57.最終決戦(後)
神としての全力を解放した桔梗と、大蛇の戦いは壮絶なものだった。それこそ人間であるボクたちには全てを理解することが出来ないくらい。ボクが認識できたものとしては、
大蛇が尾を鞭のように横薙に振り抜いてくるのを桔梗は跳躍で回避。
『その程度なら当たりはしません』
『ソノヨウナ事ハ百モ承知!』
と、飛んでいる桔梗に向かって、尾を振り抜いた勢いで回転した大蛇が体当たりを仕掛ける。それを、
『せいっ!!』
と回し蹴りで反撃する桔梗。正直このくらいの本人たちにとってはジャブ程度のものしか、何が起きてるか分からない。
今も目で追えない速さでの攻防が行われていて、援護に入りたいけど入れない状態なんだよね。
っと、桔梗と大蛇が距離を取った。というかボクたちの目の前にズザァッと着地してびっくりした。
『はぁ、このままでは平行線ですね。向こうの方が図体が大きい分、体力もあるでしょうし・・・』
「桔梗、大丈夫?交代しようか?時間稼ぎくらいにはなると思うけど」
このままだと桔梗の方が体力切れで負けそうな気がする。
『何を言いますか!モミジ、あなたも狙われているんですよ。そしてあなたは私と違い人間です。あなたに倒れられては、私は何のために戦っているというのですか!?』
怒られちゃった。というか、
「え、桔梗は自分の為に戦ってるんじゃないの?」
『ええ、あなたが狙われると分かるまでは。しかし、あなたも狙われていると知った今、私はあなたのために戦います。あなたが堕ちてはとんでもないですし、あなたに比べれば私程度』
「それ以上は言わせないよ」
まったく、なんで自分を卑下するかなあ。ボクにとっても桔梗は大切なのにさあ。
「それに、桔梗は自分だけで戦おうとしてるでしょ。確かにボクたちは桔梗に比べれば遅いし、弱いよ。けど、ボクたちには物量がある。昔から戦争は質より量だっていうでしょ?驕り高ぶってるあいつをボクたちが数の暴力で打ちのめしたらさ。すっきりしない?」
それに、ボクたちには頼もしい人たちがいるんだし。
『むう・・・まだあなたたちに戦わせるのには抵抗がありますが、そこまで言われては仕方ありません。ですが、くれぐれも危険と感じたら逃げるように。彼奴は今まであなたたちが相対してきたどの敵よりも強大で、厄介ですから』
その忠告に、全員で頷く。
『オ喋リハ終ワッタカ、小娘共』
『ええ、貴様が傷を癒すのに手こずっていたおかげで』
『ナニヲホザクカト思エバ。ソノヨウナ嘘デ我ヲ騙セルト思ウタカ』
カカカッと嗤う大蛇。五月蝿いなあ。
『そうですか。嘘だと思うなら結構。このまま行かせて頂きます!』
「来なよ。戦いは数だってことを教えてあげるから」
と言っても、神々はあいつの式神駆除に勤しんでいて、動けるのは眷属や分身体という本体よりも幾分か弱体化してる。だから、数でやる。
『もう出し惜しみはしません。ここで力尽き倒れようとも、貴様を消し去ってみせます』
『ホザケ!』
本来ならほとんど戦えないボクたち、特にボクとお姉ちゃん以外は現実ではこの大蛇を見ることすら出来ない。けれど、ここでは違う。システムが許容している最高レベルに到達し、武器や防具も1級のもので揃えている。だから、簡単にはやらせないよ。
「遅いのです!」
「頭上がお留守よ?」
これまでの戦い方と違い、サキとお姉ちゃんには上空からの攻撃をしてもらう。制空権を取っていれば、大蛇は1人に集中できなくなるからね。
『こっちも小さい奴らが片付けば加勢できるんだけどねぇ』
「そうじゃな。儂らも本気で加勢したいが、まだ数が多いからのう」
『モミジ、もう少しだけ時間稼ぎをお願いします。もう少しで術式が練れますので』
「了解!」
『サセヌゾ』
「だから、お前の相手はこっちだって」
色々な方向から攻撃することで、大蛇の移動を阻む。さらに1人に集中させないことで常に誰かが攻撃する状況を作り出すことができた。
でも、ボクたちの力だと悔しいけど、大蛇に致命的な一撃を与えることはできない。
『モミジたち、避けてください!』
「っ、はいよ!」
桔梗が叫んで、ボクたちが避ける。すると、轟速で飛んできた桔梗が蒼い炎を纏い、大蛇に突撃した!
『グガァァ!!』
初めて大蛇が悶絶して、黒いオーラが砕け散り霧散した。
『はぁ、はぁ、今です!全力で攻撃を!』
「はいなのです!」
「くらってみなさい!」
大蛇が硬直したタイミングで一斉に攻撃。ここで初めて、大蛇に傷を付けることに成功した。
『貴様ラ・・・許サヌゾ!全員マトメテ消シ去ッテクレルワ!』
「それはこっちの台詞よ〜」
それからしばらく、ボクたちと大蛇の攻防が続いた。大蛇の攻撃をくらうことは無かったけど、かといってボクたちで大蛇を倒せそうかというと、否。
「このままじゃ埒が明かないね・・・」
「そうね・・・。って、モミジ後ろ!」
「え?きゃっ」
背後から近づく小さな蛇に気づかず、軽く噛まれてしまった。
「いたた・・・。なんか、左手が重くなってきた気が」
『いけない!怨念が入り込んだのかも。見せて下さい』
「大蛇は任せて〜」
桔梗に腕を見せる。その間にも腕の痛みと重みは強くなった。
『これは・・・。ふっ・・・くぅっ』
桔梗が手をかざすと、真っ黒な何かが桔梗に吸い込まれていった。桔梗が苦しそうな声を上げて、顔を顰めてる。まさか・・・。
「桔梗、怨念吸い取った訳じゃないよね?」
『その通り、ですよ・・・。言ったでしょう、あなたの為に・・・戦うと』
「だからって!」
『大丈夫、です。しかし・・・。私のモミジに傷をつけた彼奴には、もう出し惜しみはしません。たとえ私の力が全て消えようとも、彼奴は消し去ります。これ以上の被害を抑えるために』
桔梗の纏う雰囲気がさらに強まり、桔梗の瞳が輝いた。
『もう、終わりにします。貴様はここで消す』
桔梗が一瞬で大蛇に近づき、大蛇を殴り飛ばした!
『くっ、これ以上は持ちませんか・・・。ですが、私にしか彼奴を倒すことは不可能。ならば、私がやらねば!』
ボクたちが止める間もなく桔梗は大蛇に攻撃を続ける。そして大蛇の動きが止まり、瀕死になったところで・・・。
『これで終わらせます。私の力、全てを使った一撃。受けてみなさい!』
何をするかは分からないけど、それをやらせてはいけない気がする。
『はぁぁっ!』
桔梗の周囲の全てが集束し、光線が放たれた。まるで、昔のアニメであったどこかの戦闘種族の放つ波動みたいな。
『グガァァッ!オノレ・・・イや・・・アりガとう・・・。小さき狐よ・・・』
その言葉を残し、大蛇は消滅した。
そして、桔梗が倒れ込んだ。
「桔梗!」
「ふふ・・・モミジ、私やりましたよ。因縁にけりを付けることができたんです。でも、もう限界みたいですね。モミジ、お先に失礼しますね」
そう言って、桔梗は消えた。
「そんな・・・桔梗、きみが居なくなったら意味ないじゃないか」
こんな状態で勝利とは言えない。
けど、桔梗の最初の目標・・・大蛇を消滅させる・・・というのは、納得いかないけど達成されたことになる。
「モミジ。あなたは残されたんじゃなくて、これからを託されたと考えましょう」
「うん・・・。そうだね。そうしよう」
次回、最終回!
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