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第2話 自由への旅立ち


 酒場を出た俺は、拠点として使っていた安宿に戻った。

 荷物をまとめるためだ。

 ただ寝るためだけの部屋だったけど、それなりに愛着はある。宿の親父さんも、その娘さんもいい人だった。俺が出て行くと話すと驚いていたな。


「よし、と」


 綺麗にした部屋から、街の様子を見る。


 ――ルマトゥーラ王国の王都スクード。それがこの街の名前。

 にぎやかで、活気のある街だ。王都にしては少々治安が悪いのは玉に瑕だが。

 あの自惚れ勇者スカルの影響か、最近は腕自慢ばかりが幅を利かせるようになってしまった。


 力がないのは確かに不安。

 けど、何とかなるさ。もう他人から命令されるのはうんざりだ。

 とにかく勇者がいない別の街へ行きたい。


 世話になった人たちに別れを告げ、俺は王都を出発した。

 荷馬車に乗せてもらい、荷台に寝転がる。


「次はどこに行こうかな。しばらくはひとりでのんびりしたいし」


 地図を開きながら、俺はウキウキしていた。


 ――ふと、イリス姫のことが頭に浮かぶ。


「姫様へは、いつかちゃんとお礼を言わないとな」


 起き上がる。王都の城壁が、ゆっくりと遠ざかっていく。


 荷馬車に揺られながら、俺は昔を思い出していた。

 昔と言っても、勇者のパワハラに耐える生活のずっと前――()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺は、転生者である。


 サラリーマンとして働いていた俺は、働き過ぎで命を落とした。転生前も後も大して変わらなかったのが笑える。

 ただ、あのときの俺には幼馴染がいた。

 同じ会社で、同じようにボロ布となってこき使われていたアイツ。俺よりも馬鹿正直で、真面目で、一生懸命だった。


 だからか、俺より先に逝ってしまった。


 俺はあのときから、自分にひとつ、小さな信念を持たせるようになった。

 一生懸命に生きる奴をリスペクト(大切に)しよう。

 この信念は今でも変わらない。


 異世界に転生したと知ったときから、この信念に沿って生きると心に決めた。だから勇者に憧れ、勇者パーティの一員にもなった。

 勇者は幻想だとこうして思い知らされたワケだが……。


 勇者パーティから解放された今、俺は改めて誓った。

 一生懸命生きていても報われない奴の力になろう。

 自由に旅をするにしても、ひとりでのんびりスローライフするにしても、リスペクトは忘れない。それを俺の目標にしよう。


「……ま、転生者のクセに力がないってのは何だかなあ」


 俺は苦笑した。


 ――がくん、と衝撃が走る。

 荷馬車が突然、スピードを上げたのだ。


「ど、どうしたんだおじさん!?」

「すまんねえお兄さん。ちょっとヤバそうな場所なんで、急いで抜けるよ」


 御者のおじさんが教えてくれる。

 荷台から辺りを見渡す。

 進行方向の左手。街道から少し外れた丘のふもとに、大きな馬車の残骸があった。手ひどく破壊されている。魔物か、それとも野盗に襲撃されたのか。


 ――スカウトは、目を鍛えている。

 残骸の下で、懸命に起き上がろうとする人影を見つけた。


「おじさん。俺、ここで降りる」

「え!? ちょ、ちょっとアンタ!」


 御者のおじさんが止める間もなく荷台から飛び降りる。

 結構な速度が出ていたが、受け身を取って立ち上がる。これもスカウトで身のこなしを鍛えたおかげだ。


「おい、大丈夫か!」


 破壊された馬車に駆け寄る。

 そして顔をしかめた。


 見つけたのは真っ黒に汚れた女の人。

 起き上がろうとしてもがいているのは、破壊された馬車の下敷きになっていたから。

 両手足には鉄の枷――奴隷だ。

 馬車は、奴隷を運ぶための檻だったのだ。


「……くっそ!」


 馬車に手をかける。ぬるりとした。臭いも凄かった。だけどそんなことはどうでもいい。

 全身の力を総動員して、持ち上げようとする。


「ちく、しょう。ぴくりとも動かない!」


 何か使えそうなものはないか――せわしなく、辺りを見る。


 ちゃら、と鎖がこすれる音がした。

 奴隷の女性が、俺の足にすがっていた。


「たすけて……くれるのですか……?」


 か細い声でそう尋ねてきた彼女は、顔全体が血と泥で赤黒く染まっていた。

 ――きっと、多くの人が見捨てたのだろう。彼女の怖ろしい姿と、この有様を見て。


「こんな私を、たすけてく――」

「助ける!!」


 言葉をかぶせた。


「あんた、生き残りたいんだろう!? 自由になりたいんだろう!? そのために、立ち上がろうとしているんだろう!? だったら助けてやるよ、ちくしょうクソ重いっ、なんだこの馬車!」


 ヤケクソ気味に叫びながら、それでも諦めず力を込める。

 そんな俺を見た彼女の身体が――不意に、輝き始めた。


「あなたのような方を探していました」

「え……?」


 目を丸くする俺の前で、女性の背中から白い翼が生える。

 なに? なにがどうなってるんだ?


「私は女神アルマディア。当代の勇者におとしめられ、こうして奴隷の身に落ちていました」

「女神!? それに当代の勇者って……まさかスカルか!?」

「はい」


 あいつ。女神まで奴隷にした上に捨てるって、どういう神経してるんだ。


 女神アルマディアの身体からは、光の粒子がこぼれおちている。心なしか、身体が透き通っているようだ。


「私の身体は、もう長く保ちません。ですから、私の全てをあなたに捧げます。どうか受け取って下さい。異世界から生まれ変わった方」


 そうか、女神だから俺が転生者だとわかったのか。


「本来、人間の魂と女神の魂は同居できません。しかし、転生者の魂は別……ここで出逢えたのはまさに運命です。どうか私の力――『楽園創造の力』を受け取って下さい」


 楽園創造。

 それはもしかして、自由に理想郷を創り上げる力ってことか!?


「そうです。あなたは今このときから――」


 光となった女神が、俺とひとつになる――!


『世界でただ一人の【楽園創造者】となるのです』  




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