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第20話 新しい拠点


 それから俺は、『楽園(拠点)』造りに再び取りかかった。

 大神木を探すにしても、しっかりした拠点は必要だ。


 まずは雨風をしのげる家屋を創る。レオンさんの研究所を創ったときと同じ要領だ。GPの消費もそれほどではない。


「ラクター君。収納スペースは多い方がいいと思います」

「ああ、たしかに。――こんな感じか?」

「ええ。良いですね」


 適宜、レオンさんに意見を聞きながら進めていく。

 ここは探索拠点にする予定だ。居住性もそうだが、採取・取得した諸々や旅の道具を保管する空間も必要になる。余裕があったら、地下室を創るのもいいかもしれない。

【楽園創造者】のいいところは、リアル建設現場みたいな騒音がほとんどないことだ。おかげで花のベッドの上で眠るアン――そのまますっぽり建物の中に入れ込んだ――を起こさずに済む。


 さて、次は。


「おいリーニャ。起きろ」

「むにゃ? 主様……周囲に敵はいないよ?」

「敵が来たときに対応できるように、お前の意見も聞いておきたい」


 神獣少女がハンモックから降りる。

 よほど気持ちよかったのか、さらさらの銀髪が一部ハネている。が、リーニャが気にしていたのは獣耳の毛並みだった。オルランシア族にとってはそっちの方が大事なのか。

 結果、寝癖がついたままドヤ顔される。


「リーニャがいれば安心。リーニャ最強の武器で壁。ふん」

「その点を疑っちゃいないよ。問題は、俺たちがここを留守にしたときだ」


 新しい拠点は周囲より一メートルほど高台にある。周囲の木々は密度が薄く、見晴らしがよい。

 逆に言えば、相手からもこちらはよく見えるということだ。


「リーニャがもしここを襲うとしたら――」

「!? リーニャ主様襲わないよ! 襲うくらいなら降参する」

「もしも、の話だ」


 相変わらず忠義に厚い娘だと思いながら、説明する。

 リーニャは神獣のリーダーとして、周囲の獣たちを支配下に置ける。その彼女から見て、どんな場所なら襲うのをためらうか――とたずねた。

 神獣少女はしばらく考え、口を開く。心なしか尻尾がぶわっとしていた。


「自分より強いモノ、自分より序列が上のモノがいるところは襲わない。だから、この場所にリーニャがいれば、だいたいの獣は襲ってこない。襲ってくる奴がいたら、わからせてから喰う」


 物騒な。つまり絶対許さんということか。


「あとは……音とか、匂いとか、苦手なモノがあると近づきたくない。だからリーニャ、ちっさい人間がいるところは苦手。主様、ずっとあのユラユラ使ってもいい?」


 ハンモックのことだ。「いいよ」とうなずくと抱きつかれたので、引っぺがす。

 リーニャはむくれながらも、話を続けた。


「匂いが感じられないときは、見えない場所にいかない。なにがあるかわからないから」

「ああ、なるほど。つまり四方を囲って中が見えないようにすれば、警戒心の強い奴は近寄ってこないってことか」


 俺が何度もうなずいていると、リーニャは袖を引いてきた。上空を指さす。


「獣は地を這う奴らだけじゃない」


 鳥か。魔力におかされた魔獣の類にも、空を飛ぶ奴はいる。あとはそう、ドラゴンとか。空にだってヤベぇ奴はヤベぇ。


 それなら。


 俺は拠点の真ん中に立った。

 イメージを、積み重ねる。


『神力の高まりを感知しました。消費GP増大。消耗度を速報します』


 まるで優秀なオペレーターのように、女神アルマディアが情報を告げる。同時に、視界の隅にGPの値がグラフ化されて出現した。

 アルマディアは、俺がやろうとしていることをちゃんと把握してくれている。


 GP予測消費量がグラフ上で点滅し始めた。その量――最大値の半分。

 今日使えるGPのほとんどを絞り出すつもりで、俺は神力を解放した。


 ――楽園創造。


 拠点全体をドーム状に包む青い光。

 地面から天辺まで、隙間なく青い壁で覆われた――と思った次の瞬間、青壁は色を失う。


「んにゃ?」


 リーニャが変な声を出して首を傾げた。

 無理もない。

 今、俺たちの視界に広がるのは森と青空――さっきまでとなんら変わらない景色なのだから。


 俺は『楽園(拠点)』の境まで歩いた。パッと見、何もない空間に手を伸ばす。

 扉をノックするように、叩く。

 コンコン、と確かな感触が返ってきた。


「主様、主様。なんか変な扉ができてる」


 リーニャが尻尾を振りながら呼んできた。外縁の一角に、ドンと鉄製の扉が生えていた。両開きで、全部開けば荷馬車も十分通れるほどの大きさ。

 扉を見て、俺を見て、また扉を見て――リーニャが何度も繰り返しながら尻尾をパタパタさせるので、俺は彼女を手招きして、一緒に扉を開けた。


 外に出る。

 そして振り返る。


「おおおおっ!」


 尻尾と獣耳がピンと立つリーニャ。


 そこには、濃緑色の頑丈そうなドームが鎮座していた。ちょっとしたシェルターのような趣だ。

 もちろん、内部の様子はまったく見えない。


「すごい! 不思議! 大きい! 強そう! 主様すごい!」

「良い反応だな、リーニャ」


 語彙力が少ない神獣少女の称賛に、俺はまんざらでもない気持ちだった。


 外から見えず、中からは見える。

 マジックミラーの要領だ。や、正確に言うなら原理は違うが。確かアレ、明るい側から暗い側を見えなくするガラスだっけ。

 こちらは単純に、いつでもどんな環境でも中から外を見ることができるので、原理としてはだいぶぶっ飛んでいる。やっぱ女神様の力ってすげえのな。


「防御性能はこれでかなりマシになったはずだ」

「じゃあ試す」

「やめてくれ」


 強度に不安はないが、リーニャの一撃に耐えられるかどうかはわからない。普通に素手で大穴空けそうだもんな、この娘。


『おめでとうございます。この建造物の創造により、ラクター様のレベルを11に引き上げました。順調に成長されていること、嬉しく思います』

「ありがとう」

『この調子なら、人間でいう賢者レベルの魔法ならすぐにでも使いこなせそうですね』


 賢者か。あんまり嬉しくない。アルマディアは純粋に褒めてくれたんだろうけど。


 まあとにかく、これで拠点としての形は整ったわけだ。

 レオンさんとアンも、この中から大丈夫だろう。

 安心して出発できるというものだ。


 レオンさんにこのことを伝えようとドームの扉を開く。


 そのとき、空から一羽の鳥が舞い降りてきた。


「お前、ヴォカロか。よくここがわかったな」


 ヴォカロ。イリス姫が伝令用にテイムした、あの白い鳥だった。

 




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