第8話 盾クラス
私はエメリー。王立学院盾クラスのクラス委員長だ。
なぜ私が委員長に選ばれたかというと、入学テストで一番強かったから。
入学テストの時点で私はもうすごくて、実技試験である模擬試合では、試験官だった盾クラスの担任に圧勝してしまった。
正直調子に乗っていた。後から聞いたら試験官は貴族だったので、余計に。
ペーパーテストも確かに満点だったはずなのだけれど、順位が公表されたら私はベスト10にも入っていなかった。まあ、仕方ない。
入学初日。教壇に立った教頭のジジイが私たちに最初に伝えたのは、盾クラスの担任の退職だった。曰く、体調不良らしいが、私に敗けたことがショックだったからなのは公然の秘密だ。彼も身分が貴族で、庶民の小娘に敗けたことをプライドが許さなかったのだ。
代わりにやってきたのが、アルミナ先生だった。
そのアルミナ先生に私は敗けた。
手も足も出ずに敗けた。
「いや……全然、センスあるよ、君。あと…えーっと……その、ドンマイ」
悔しさで号泣している私を見て困り果てているアルミナ先生は優しくてかっこよかった。
以来私はアルミナ先生の一番弟子を自認している。
先生本人に直接伝えたことはないけれど、そう決めた。
ちなみに盾クラスには自称アルミナ先生の弟子が結構いる。
アルミナ先生以外の先生は、いつも私たちを見下した態度をとる。盾クラスといっても他クラスの先生の授業を受けることがあるのだが、あいつらは何の足しにもならないシゴキしか受けなかった。しかも、学食では露骨に庶民の私たちは薄暗い端の方の席に追いやられる。
けれど、アルミナ先生は違った。
ある時は強盗に襲われたとき、またある時はこちらが襲うとき。
色んなシチュエーションを想定した盾の使い方を教えてくれる。
けれど。
「感心しませんね。指導カリキュラムから逸脱したことを教えるのは」
「はい…。すみません」
この学院のやり方に一番怒っているのは、アルミナ先生だと私は思う。
先生の中で一番強いのはアルミナ先生だ。けれど、世の中腕っぷしが強いだけじゃ渡っていけない。
欠員補充のための急な人事。アルミナ先生には有力者の後ろ盾なんてなかった。先生には実力以外の力がないのだ。
「先生の先生は、私の百倍強いよ。正直言って、この学院に100年通うより、1か月先生のもとで学んだ方がよほど強くなれる」
剣クラスの馬鹿貴族にイジメられているクラスメイトを助けたついでに全員ぶちのめしたらあることないこと全部私が悪いことになって、アルミナ先生ともども叱られた職員室からの帰り道。
悔しさで号泣している私の隣で、アルミナ先生は珍しく感情を顔に少し出してそう言った。
「けれど、あの人、今何しているのかさっぱりなんだ。隠居みたいな人だから。私が通っていた道場もこの前行ったら無くなっていた」
そんなあの人の偽物が王国各地に現れ始めたのは、その後くらいだった。
王立学院最年少教官アルミナをはじめとする王国各地で活躍する英雄たちは、実は同じ1人の先生のもとで武を学んでいた。そんな噂が国中に流れて、自分がその伝説の教師だと名乗る輩が続出した。
クロード先生の名を騙る偽物の登場に、アルミナ先生は大激怒していた。今すぐにでも全員を倒しに行きたがっていた先生だけど、教師としての仕事もあるから身動きができない。
だから私が調査役を買って出た。
有象無象いるクロード先生の偽物を調べ上げて、ようやく見つけた本物のクロード先生。
一見するとどこにでもいるおじさんという感じだけど、その実力は底知れなかった。
「あのジジイ…授業中ずっと魔法を使い続けてやがった!」
「普通、30秒くらいで終わるって!意味わかんない!」
初授業の後、阿鼻叫喚の地獄絵図となった訓練場にクロード先生を畏怖する声が響く。
俺が攻撃するからお前らはそれを防いでみろというシンプルな実践授業。
だがその内容は度を越していた。
(痛みはもうなくなったけど、ショックが残っている)
あの時、私はクロード先生の攻撃を見切ったと思った。
でも先生はそれさえ読み切っていて、左手で攻撃をしてきた。
絶対に隙を突いたと思ったのに。
「この盾クラスで、いいえきっとこの学院で唯一の実践的な授業」
私はそう確信する。
私は気づいている。この授業の意味は、盾に依存しない、もっと本質的な意味での防御というものを学ぶためだったのだ。
「はい、みなさん。3時限目はー、えーっと、この『図解 盾を用いた運動』の図解イラストを写す授業です。時間いっぱい、たくさん写してください」
闘いはおろか喧嘩もしたことが無さそうなおばさんが気だるそうな声でそう告げる。
私は怒られない程度に課題をこなしながら、どうやったらあの時クロード先生に一撃を食らわせられることが出来るかを頭の中でシミュレーションしていた。
次の日。
「じゃ、2回目の稽古だな。今日は、立っているだけだ。ありがたいことに今日は一日俺の授業だから、ずっと立っていてもらう」
クロード先生はそう言って私たちに立っているように命じた。
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