43.「怪異物語」起(2)
「でも、脱出するといってもどうすれば・・・」
風里が言うには、怪異に堕ちてしまわないように早くこの異界から脱出しないといけないらしい。でもどうすればいいんだろ?
『怪異化したらバッドエンドかな』
『森を彷徨う美少女・・・だめだ、こわい』
『なんでモミジちゃんとユリちゃんだけ?』
『この演出まあ他のパーティでもあったし、そういう設定なんじゃないかな』
「わからない。でも、あなたたちのようにこっちに来る歪みがあるってことは、逆がある可能性もあるでしょ?実際、前にある子から聞いたことなんだけど、この異界から脱出できた事例もあるらしいの。だから、それを狙う」
『つまり確定してはないんやな』
『どうすんのさこれ』
『難しいなこのイベ』
「なるほどね・・・。でも、何もしないわけにはいかないものね」
「そう。まあ、わたしとしても心当たりはあってね。あなたたち戦闘はできる?」
「ある程度はね」
「なら好都合ね。いくつか歪みが起きそうな所は見つけてあるんだけど、一人だときつくてね。あなたたちが協力してくれたら、あなたたちならひょっとしたら」
『そういうことか』
『ならそれクリアしたらグッドエンドやな!』
『なんか不穏だけど・・・』
そういうことで、ボクたちと風里は共に行動することになった。
歩くこと数十分、森の中をひたすらに歩いていた時だった。
(ザザッ・・・)
『なんかノイズ走った?』
『回線調子悪いか』
『俺だけじゃなかったか』
「あれ?配信ちょっと調子悪い?」
コメントに気づいたサキがそう言ったことで、一度立ち止まった。
「んー、さっきの一瞬だけだったぽい?」
「大丈夫そうなのです」
「あの子たち・・・ん、そういうことか」
「風里?どうかした?」
風里が何か呟いた気がしたんだけど。
「いや、大丈夫。ほら、こっちだよ。ついてきて」
「はいよ。配信も問題なさそうだし、行きましょ」
風里を見失わないようについていかないと。
それから更に5分くらい歩いて、ようやくその場所にたどり着いた。
「ここだよ。あたし一人だときついけど、あんたたちがいれば行けると思う」
「廃墟だね・・・」
「廃ビルなのです」
「そ。元々は雑居ビルだったみたいだけど、今じゃ怪異が蠢く廃墟になってるの。で、この上の方からでかい感じがあってねー。それがもしかしたらって感じ」
『ボスか?』
『イベントボスやろなあ』
『wktk』
「それじゃ、入ろうか」
入り口は崩壊していて、穴になっている部分から内部に入ることに。
「中は結構綺麗だね」
『なんか聞いたことあるなそのセリフw』
「特に変なモノは見つからないわねぇ」
「あたしも内部に入ったことはないから、内部構造まではわからないの。だからここからは皆で探索しよ。上に行く方法を第一に探して」
「「はーい」」
それじゃ、まずは近場から探していこうかな。
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「ん~、引き出しの中に鍵とか・・・。おや?手帳?」
どこかの鍵とかが引き出しの中にしまってあるのが定石なので探してみると、何やら手帳のようなものが入っていた。
「えーと?『緑谷学園生徒手帳』・・・。なんで生徒手帳がここに?」
『隠しアイテムキタコレ』
『他のとこでは見なかったアイテムだー』
『あるある:よくわからんアイテムが隠し要素』
手帳の名前は「四宮 香」と書いてあった。これは何か関係あるのかな?
「みんな~、階段見つけたわよ~」
というマリアの声が聞こえたので、行くことに。
みんなで階段を上り、2階へ到達。
「そういえば、さっきこんなの見つけたのだけど」
と言ったサキの手には、バッジのようなものが乗っていた。
「谷の字が書かれたバッジ・・・。もしかして、これと関係あるかも」
さっき見つけた生徒手帳を取り出す。
「緑谷学園・・・。もしかして、これ校章?」
何か、学校が関係するものがあるのかな。
「とりあえず、持っておこうか。もしかしたら、後々必要になるかもしれないし」
そのまま2階を探索していると、何かが動いたような気がした。
なんだろうかと思って近づいてみたのが失敗だった。
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ
どう見ても生きてるとは思えない人間の形をしたナニカが彷徨っていた。
そしてそれは、ボクを視界に入れた途端、それまで不気味に響かせていた足音を消していきなり走ってきた。足音がしなかったことで一歩遅れたボクは、ソレに押さえつけられてしまった!
「きゃっ!」
ボクらしからぬ可愛らしい悲鳴を気にする暇もない。ソレは凄い力でボクを押さえつけたまま、異常に長い舌を伸ばしてきた。
「オルァァ!」
その瞬間、突然ソレが吹き飛んでいった。そこには、ドロップキックをきめた風里がいた。つまり、風里が助けてくれたんだろう。
「あ、ありがとう・・・」
「気をつけて、アレが怪異。皆と同じく、この異界に取り込まれた人間の成れの果て。アレは相当時間が経ってるみたいね」
「どうしたのモミジ!」
「大丈夫ですか!?」
「風里さん置いてかないでなのです」
「皆も気をつけて。アレみたいに完全に異界と同化してしまったようなやつは、人間に襲いかかって同化させようとしてくる。あの長い舌を口からねじ込んで、胃袋に直接異界の瘴気が凝縮された液体を流し込んでくるの。そうなってしまったら、助かる術はない」
「そんな」
危なかった。もし風里の到着があと少し遅かったら、ボクは異界と同化・・・、つまりクエスト失敗になってたんだろうな。
「だから戦えるか聞いたの。戦えない人がこんなとこに来て、同化しちゃったら益々大変だから」
厭な想像をしてぶるっと震える体を押さえ、ちょうどサクラが階段を見つけたそうなので3階へ行くことにした。
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