6.どうやら需要はあるようで
「やあ、こんにちは。こんばんはかな?今日もボクの配信を見てくれてありがとう。今日もいつものようにやっていくから、よろしく」
『こんばんは先輩!』
『ヨッシャ今日も始まった!』
『睡眠導入配信きちゃー』
『さて、今日も百合の花を見るとするかね』
配信を始めた日から数週間が経ち。意外にも、視聴者数は着実に増えていった。現状、配信開始から見てくれる人はトウカを含め5人ほど、それから段々と増えていき配信終了時点では30人程の視聴者が見てくれている。
「なんだい百合の花って・・・。まあいいか、それじゃあボクは釣りながらコメントに反応していくので、話したいことがあれば言ってくれるかな」
ボクの配信内容は、冒険の様子を配信しても埋もれることは分かっているので、その逆、全く冒険要素を取り入れない配信を主にしている。例えば、今のようにただ釣り糸を垂らしながら視聴者のコメントに反応するとか。神社に参拝して、帰りに何かめぼしいものを買って帰るとか。後者はワンチャン本人に出会えるということでなんだかんだ人気らしい。確かに、推しと会えるといえばそうなのかも。ただ推しに認知されたくない派閥の人は来ないけど。
『モミジちゃん聞いてくれよ』
「ん、どうしたんだい?」
『今日仕事帰りにコンビニ寄ったら変質者が出た』
「・・・はい?」
『思考停止中w』
『モミジちゃんもフリーズする文脈w』
『草』
「え〜っと?変質者が?コンビニに出た?」
『そうそう。セーラー服着たおじさんが』
『ベタなやつw』
『たまにいるよな、セーラーおじさん』
『セーラーおじさんだとただの水夫なんよ』
「セーラー服を着たおじさんならボクの地方でもたまに見るからね、何度も遭えば慣れるよ。っと、ひいてる。んぐぐ、えいっ」
<ウノアユを釣り上げた>
「ウノアユか。まあまあかな」
『本日初釣果おめ』
『鮎か〜』
『さっきのやつ流れたな』
『俺の話なんざモミジちゃんの釣果に比べれば泥のようなもの』
「ごめんね。できるだけ話を広げたいんだけどねぇ。タイミングが噛み合わないね」
『だがそのゆるさがイイ』
『モミジさんにはモミジさんの良さがあるのだ』
『どうせ最後の料理で伏線になるからヨシ』
そうこうする間に日も暮れ、辺りは暗くなってくる。
「おや、今日は星がよく見えるね」
『え?私何も見えない』
『同じく』
『モミジちゃん目良すぎ問題』
「そうかな?では明かりを一度消してみよう」
ボクは部屋の明かりを消す。すると夜空に瞬く星々がよりはっきりと見えるようになった。
『うお、すげえ』
『現実じゃ山にでも登らないと見れない景色がここでははっきりと』
『他の配信じゃ中々見れんぞ、こんな景色』
「みんなも見れたかい?中々いいね、この夜空は」
再び明かりをつけ、釣り続行。
「・・・くしゅんっ。少しばかり寒くなったな」
何かないかと周りを見渡せば、ゆらゆらと揺れる暖かそうな毛布が3本。
「・・・よいしょ」
ボクはその尻尾を体に巻きつけるように動かす。ボクの体は尻尾でもこもこな状態に。
『なにこのかわいい生き物』
『ふわふわ・・・あったか・・・』
『これがあるからモミジちゃんの配信はやめられん』
『せんぱいかわいい』
『脳が溶けてる人いない?w』
「いきなり騒がしくなるんじゃないよ。別にサービスショットな訳じゃないんだから」
『え無自覚?』
『嘘だろ?』
『せんぱいかわいい』
『おーい後輩戻ってこいw』
「もう、みんな落ち着きなよ。次の質問どうぞ?」
『モミジさんに質問です!好きなアーティストやグループは何ですか?』
「好きなアーティスト、か。生憎ボクはバンドばかり聴いているものでね。あまりアーティストやグループの知識はないんだ。好きなバンドでいいなら答えられるけど」
『バンドでもオッケーです』
「なら、人○椅子」
『んなw』
『渋いというかなんというか』
『分からん・・・反応できてるのは知ってる人たち?』
『まさかのヘヴィメタ』
『いや古っ』
「いいだろ、好きなんだから。まあ、確かに古いとは思うけど」
『逆に何で好きになったん?』
『理由教えて』
『実は結構歳いってる説』
「失礼な。詳しくは控えるけどボクはまだ若いよ。と、理由だったね。そうだね・・・昔、とある人に勧められてね。試しに聴いてみたら好きになったんだよ」
『男か!?』
『誰だ誰だ』
『色恋か?』
「なんですぐそうなっちゃうかな。違う違う」
『なーんだ、残念』
『いやまだ誤魔化しの可能性も』
「誤魔化してないから!」
『他に好きなバンドあるの?打つの遅くて追いつけん泣』
「他に?色々あるけど、まあ往年のハードロックとかヘヴィメタルとか。あとは・・・打○獄門とか?」
『またコアなバンドがw』
『なっつ』
『でた〜!名前と内容が合ってなさすぎるやつ〜!』
『また着いてこれない視聴者でるぞw』
『分からん・・・』
「やっぱり一部では有名だよね、あれは。ボクはサブスクでよく聴いているよ」
『理由はなんとなく察せるけど聞きたい』
『なんで好きになったん?』
「まあ、とある人の影響、だね。それから色々と聞くようになった」
『やっぱりかー!』
『予想はついてた』
『ま た か』
「ついてこれてない視聴者さんが増えるからこの話は終わろうか。・・・おや。もうこんな時間。そろそろ終わる準備をしよう」
『来ましたモミジちゃん恒例終わり間際のお料理コーナー』
『魚の知識が増える』
『これ見ちゃうとお腹減るんだけどつい見ちゃう』
「今日釣れたこの鮎を使って塩焼きを作るとしよう。と言ってもシステムで自動調理なんだけどね」
『流石にそこまで作りこめんか』
『技術の発展に期待』
キッチンに立って、料理コマンドを押す。すると調理可能な食材が表示され、その中から先程釣り上げたウノアユを選び、調理開始を押す。するとボクの体は自動で動き、鮎の腹を裂いて内臓を取り出し。鮎の口からエラヘ串を刺し、鮎の身を曲げてもう一度刺して骨を避けて貫通させる。そして網の上に置いて塩を振り、焼き上げる。
<ウノアユの塩焼きを入手しました>
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≪ウノアユの塩焼き≫
ウノアユをじっくり焼き上げた逸品。香魚とも呼ばれるウノアユからはほのかな香りがある。
HP回復30
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「完成。鮎の塩焼きだね」
『流石日本製、料理まで手がこんでいる』
『めっちゃ美味そう』
『魚食べたくなってきた』
『明日の夕飯、魚にしよ』
「それじゃ、料理も終わったことだし、今日の配信はおしまい。今日も見てくれてありがとう。次回もまた見てね、ばいばい」
ボクは配信終了を押して、一度背伸び。そして眠くなってきたこともあってログアウトし、眠りについた。