03 つまらない授業
☆前回のあらすじ☆
俺が勇者になると決めるまでの期間でムスクルとアウリスが賭け事をしていた
次の日、ムスクルとアウリス(師匠)から剣術や体術、そして魔法を教えてもらうことになった。
「え~と、じゃあ今日から私達が戦い方を教えようと思うんだけど、私達も農場の仕事があるから午前中はその手伝いをしてもらうわね」
「分かりました、よろしくお願いします」
言葉にするのは簡単だが、実際に教えられた農作業は大変だった。この世界に転移してきたのは11月の終わり頃、丁度ジャガイモの収穫時期である。その為畑には茶色の土に顔をのぞかせた芋が無数に並び、空気には土と青臭い芋の茎の臭いが漂っている。
「あ゛~!腰が痛い」
しゃがみこんでいるうちに太ももはじんじんと痺れ、背筋は板のように張りつめていく。広大な畑を見ると暫くはこの作業が続きそうだ。
そして午後、昼食を食べ一息ついたかと思えば体術と剣術の練習に移る。
「は~い、じゃあ今日からよろしくね」
そう言うムスクルは革鎧を着用しロングソードを装備していた。
「ムスクル師匠、自分の装備は何ですか?」
「物置小屋に色々あるわよ~。いっしょに選びましょ」
物置小屋には手入れの行き届いた剣が何本も壁にかかっていた。使い込まれてはいるが、刃は鈍っている様子がない。冒険者の歴史を感じさせる光沢が目を引く。
「う~ん…あっ!これにしよう」
一振のロングソードを手に取る、いちばん短いその剣はあまり手に馴染まない。だが直感でこれがいい気がした。
「似合ってるわよ」
「でも何故こんな剣が物置に?」
庭へ向かう途中、疑問を口にする。
「あぁそれは父が冒険者だったから、一応ランクはBだったみたい」
「なるほど」
「ちなみに私とアウリスも一応Dランクの冒険者でたまにクエストを受けているのよ」
「お~。(だから腕とかがっしりしているのか)」
庭に着くと早速剣術や体術の練習が始まる。
「まずは木剣を使って素振りからね」
日が出ている間ひたすら剣の素振りと筋トレを行った。まずは剣術の訓練についてくるための身体づくりというわけだ。地面を足で踏みしめるたびに硬い砂から拒絶されているように感じ、腕も徐々に鉛のように重くなっていく。汗が顎を伝い、地面に染みこんでいった。
その日の夜、庭の奥にある木を組んで作られた風呂に入った。
「姉さんもお兄さんもお湯の温度は大丈夫?」
アウリスが骨製の火吹き棒を吹いている。ちなみに薪の節約のために風呂に入る組み合わせと順番は公平にくじ引きで決めた。そして青年はムスクルと湯船につかることになる。
「あぁ良い湯加減だよ。鉄砲風呂に入っているみたいで新鮮な気持ちだ。ただ、ムスクル師匠ちょっと邪魔です!ただでさえ狭いのに、おじさんみたいにくつろがないでください!」
体を少し動かすだけでお湯がこぼれ、しゃがみながら空気を吹き込み続けているアウリスに被った。
「薪の節約よ~、我慢しなさ~い、もし一人で入りたかったら力ずくで放り出してみなさい」
「では体失礼します」
ムスクルの脇の下から腕をまわし持ち上げようとするが農業で鍛え上げられたその体はびくともしなかった。
「おっも!ばっかじゃねぇの」
頭頂部にできたたんこぶを冷やし、夕食をすませると今度はランプの明かりに照らされる部屋で魔法使いアウリス師匠の魔法講座が始まる。
「さて、お兄さんは勉強は得意かな?」
「生物と世界史•日本史、後は音楽と美術は得意。大学受験に向けて勉強していたからその他の科目もそこそこ出来る」
「魔法については?」
化学第一主義の世界で生まれてきた人間が魔法について勉強しているはずがなかった。
「かっこいいよね。なろう小説は参考になるか?」
「なろう小説が何か知らないけど…まあ、この世界には属性魔法と支援魔法、小魔法、固有魔法があるの。1つずつ教えていくね」
「おねがいします」
さあ授業の始まりだ。教科書?そんなものはない、師匠の言うことを万年筆で紙に書いてひたすら勉強するのだ。
「いい返事だね、まずは属性魔法についてだね。属性というのは赤•青•黄•緑があってそれぞれ火と熱、水と氷、光と雷、風を操ることが出来るの」
慣れない万年筆で要点をまとめて書き留めていく。高校の授業は1コマ50分だが、彼女の授業はいったい何時間になるのだろう。
「フムフム…ちなみに俺も魔法は使えるのかな?」
「いや、見たところお兄さんには魔法が使えるだけの魔力はないね」
せっかく剣と魔法の世界にやってきたというのに魔法が使えないなんて、神様もつまらないことをするものだ。
「次は支援魔法だね、これは対象の人の筋肉や内臓にバフをかける魔法だけどあくまで人類の身体スペックの範囲内でしか強化されない。どんなに強い支援魔法でも空は飛べないし水の中に何十分も潜ることはできない。」
「いわゆるバフか。なんでもアリじゃないんだな」
「そして小魔法だけど…まぁこれは服や身体をきれいにしたり、物を引き寄せたり、スープをかき混ぜたりといった、魔法がなくても出来ることをする怠けるための魔法だね」
青年はこの世界に来る前に数多くの小説や映画などの作品に触れていた。これらの説明を聞くと、自然と頭の中でほかにどんなことができるのだろうと想像が膨らんでいく。
「魔法使いの映画でも似たような魔法を見たことがあるよ。アクシオ!…なんてね」
アウリスの反応はいまいちだ。世界が変わると共通の話題が極端に少なくとてもつまらない。
「あとは固有魔法だけどこれは説明するだけ無駄かな?使える人は少ないけどなんでもありだからね」
「例えば?」
「私は救災の耳という固有魔法が使えるよ」
そういうとアウリスは自分の耳を強調して得意げな表情になった。
「どんな魔法?」
「半径10km 以内の悲鳴や助けを求める声を聞き逃さないという常発動型の固有魔法」
「常発動型?」
「固有魔法には常発動型と詠唱発動型と条件発動型があるの、常発動型は本人の意思に関係なく常に発動している魔法で詠唱発動型は魔法を詠唱して発動する魔法、条件発動型はそのままの意味だよ」
この固有魔法というものがこの世界の冒険における大きな障壁であり、強力な武器になることは容易に想像ができる。効果だけでなく発動にも違いがあるとのことだ。見極めが重要になるだろう。
「読んで字のごとくだね、他に気を付けることは?」
「そうだね固有魔法は一人につき1つまでしか使えないそして、属性魔法は一人一属性しか使えない。支援魔術と小魔法は色々使えるよ」
これでこの世界の魔法の概要は全てだと言う。ここでふと気になったことをアウリスに聞いてみる。
「へぇ~…あれ?アウリス師匠は緑属性魔法と固有魔法を使えて支援魔術と小魔法も使えるの?」
「勿論、魔力を持っている人なら支援と小魔法は使える人が多いよ」
「もしかして固有魔法と属性魔法と支援魔法と小魔法の全てを使えるアウリス師匠はこの世界ではかなり優秀な魔法使い?」
「いや…固有魔法で悲鳴を聞きすぎて精神を壊した結果、人口の少ないこの村に家族で引っ越すことになった無能」
魔法は便利である反面、弱点も大きいそうだ。聞いてはいけない地雷を踏んでしまった。
「…なんかごめん」
なんやかんやいろいろな魔法について一気に教えられたが、結局のところ要約するとよくあるファンタジー作品に出てくるようなものばかりだ。なろう小説をある程度予習している自分を含めた人間にとっては屁でもない。
しばらくして、アウリス師匠の魔法講座が終わり部屋に戻ると肉体と頭脳の疲労により強い睡魔に襲われる。
「(あ~疲れた。でも頑張らないと、変な死に方したら天国にいるご先祖様や彼女に怒られそう)」
ベッドに入り目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。冒険が始まるのはいつになるやら。
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ムスクル
身長181cm 体重68kg 属性 緑
固有魔法 無し
ブロンドカラーのセミロングの髪、体は筋肉質で色々デカイ。農家として働いているが冒険者でもある。パワーを活かした剣術が得意。