持っているエルフを優先して襲う。


「こっちだぁー!俺を食い殺してみやがれクソ狼ー!」


ここで終わってもいい。そう思って上げた全力の叫びにより、狙いがエルフから自分へと移る。身動きができず死を悟った。


「うぁぁぁぁぁ!」


狼の牙が迫る。その時!


「ギリギリ間に合った」


アウリスが魔法の杖を構える。


「渦巻く風!」


大きな渦が発生し、狼の体が吹き飛ぶ。そしてここで意識を失った。

読んでいただきありがとうございます

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アウリス

身長155cm 体重45kg 属性 緑

固有魔法 救災の耳(クラモオーディオ)

小柄で三つ編みの魔法使い。ムスクルと共に農家として働いている。主人公とは3日で仲良くなった。森では固有魔法の力で駆けつけることができた。

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― 新着の感想 ―
いくら追加された人生とはいえ、強大な敵に立ち向かう覚悟を決められる主人公の肝の据わり具合が気になるところではあるところ。 元々利他的な人間だったのかな。
いきなりの実践でしかも遭遇したのがエルフの少女!? これぞファンダジーといった感じがどんどん濃くなってきてめちゃ面白い! すごく読みやすいし、描写も丁寧でいつの間にか物語の世界に入り込んでしまいます …
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