第4話 本物
「び、びくともしねえ……だと!?」
レキが全力で振り下ろしたロングソードの一撃は、俺に当たることなく中空で止められていた。
「うそ……レキといえば学院一の剛剣の使い手。それをあんなもう捨てる寸前みたいなバンデージで止めるなんて」
「先生はなお一層進化している。あの人にとっては身の回りすべてのものが武器だ」
俺の魔力で強化されたバンデージがレキの剣を受け止めている。
布の弾力を残してあるから正確には包み込むようにだ。
だからどれだけ力を込めようと、その太刀筋は全部受け流される。
レキが若い力に任せて何度も振るう剣を全てバンデージでいなしていく。
両手で引っ張って伸ばしたバンデージで受けとめて、たまに鞭みたいにしてレキの目や耳を叩く。
そのたびにレキはうんざりした嫌そうな顔をする。
数分間ぐらいか。
ついにレキの体力がなくなった。
「ぜぇ……はぁ……」
「降参するか?」
「誰が……盾野郎なんかに……!!」
俺は自分を盾使いだなんて言った覚えないが、それはさておき、レキは最後に大技で賭けに出るようだ。
俺から距離を取って脚に力を込める。
なるほど。ダッシュジャンプして剣を両腕で振り下ろす。
シンプルだが、お前の筋力でやれば一撃必殺だな。
だが、隙が大きすぎる。
なによりスピードが遅い。
「ほい」
すれ違い様一閃。
ジャンプして剣を振り上げる瞬間、レキの意識は目の前の敵からそれる。
そこを狙った。
空振りしたレキは首をとっさに押さえた。
「頸動脈……」
「そこまでは切ってない。この試合で一番難しかったよ」
「…………なんだよ、それ」
レキは襟が赤く染まっていくのも構わず、地面に膝をついた。
「最後の…一体何をしたのか見えませんでした……」
アルミナたちのもとに戻った俺に、エメリーが戸惑った声をあげる。
「え、どれが見えなかった?」
「……レキのダッシュ斬りは、あいつの脚力で生み出された凄まじいスピードが一番厄介。私たちの中では避けるなんて選択肢はなく、盾で受け止めるのが精いっぱい」
「レキはこの学年で一番強い子なんですよ。上下1学年ずつ合わせても5本の指には入るかな」
「ほぇ~……」
あれが?と思わず言いそうになったのをこらえる。
それいったらエメリーが傷つきそうだし。
「す、すげえ……」「あのレキがまるで手も足も出なかった」
「「「も、もしかして本物の大師匠!!?」」」
手のひらくるくるだな。
今じゃコロッセオ中が俺のことを支持している。
やれ「クロード先生」だの「レキを看護しろ」だの「私たちの立場が……」だのの声が響きあい、観衆たちは観客席を乗り越えてただただ騒ぎ出すわで収集がつかなくなってきた。
そんな中グッドナイフが居心地悪そうにすごすご退散しようとしているが、素行の悪そうな生徒に捕まってしまった。
「おい!てめえもクロード先生と闘えよ!!」
「いつも俺たちにえらそうな口きいてたんだからできるよな!!」
「や、やめろ!お前たち!先生に何をする!!」
「お前なんか先生じゃねえよ!!」
もみくちゃ…というよりボコボコだなあれは。
なんて眺めていたら俺の脇をコインがすさまじいスピードで飛んでいき、グッドナイフの後頭部に直撃。
グッドナイフは気絶した。
「先生が騒ぎに加担してどうする」
「しーっ。一回あいつに一撃食らわしたかったですよ」
「アルミナ先生。アステミス地方の盾の偽物が動き出したようです」
人ごみをかき分けて近づいてきた生徒がアルミナにそう囁く。
そっち忘れてた。
一昨日まで田舎の誰もいない道場で稽古していた俺だったのに、人生何が起こるかわからないな。
俺は今日から王立学院の先生になった。
そして王国中にいる俺の偽物を倒すこともしなくちゃならない。きっとアルミナみたいにかつての教え子たちが困っているだろうからな。
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