35.ここをキャンプ地とする!3
「ようやく来たのか。村人の命が惜しいならいい加減俺の領地に編入されろ!」
「うわあ、テンプレ通りの無能貴族って感じ・・・」
「なんかさらに腹立つなあ・・・」
「何度来られても答えは同じだ、お主の言う条件など、我々の利益が全くないではないか。そもそもコナラ様あってのこの地域であるというのに、コナラ様を追放してしまえなどと暴論を言うお主に従う者がいるわけなかろう」
「交渉は決裂なようだな。今日首を縦に振れば許してやったが、残念だ。お前ら、力づくでもやってしまえ!女は生け捕りにしろ!館で娼婦にするからな」
「コロスか」
「女の敵は人類の敵なのです」
「あれ?サキどこいった?上?」
気づいたらサキは上空に飛んで魔法の準備をしていた。
「じゃあボクたちも行こうか。景、瑞、彩、紫。手伝ってもらえる?」
「勿論です、ご主人」
あ、景が静かだ。これマジでキレてる。
「さすがの私でもあんな堂々とアウトな発言はしないかなあ」
彩は・・・ある意味いつも通りか。
「景姉さん、彩。やりすぎないようにね?」
「姉様方、私を忘れないでくださいね?」
うわ、景たちみんな怒ってるなあ。
「みんな、やりすぎないようにね?」
一応釘はさしておくかな。
正直どんな影響が起きるかわからないからあんまりこういった干渉は避けた方がいいんだろうけど、それでここが無くなったらボク達の長旅が無駄になるし、なによりああいった貴族主義は嫌いだもの。ボク達は外から来たのだから、この世界の貴族に配慮してあげる義理もない。
「さて、ボクも行きますか」
数十人を相手取るは、十にも満たない少女たち。向こうから見れば一瞬で片が付くと思ってるだろうけど、ボク達は生憎人外集団。何が起きるかというと、
「吹っ飛べ!ファイアフォール」
サキの魔法が炸裂。上空から炎の塊が落ちてくる。数人の集団が吹き飛んだ。・・・死んでないよね?
「遅いですね。波動斬り」
別のところではトウカが切りかかってくる兵士を相手に圧倒していた。最後は抜刀とともに波動を発し、複数人を吹き飛ばす。流石に生きてるね、大丈夫だ。
「PKの方がまだ強いのです。鎧袖一触なのです」
サクラは・・・うん、いつも通りだね。安心安心。
「後ろががら空きだよ?そいっ」
お姉ちゃんはというと、縦横無尽に飛び回って切り伏せている。流石だなあ。
「ご主人たちを侮辱したこと、万死に値します。彩、手伝って」
「ほい、景姉。死なないように手加減するの、難しいけど主の命だもんなあ」
彩が巻き起こした小規模な竜巻に景が炎を纏わせ、火炎旋風を巻き起こす。村に飛び火しないといいんだけど・・・。
「では瑞姉様、私たちはこれ以上こちらに入ってこれないようにしましょうか」
「そうね、紫」
瑞が村の入り口をふさぐように水流を起こし、そこに紫が電撃を撃つ。多分今あそこに足を踏み入れようものなら、一瞬で感電するだろうね。実際に無理やり突破してきた兵士が感電してぶっ倒れたし。
それにしても、技を使うだけで艶やかで奇麗なのはずるいと思う。
結果として、ものの数分で向こうの兵士は壊滅。残りはレジャノ一人となった。
「な、なんだと!?俺の精鋭たちが・・・」
「さて、と。まだやる?レジャノとやら」
「くそ、まだ領地には一万の兵が・・・」
「ちなみに言うと、ボクたちは全力の2割くらいしかだしてないんだけど」
「っな、2割だと・・・」
「やろうと思えばあんたの領地を崩壊させることもできるけど、どうするのかしら?」
「正直私たち怒り心頭でね、今からでも壊滅させたいんだけど」
「くっ、何が条件だ」
「そうだね、まずは無期限の不干渉。それと、この村の独立。この二つが最低限守れないなら問答無用であんたの領地に攻め込むから」
「・・・分かった、そうしてやる」
どこまで行っても上からなんだなあ。
「そ、じゃあ帰れ」
「んな、貴族に対してその言い方は何事だ!」
「じゃあ、死ぬか?」
「ヒッ、覚えてろ!」
負け犬の遠吠えを吐いてレジャノは逃げて行った。
「・・・皆様、一体何者なのですか・・・?」
「旅人ですよ?」
「そうですか。まあ我々も余計な詮索はなしにしますかな。皆様のおかげで一瞬で村の独立が守られました。村を代表して感謝申し上げます」
「頭を上げてください、ゼントさん。それに、たぶんこれだけじゃ終わりませんから」
「それは、そういう・・・?」
「ねえモミジ、あいつ、あれで終わると思う?」
「終わらないと思うよ。多分暗殺者を雇うか、寝込みを襲うか。とりあえず卑怯な手をかまわず使ってくると思う」
「よねえ。まあさっき警告はしたから、次何かあったら攻め込めばいいわね」
「そうですか。ところで、皆様はこれからどうされますかな?」
「そうですね、できることならここに住まわせていただきたいのですが」
「おお、それならば歓迎しますぞ。幸い土地はあり余っておりますから、どこへでもお好きになされてくだされ」
「そうさせてもらいます」
「・・・はい、わかりました。皆様、コナラ様が皆様とお会いしたいとのことです。社の方までお願いできますか」
「あ、はい。・・・てかまたあそこ登るの・・・」
みんなで頑張って階段を上った。一部満身創痍の状態で到着したお社には、色は違うけどなんだか見たことのある女性がたっていた。
「皆様、初めまして。コナラと申します。この度はわたくしの力が及ばぬせいでご迷惑をおかけしました。感謝とともに謝罪申し上げます」
「・・・ねえ、お姉ちゃん」
「うん、あいつね」
「皆様はこちらに住まわれるとのことで、良ければこの社の隣に居を構えられてはいかがですか?」
「え、いいならそうさせてもらうけど」
「ええ、もちろんです」
その後、一言二言言葉を交わし、一度別れた。
「さてと、拠点も決まったことだし、とりあえずここにワープ地点設置しとこうか」
実はアンドロメダ解放後、運営からギルドマスターにワープ地点設置のアイテムが配布されていたんだよね。
「よいしょ、オッケー。これでいつでもここに飛べるよ」
〈ヒノモト地区が『人外居酒屋ルナメイツ』の拠点となりました〉
「はーい。じゃ、私とマリアは落ちるわね。もう遅いし」
「私も落ちるのです」
「あ、私も・・・」
「ほいほい、お休み~」
ボクとお姉ちゃん以外は落ちた。もう夜も遅いので、寝るんだろうね。
「さて、と。モミジ、行こっか」
「うん」
そうして向かったのはコナラのいるお社の中。コナラさんはそこで待っていた。
「コナラさん、説明を」
「はい。もうお気づきだとは思いますが、稲荷様がやらかしました」
「やっぱりね。・・・もしかして、前にお母さんが言ってたやつ?」
「恐らくそうかと。わたくしはその時にこちらの管理を任された、稲荷様の式神です」
「はあ~、あの神様はほんとにもお~」
「まあわたくしはここで村を守っているだけですから、統治などは皆様にお任せします」
「まあ事実確認がとれたってことで」
「じゃあ、ここを拠点にするってことで。ここをキャンプ地とする!」
一回言ってみたかったんだよね、この台詞。




