42.イベント開催「怪異物語」[起](1)
ある日のこと。咲希は次のイベントをどうするかについて悩んでいた。
「どうしようかしら・・・。ホラーにするっていう風に決まったのはいいけれど、和風にするか洋風にするか・・・」
「あら咲希、どうしたのですか?」
「ああ稲荷。TRFの新しいイベントをどうするかね。一応社内ではホラー系っていう風に決まったんだけど、その中身をどうするかで、ちょっとね」
「なるほど。和風ホラーが洋風ホラーか、ですか。咲希、あなたの目の前に日本の怪異に詳しい人がいるではないですか」
「え、稲荷あなたそういうの詳しかったの?」
「ええ。これでもかつては稲荷大明神様の使いの狐だったんですから。怪異には何度も巻き込まれましたし何度も生還したんですから」
「そうなのね。・・・それじゃ、せっかく専門家がいるんだからそっち方面で考えましょうか」
「はい。何でも聞いてください。・・・ただ、一つお願いがあるのですが」
「ええ、私にできることならなってあげるわ」
「かつて怪異に巻き込まれた際に、瀕死の私を救ってくださった一族がいまして。その末裔の娘さんが、20年ほど前にある怪異に巻き込まれてしまって。その方を助けたいのです。方法は、その怪異を実際にあるものと人に認識させることにあります」
「ふうん。続けて?」
「もともと怪異というのは人が皆信じていたからこそ互いに干渉できたのです。しかし時代の変遷と共にその考えも薄れ、今では怪異の認識すらできません。その方は不運にも、いやもしかすると呼び寄せられたのかもしれませんが・・・。怪異に巻き込まれてしまい、人々から認識されず、孤独に怪異の中を彷徨い、戦い続けているんです。かく言う私も干渉し救おうとしましたが、認識できる者の母数が少なく失敗に終わりました」
「・・・つまりは、このイベントの題材をその怪異にすることで、人々がその怪異を認識するような状況を作るってことね?」
「その通りです。そして干渉できるようになれば、私が救出に向かいます」
「・・・なるほどね。確かに稲荷、あなたほどの力があれば怪異から少女を救出するなんてことは容易でしょうから。いいわ、その案でいきましょ。それじゃ、その怪異について詳しく教えてくれる?」
「勿論です」
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その後、会社の会議で咲希の提案した内容が余りにも細かく作り込まれていたため、満場一致で咲希の案が採用されたとか。
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「先輩、明日からですよね?イベントの『怪異物語』って」
「そうだね。内容も最大6人パーティでシングルパーティ用の特殊マップの探索、そして物語の行く末を見守るか物語を書き換えるか・・・。中々に心惹かれる表現だよね」
(言えない・・・多分お母さんがボクたちが全員で参加できるように6人パーティまでに制限したなんて言えない・・・)
「ですです。ホラーイベントも数の暴力で行ったらどうなっちゃうのか気になりはしましたけど、その対策もしてるんですね」
「そ、そうだね。人数制限で面白みに欠ける数の暴力を抑制しているんだね」
前回の大規模協力イベントと違い、一度に攻略可能な人数の制限された、要するに最大6人のパーティによるシングルパーティイベント。それの開始が明日に迫り、当日は配信もする予定。
「ホラーね〜。あたしはそこまで得意じゃないから不安なのよね〜」
「でもそういいながら心霊動画とか見てるじゃない」
「それはほら、好奇心というか、怖いもの見たさというか・・・」
「わかるよ〜マリア。私も心霊はそこまで得意じゃないけど、つい見ちゃうよね〜」
・・・お姉ちゃんの場合は現実で見てるけど、言わないほうがいいよね。
「私はホラー耐性はそこまでないのです・・・。でも頑張るのです」
「無理しないでいいからね?サクラ」
「私はやると決めたらやるのです!」
「そっか。じゃあ頑張ろうね、サクラ」
「はいなのです」
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そして迎えたイベント開始日。
「確か、この辺だったよね?トリガーがあるのは」
ウノの街にトリガーが設置されているとのことで、全員揃ってウノの街へ戻ってきた。
「・・・ねえ、どう見てもあれじゃない?」
「どれ?・・・ほんとだ」
お姉ちゃんの指さす方を見てみれば、明らかに禍々しい雰囲気を醸し出す歪みがあった。
「えっと?時空の歪み・・・そのまんまだね」
よく見ると歪みの上にそう書いてあった。間違いなくこれがトリガー、というかポータルみたいだね。
<受注可能人数です。クエストを開始しますか?>
触れてみると、そんな表示が現れた。
「みんないける?」
「オッケーだよ」
「大丈夫です!」
「ええ」
「いいわよ〜」
「いけるのです!」
全員の返事があったのを確認して、クエストを開始!
すると、突然周囲の景色が変わり、今まであったのどかな街並みはどこへやら、ボクたちは薄暗い森の中にいた。
「・・・雰囲気あるねぇ」
「とりあえず、配信つけよっか」
「あ、忘れてた。お願い、サキ」
「はいはい。・・・3、2、1、スタート」
「いらっしゃいませ。今日は早速イベントマップからお送りしています」
「薄暗い森の中に転移しました」
『きちゃ〜』
『イベント配信と聞いて』
『もう既にホラー』
『なんか出そう』
やはりイベント効果か、いつもより同接が多いね。
「とりあえず、じっとしててもしょうがないし、移動しようか」
「そうね。後ろはこの通り行けそうにないし、進みましょうか」
後ろを見ると、確かに鬱蒼とした木々が行く手を阻んでいた。仕方ないし、前に行こうかな。
ガサガサッ
「ヒェッ」
『なんか茂みで音した?』
『なんかいるっぽくない?』
「野生動物だよ、きっと」
「いちいち気にしてたらきりないわよー」
その後も何度かガサガサと茂みの鳴る音がしつつも、歩き続けていると。
コツ、コツ、コツコツ、コツ、コツコツ
「なんか・・・足音多くない?」
『それ思った』
『なんか多いよな』
『誰かいる?』
「き、気のせいだよ・・・」
オォォォオ・・・
「ぴぃっ」
『な、なんだ今の!?』
『呻き声?』
『こわ・・・』
「き、ききっと風の音だよよ」
『声震えてんでw』
『強がらなくていいんだよ』
『よわよわなモミジちゃんが見てみたい』
「だ、大丈夫だよ。まだまだこのくらいなら序の口だから」
強がってなんかないもん。ほんとだもん。
「・・・あれ、きつね?」
ふと遠くに目をやると、1匹の狐がボクたちをじっと見ていた。
『狐?』
『あ、ほんとだ』
「なんだろ・・・って、モミジ?」
気づいたらその狐の方に自然と足が動いていた。なんだかそうするのが正しい気がして。
「ちょ、先輩、おいてかないでー!」
近くまで行くと、まるで着いてこいとでも言うかのように、狐は行ってしまう。それを何度か繰り返すと、
「あれ、きつね増えた」
「あ・・・ほんとだ」
『なんなんやろな』
『モミジちゃん大丈夫か?』
『なんか心配になる動きなんよな』
「また行っちゃった」
「追いかけなきゃ」
『狐を追いかける美少女たちの図』
『絵面があんまよろしくない?』
『動物に着いて行ってるだけだしセーフ』
そうして狐のあとをついて行くこと数分、ここが目的地とでも言うかのように道の両脇に座した狐たち。
「ここで終わりなのかな?」
「これは・・・古民家?というかなんでここに?」
『こわい』
『曰くありそう』
『狐に着いていくかどうかでルート分岐っぽいな』
「どうする?入る?」
「ちょっとその勇気は出ないのです・・・」
古民家の前でどうするか悩んでいると、
「あれ?お客さん?というか、もしかして迷い人?」
「「「!?」」」
突然後ろからそう話しかけられて、心臓がとまるかと思った。その声の方を見てみると、見た目はボクと変わらないくらいの女性が立っていた。
『だれだ?』
『びびった』
『このルートだとここで登場するんか・・・』
『考察ニキ(ネキ)はネタバレせんようにな〜』
「おっと、驚かしちゃったか。ごめんごめん。ん?どーしたの?・・・ふんふん、へぇ」
その女性はさっきの狐と会話をしているみたいで、狐が何を言ってるかはわからないけど、ボクたちのことを話してるのかな?
「あなたたち、この子たちが誘ってるって気づいてた?あっと、自己紹介がまだだったね。わたしは山神風里。よろしくね」
風里曰く、あの狐たちはボクたちをここに連れてこようと思って先導していたみたいで、そのことを知ってた訳ではないので正直に話すと、
「ふーん、そうなんだ。その話によれば、やっぱりあなたたちも迷い人みたいだね」
「えっと、その迷い人って?」
『どういうことだってばよ』
『狐と会話してる・・・』
『あの狐、目的あったんやな』
「迷い人っていうのは、この世界、いや、異界に誤って入ってきちゃう人のこと。これまでも何度かあってて、かくいうわたしも迷い込んじゃったんだ」
「そうなんですね」
「んー、あなたとあなた、2人は大丈夫だと思うけど、他の人は長居しないほうがいいかもね」
ボクとお姉ちゃんは大丈夫?どういうことだろ。
「長居したらどうなるんですか?」
「まー早い話、異界に取り込まれて怪異に堕ちちゃうってとこかな。怪異化すると永遠にこの異界から出られなくなって、文字通り永遠に彷徨い続けることになるの」
「ひぃ・・・」
『えぐいな』
『この森で、永遠に・・・』
『設定がこわいんですが』
「ま、そうならないようにわたしも手伝ってあげるから。異界から脱出できるように」
「お願いするのです・・・」
最後までお読みいただきありがとうございます!こういうのを書きたかったんですが、気づいたらこんな文章量に・・・。一応起承転結で分けようとは思っていたんですが、それでも多くなりすぎるのでさらに分割します(苦笑)
よければいいね・感想をいただけると嬉しいです。次回ものんびりお待ちいただければ幸いでございます。




