31.大プロジェクトの実装、早速遊ぶ一行
ボクたちのチャンネル登録者数が1万人を突破して数日、TRFに新たなアップデートが入った。その内容というのが衝撃的なもので、公式発表によれば
・新たなマップ、「アンドロメダ」を実装
これまでのマップとは違い、巨大な大陸型のマップです。驚くべきは、そこに住む住人たちは全て感情と自律思考を持った『完全なAI』であること!世界のAI研究の集大成といえるこの機能は、ゲーム内に一つのまさしく『世界』を作り出しています。プレイヤー(ギルドに加入されている方)の皆さんはそこで一定範囲の統治者として活動ができます。さらには別のギルドに攻撃をしかけ、その領地を自身のものにすることも・・・!この機会にギルドの加入・創設をしてしまいましょう!
・新マップ「クワトロ」同時実装
これまでのマップに新しく『クワトロ』地方を実装しました。
・その他新装備・素材等多数実装!
とのことだった。アンドロメダとやらは今までの常識を覆す世界のようだ。そういえば数年前に「完全なAI」を作り出すことに成功した学者がノーベル賞をもらっていたような。今回のはそれを大量に、それも安定して管理していることで大騒ぎになっているようだ。・・・それにしてもギルドで統治、さらにはGvGの要素かあ。ギルドの活動を活発にしたいんだろうな、とメタ読みしてしまった。
「お母さん、すごいね。だから最近忙しそうだったの?」
「そうよ~。でも細かいところはそれこそAIが調整してくれるから昔よりもかな~り楽になったわ」
「これ、もしかしてちょっと前に言ってたA-150ってやつ?」
「そうよ。公表した後だから言うけど、『アンドロメダ箱庭世界計画』は実はTRF発売前からあった計画でね。私たちと同じ能力を持つ人工知能を作り、それらの世界を作る。で、その計画がある程度安定して、せっかくなら公開しようって話になったの。あと単純に試してみたいこともあったしね」
「そうなんだ。で、A-150ってなんだったの?」
「ああ、それはね。一応極秘の計画だったから、昔の計画からとったの。昔、A-150って名前の極秘計画があったそうで、それからとってるのよ」
「へぇー。あと、試してみたいことって?
「ん?それはね、外の世界から人間が入ってくることによって何が起きるのか。ってこと。言ってしまえば興味本位なんだけど、AIによって管理されたAIの世界がどこまで人間に順応できるのか試してみたいってことでもあるわ」
「なるほどね・・・。上手くいくといいね」
「まあ最悪私たちがシステムを書き換えてプレイヤーを統治者と認識するようにプログラムしなおすから」
「・・・というわけで、早速ボクたちも行ってみない?『アンドロメダ』に」
アップデートが適用された当日、その日は土曜日だったこともあって全員がそろったギルドハウスでそう切り出した。
「完全なAI・・・ねえ。正直そんな謳い文句で、惹かれないプレイヤーはいないと思うのよ。今まで百年くらいSFの世界だったものが現実になるんだから」
「あたしも行ってみたいわねぇ。ここのNPCも相当あたしたちと遜色ない性能だったけど、それがフィールド全体なんだもの。わくわくするわ」
「私も楽しみだな」
「私も行きたいのです!でも私たちで他の大手ギルドに対抗できるか不安なのです・・・」
「そうだね。でもみんな賛成と。で、トウカは?」
「モチのロンですよ!」
「オッケー。それとサクラ、その懸念も最もだと思うよ。だから思いついたことがあるんだけど、たぶん大手の強力なギルドは初期リスから近~中距離に陣取ると思う。だから初期リスからうんと遠くに陣取るってのはどう?」
「うんと遠くに、ね。まあ確かにそうすれば他のギルドとはあまり干渉しないかもしれないわね。その代わりめっちゃ歩くでしょうけど」
「体力には自信あるのです!」
「休み休みでもいいなら大丈夫よ」
「みんな賛成みたいだね。じゃあそういうことで。早速行こうか」
そう言ってボクたちは初期地点として開放されている地点へワープした。
「ここが『アンドロメダ』の地・・・。思ったよりは普通というか、あっちと変わらないのね」
「でも確かここって、最初は旧石器レベルの文明から始めたらしいし、それから完全にAIの自律思考でここまで発展したって考えたらすごいよね」
「え!?そうなんですか?・・・もしかして、真の原始共産制が見られる?」
「げん・・・なんなのです?」
「原始共産制。まあざっくりいうと縄文時代みたいに食糧は集落全員で平等にわけて、物々交換で取引をするってことですよ」
「残念だけどトウカ、ある程度の封建制に移行してるらしいよ」
「ええ~?そんなあ・・・」
「・・・なんか、すごい高度な会話ね」
「そうね~。あたしはもうついていけなかったわ」
確かに、ゲームの中の世界で話す内容ではなかったかもね。
「おや、嬢ちゃんたち新規勢かい?」
なんて話していたら、ふと声をかけられた。その声の方へ体を向けると。
「ん?そのカッコ・・・ああ!どっかで見たことあると思ったら、もしかしてルナメイツの面々かい?」
「そうですが、あなたは?」
「おっと、こりゃ失礼。俺はシンジだ。TRFの情報屋の真似事してるしがないプレイヤーさ」
そのシンジと名乗った男性は、どうやら新しく『アンドロメダ』に来たプレイヤーに役立つ情報を教えているらしい。普段は多少の金額で穴場スポットや店なんかを紹介しているらしい。今日は『アンドロメダ』解放記念で無料で教えてくれるとのこと。
「多分ルナメイツの一行サマなら基本的なことは知ってるだろうし、何か聞いときたいことはあるかい?」
うん、というか身内が開発だから多分シンジさんよりも多くの情報を知ってる、なんて口が裂けても言えないね・・・。
「う~ん・・・あっ、そうだ。この近辺を統治することになったギルドってどこですか?」
「お?そうだな、この近くからだと、ここのすぐ外は『グリムリーパー』、スバルが率いる今んとこのトップギルドだ。界隈の人間なら名前くらいは聞いたことあるんじゃないか?」
「あ~、スバルさんね!」
「知ってるの、サキ?」
「まあ暇なときに見てたから。あの人が率いてるんならよっぽどのことがない限りは崩れないでしょうね」
「そんだろうな。そんでここを挟んで反対に陣取ってるのが『スプリガン』。アカギ率いるギルドで、ここも言わずと知れた大手ギルドだな」
「アカギ・・・確か、初期からやられていて、当時はスバルさんと並んで二大巨塔と言われた女傑でしたっけ?」
「そうなのです?でもそんな超大手がここの両翼を固めるって、ちょっと怖いのです。ここからでられるか・・・」
「あー、そのことなんだけどな、どうも変な奴らに陣取られて新規勢が狩られないようにっていう配慮らしい。両ギルドともトップが有名人なだけに下手なことはできないし、むしろ2トップで両翼を固めることでそいつらへの牽制も兼ねてるんだとか。意外と考えてらっしゃるみたいだぞ?」
「そうなんですね。やっぱりこの近辺はもう領地は残ってないですか?ボクたちみたいな弱小ギルドでも安定できるような」
「そうだなあ。外の方はそれこそ『祖比江戸連邦』だったり、因縁のレイスがいるシャドウキラー』だったりとちと不安定だな。だったらむしろ遠出してまだ誰もいないとこに陣取った方がいいかもしれんな」
「そうですか。ちょうどボクたちもそのつもりだったのでよかったです。ありがとうございました。あ、折角なのでフレンド登録させてもらってもいいですか?」
「え、むしろ俺の方こそいいのか?まあ、いいならさせてもらうんだが」
「勿論です」
「そうか。頑張りなよ。あと、いつも配信楽しく見させてもらってます」
「えっ、そうなの!?そうだ、この後突発に配信するから良かったら見てね。見てくれたらうれしいな」
「うおっ、モミジちゃんにお願いされちまった・・・。もちろん見させてもらうよ。じゃあな、気を付けて!」
最後に視聴者であることをカミングアウトしたシンジは足早に去って行ってしまった。
「わかります、わかりますよ・・・!先輩に至近距離でお願いされるということの威力を・・・!」
「全く、モミジは天然の人たらしなんだから。私はそういう風に育てた覚えはないんだけどなー?」
「いや、モミジをこんな女に仕立て上げたのはユリでしょうが・・・」
「さ、さて。いろいろと教えてもらったことだし、行こっか!」
これ以上話が延びるとろくでもないことになるだろうなと思ったので話を切り上げ出発する。配信をつけるのはある程度離れてからにしようかな。
ボクたちでも大丈夫なところがあるといいなあ。




