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想いは時を越え  作者: 月夜
第参武将 想いは時を越え
11/11

3 想いは時を越え

 今は文より才蔵のことが気になるというのに。

 前に甲斐を訪れた際に才蔵の姿はなく、その数日後、私の城に現れた才蔵は信長についたと言い残し、理由も応えないまま私の前から姿を消した。


 そんな事があったあとの武将達からの文。

 私は悩んだ。

 文を誰に出すかもだが、それ以上に才蔵のことが気になって仕方がない。


 真田十勇士の仲間と仲がよく、幸村を慕ってた才蔵。

 そんな才蔵が理由もなく皆を裏切るはずがない。


 だが今は、この目の前の文をどうするか。

 私は誰を選ぶなんて出来ない。

 どうしたらいいのかわからず文に視線を落とすと、一通多くあることに気づく。


 確かに届いたのは、信長、信玄、政宗、謙信の四通だったはず。

 なのに私の前にある文は五通。

 最後の一通を手に取り開くと、綴られた文字を読む。



 俺にこんなこと言われても困らせることはわかってる。

 それでも、俺はお前を好いていると伝えておきたかった。

 アンタは笑ってろ。

 俺はその未来を望んでる。

 もしアンタに何かあれば、俺は時を越えてでもアンタを守る。


 そう綴られた文の最後には、ハッキリと才蔵の名が書かれていた。

 私の瞳からは涙が溢れ視界が歪む。

 ぽたぽたと頬を伝い落ちる涙は文を濡らし文字が滲む。




「っ、才蔵……」




 私は涙を拭くと筆を取り、文に文字を綴る。

 決めた一人に贈る私の気持ちを込めた手紙。


 筆を置き、私はその手紙を届けてもらうため女中を呼ぼうとしたとき、城内が騒がしく煙が立ち込めていることに気づく。

 何事かと思い襖を開けると、すでに火の手は私の部屋にまで来ていた。


 逃げるために通路を走るが、天井から崩れてきた柱の下敷きとなり身動きが取れなくなる。

 あの人に伝えたかった想いを綴った手紙をぐっと握り締め、私はその人の名を口にして息絶えた。


 そう、その文を送る相手は――。



「おい、どうしたんだよボケっとして。っ……!?」




 突然苦無が展示されているらしい前で立ち尽くしていた私に才蔵から声をかけられる。

 すると頬には涙が伝い、その姿を見て才蔵が驚いた表情を浮かべている。

 でも、思い出してしまった。

 あの文を送るはずだった相手も、前世での事全て。


 私は静かに才蔵に尋ねる。

 何故才蔵は佐助達を裏切ったのか。

 前世の私は裏切ったなんて信じられなかった。

 きっと何か理由があった筈だから。




「あの日私のお城に現れた才蔵は、理由を話そうとはしてくれなかった」


「アンタ、まさか思い出したのか」




 才蔵は黙り込むと、私の真剣な表情を見て諦めたように話す。

 才蔵が裏切った理由、それは、私だった。


 あの時信長は手段を選ばず、無理矢理にでも私を自分のものにするつもりだった。

 文の返事が自分ではない誰かに宛てられたら、私を殺すつもりでいた。


 そんな信長から私を守るため、才蔵は信長についた。

 怪しい動きがあればすぐに気づくことができるから。


 でも、それは意味のないものになってしまった。

 守るはずだった私の城は燃やされ、姫も亡くなってしまったから。


 城に火を放ったのは、私に好意を寄せている武将達の姫を葬る為のことだった。

 姫を葬れば、文を送った者の中の仕業だと思うに違いないと思った者たちの仕業だった。




「俺は何もできなかった。俺のしたことに意味はなかったんだ」


「こんなこと、誰にも想像できなかったと思う。それに文での言葉をこうして守ってくれてる」



 才蔵は手紙で『アンタに何かあれば、俺は時を越えてでもアンタを守る』そう書いていた。

 その言葉通りこうして守るために、私の前に現れてくれた。

 現代に現れた信長から私を守るために。




「姫が最後に残した手紙、それは才蔵宛だったんだよ」


「俺……」




 私は前世の気持ちを才蔵に伝えるため、あの文に姫が綴った文字を言葉にして伝える。



 才蔵、私もアナタを好いていました。

 佐助達を裏切ったことにも理由があると信じています。

 だからいつか、また甲斐で皆と一緒の時間を過ごしましょう。

 もしそれが叶わずとも、来世でまた出会える事を祈ります。



 才蔵に届くはずだった手紙。

 それは時を越えて現代でようやく届けられた。

 姫の想いと共に。




「そういうことであったか」


「まさか俺達全員負けてたとはな」


「無理矢理にでも俺の物にしたところだが、死んだものはどうにもならんな」




 話を聞いていた信玄、政宗、信長の声が聞こえ視線を向ける。

 すると武将達の姿が透け始めていた。


 真実がわかったことで未練がなくなったのだろう。

 姫はもういない今真実がわかれば、もう現代に残る理由はない。




「皆、いっちゃうんだね」




 秀吉、光秀の姿が消え。

 信長、信玄、謙信、政宗の姿も消える。




「才蔵、お前のしたことはどんな理由があっても裏切りだ。だが、生まれ変わったらまたお前とバカやるのもいいかもな」




 佐助はほんの少しの笑みを浮かべ姿を消す。

 そして最後は才蔵。




「これでこの世ともお別れだな」


「うん、そうだね」


「また暗い顔になってんぞ。アンタは笑ってろ。じゃねーと、俺がここに居る意味がねーじゃねーか」




 私が今できる精一杯の笑顔を才蔵に向けると「じゃあな」と言い残し、才蔵の姿も消えた。

 静かになった空間。

 目の前には展示されている苦無。


 この苦無にひかれたのはきっと、前世の私が好きだった才蔵がいつも持っていたからだろう。

 でも、有名な武将のみの物が展示されているはずなのに、何故この苦無はあるのか。




「あ、いた! こんなところで何してるの?」


「美海が先にどんどん行っちゃうからじゃん」


「ごめんごめん。あ、この苦無、確か謎の苦無なんだよね」




 美海の話によるとこの苦無は、誰が使っていたのかわからない物らしい。

 なら何故そんな物が展示されているのか聞くと、くないの持ちて部分に名前が刻まれているらしく、その名はどの忍びでも武将でもないことから謎とされているため展示しているらしい。


 苦無をじっと見てみると、確かに何か刻まれている。

 その名を読んで私はすぐに誰の物からわかった。


 刻まれていた名は私の前世での名。

 そしてこの苦無を持っていたのは才蔵。

 これは姫が才蔵に初めて贈った物だから。




「どうしたの? ニヤニヤしちゃって」


「何でもない。あ、武将達成仏したからね」


「え!? それどういうこと」




 話が見えない美海に尋ねられ、私は展示を見て回りながら美海に話す。

 これはきっと、姫が武将達に伝えたかったことを私に伝えてほしかったのだろう。



 小旅行から帰り、武将達が成仏して数日が経った。

 なんだかあの騒がしさが懐かしく感じてしまい、例のアプリを久しぶりに開く。


 ストーリーを勧めて行くと才蔵が出てきた。

 なんだかストーリーが皆を見ているみたいで自然と笑みが溢れる。

 そしてストーリーを進めていき、私が誰を攻略対象に選択していたのかがわかった。

 適当に選んだから覚えていなかったが、そこにはハッキリ書かれている。




「霧隠 才蔵……」




 その名を口にした瞬間涙が溢れだす。

 私は姫じゃないし、才蔵のことを恋愛としても見ていなかった。

 なのにどうしてこんなに切ないのか。

 姫の記憶や想いを見たからなのか、それとも私は前世と同じ人に惹かれていたのか。


 自分の気持ちはわからない。

 ただハッキリしていることはある。

 もう現代に彼らはいないということ。


 いたときは五月蝿くて早く成仏してほしいと思っていたのに、いつからこんなに彼らといることが当たり前になっていたのだろう。



 そんな日々を過ごし、今日は冬休み明けの登校日。

 相変わらずお母さんに起こされ遅刻ギリギリで教室に到着。




「冬休み明け早々に遅刻ギリギリじゃん」


「いや、だってさ。寒くてなかなか布団から出られなかったんだもん」




 私の普通の日常。

 これが、ミニ武将達が現れる前の私の毎日。

 それがまた始まる。


 そんな私の隣の席に誰かが座る。

 確か隣はずっと不登校で学校に来ていなかった筈。

 なんでも他の学校では喧嘩などをしていたなどの噂を聞いていた。

 とりあえず関わらないように視線を前に固定していると、相手から声をかけられ恐る恐る振り返る。




「なあ、アンタ、どっかで俺と会ったか?」


「さい、ぞう……」




 そこにいたのは、才蔵とそっくり男子。

 でも、才蔵は成仏したしこんな人のサイズな筈がない。

 きっとそっくりさんなんだろうけど、うりふたつだ。




「おーい」


「あ、えっと。初めてだと思うよ」


「だよな。でもなんかさ、懐かしいっつーかよくわかんねー感情になるんだよな、アンタ見てると」




 時を越えて私の前に現れたミニ武将達。

 もしかしたら、目の前にいるのは才蔵の――。


 時を超えた想いの繋がり。

 それは現代に届き繋がっていく。



《完》

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