3.正式サービス開始
学校の終業チャイムが鳴り、ボクは普段より急ぎ目で帰路につく。
理由はもちろん、TRFの正式サービスの開始日が今日だから。
普段より空いている列車に揺られること約十分、家に帰り着いたボクは着替えや手洗いを済ませ、早速ヘッドギアを装着する。
TRFは事前予約していたので既にインベントリ内にある。さてさて、正式版はどのようになっているだろうね。
『キャラクターアバターを作成します。既にアバターデータをお持ちの方はIDを入力して下さい』
ボクはベータテストのアバターを使おうと思うので、事前に確認しておいたIDを入力する。
『プレイヤーIDを確認しました。以降もこのデータを使用しますか?』
ボクは'はい'と答え、キャラメイク・初期ステータス設定をまるっとカットした。
TRFの地を踏んだボクはベータテストとの違いを確認する。どうやらさほど違いは無いようだけれど、一番の違いはレベル上限だろう。現在の上限が30レベルで、公式からアップデートで順次上限解放予定とのこと。確かに、常にログインしてレベリングしている人と忙しくて1日1時間程度しかログイン出来ない人でレベル差が著しくなってしまうだろうから、その対策だと思う。
それにしても、初期スポーン地点であるここ、『ウノ』の街入り口にある噴水広場には多くのプレイヤーでごった返している。つまりはこれだけの人がこのソフトの配信を心待ちにしていたということなのだろう。彼らはそれぞれに知り合いと待ち合わせたり、目の前のプレイヤーに声を掛けたりしている。が、聞こえて来る会話の感じからしてベータテスターはいないようだ。それもそのはず、一部界隈ではベータテスターを謎に叩きまくる勢力がいるのだ、まさか大手を振って「私はベータテスターです」という人はいないだろう。
そんな人々を尻目に、ボクは早速ベータテストで見つけたレベリングスポットへ移動する。そこはウノの街から程なくして到着する洞窟で、普通の敵対MOBよりも多めに経験値が貰える、『白銀』や『黄金』といった文字通り銀や金に輝いている敵対MOBが気持ち多めにスポーンする。というよりは洞窟が暗いおかげで白銀個体や黄金個体が輝いているのがいやでも目立つのでとても見つけやすい。
・・・が、しかし。流石にレベル1で攻略できる程簡単ではない。仕方がないのでレベル3くらいになるまではその辺でちまちまレベル上げをするしかない。
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プレイヤープロフィール
name:モミジ
gender:♀
race:妖狐
ステータス
ATK:10
DEF:10
AGI:20
DEX:20
LUK:40
Lv.1/30
スキル
『狐火』
職業:--
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現状のボクには種族特性で持っているスキル、『狐火』以外のスキルを持っていない。故に、敵対MOBを倒すには装備が必要。なのでボクは今、武器や防具の露店にいる。
「らっしゃい、見ない顔だな。あんたも例の旅人かい?」
「ええ、まあ、そんなところです。ところで、この扇を買いたいんですが」
「その扇なら250セルだぜ。・・・丁度だな、まいどあり!」
妖狐が装備可能な武器は色々とあるが、ボクは和服には扇か刀と決めているので、まずは扇を買った。これは鉄のフレームに紅葉が描かれたもので、ボクの名前に合っていると思ったので購入した。何気にフレームが鉄製なので、中々の打撃力がある。武器屋の店主は少々厳ついが、NPCなので仕方ない。その内生産職のプレイヤーが店を開くだろうと思うのでそれに期待しよう。
「いらっしゃいませ、こちらは防具店です」
「この胸当てと膝当てをください」
「はい、130セルです。丁度ですね、ありがとうございます」
防具屋では革の胸当てと膝当てを購入。このゲーム、防具は非表示にできる。一応服も非表示に出来るが、人前で脱ぐシュミはボクは持ち合わせていないので脱がない。どうやらベータテストでどこまで脱げるのか試した物好きがいたそうだが、一糸纏わぬ姿になることができた、とSNSではしゃいでいたのを思い出す。それの修正報告がなされていないということは、それは仕様なのだろう。もう一度言うが、ボクは脱がないぞ。
防具屋の店主は少々内気そうなお姉さんという感じだった。キャラは好きだが陳列物が味気ないので結局は生産職のプレイヤーに期待することになるだろう。
そんなこんなである程度の装備が整ったので早速レベリングを始めることにする。まずは付近の敵対MOBのお掃除から。
丁度いいところに、どのゲームでも初心者お馴染み、スライムの登場だ。ちょっと潰れた球体のような見た目で、その質感に反してぴょんぴょんと飛び跳ねて移動する。そしてこの子たちは顔がある。ちょっとアホの子っぽいけど。あと鳴く。
「スラスラァ〜」
なんて言ってるかは分からないけど、レベルが上がればこちらには害のないど雑魚MOBなので癒しになる。実際ベータテストでもスライムに囲まれて顔を蕩けさせたプレイヤーが何人かいた。
「悪いけど経験値になってもらうよ。『狐火』」
狐火とは妖狐のみ使えるスキルで、目の前に小さな火球、どちらかと言えば人魂?のようなものを発生させる。そしてプレイヤーはそれを操作し相手にぶつけることでダメージを与える。
だが、ボクはちょっと遊び心を加えた打ち方をしてみる。それは先程購入した扇で火球を打つ。野球みたいに。
扇によって打ち出された狐火はスライムに向けて飛行し、着弾。スライムは「スラァッ!?」という可愛らしい鳴き声と共に飛んでいき・・・そのまま消滅した。その瞬間ボクに経験値が入ったので倒した判定になったようだ。
「ナイスバッチ」
意外と楽しいぞ、これ。
それからボクは道ゆくスライムに狐火ノックを放った。まあ、ボクのコントロールが悪くて一向に当たらない場合は狐火を操作してぶち当てたけど。そうして気が付いたら目標のレベル3に届いていた。これで例のレベリング洞窟へ行ける。
ちなみに今のステータスはこんな感じ。
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プレイヤープロフィール
name:モミジ
gander:♀
race:妖狐
ステータス
ATK:15
DEF:18
AGI:26
DEX:30
LUK:40
Lv.3/30
スキル
『狐火』
職業:--
装備:鉄の扇(紅葉)・革の胸当て・革の膝当て
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少しステータスが上がった。LUK、つまり運はレベルアップで上がる訳ではないようで、装備や自身の踏んだイベントによって増減するようだ。
さて、レベル3になってやることとは何だろうか?・・・そう、レベリングである。ようやくレベリング効率の良い洞窟へ向かうことができるので、早速行くことに。
その名称を≪先駆けの洞窟≫と呼ぶこの洞窟は、名前の通り始めたてのプレイヤーに優しい洞窟となっている。しかしながら、少々入り組んだ森の中にあるため、あまりプレイヤーはいなかった。ちらほらとプレイヤーはいるが、恐らくはボクと同じく、運良くベータテストの恩恵を受けることができた人か、そんな人から情報を得た人だろう。
・・・しかし、やたらと視線を感じるのは気のせいだろうか。いや、原因は大体察することはできるさ。ボクの背中で、モッフモッフと振り回されているこの尻尾だろう。
そんな視線に屈することなく、ただひたすらにMOBを狩ること数時間。ファンファーレの音と共にシステムがレベル10に到達したことを告げる。そしてレベル10に達したということは、つまるところボクの体に変化が起きると言うことだ。
ボクの視界が光で何にも見えなくなると同時に腰の辺りに走る違和感。尻尾が増えるという現象はベータテストで経験したとはいえ、やはり慣れるものではなく、くすぐったい。
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プレイヤープロフィール
name:モミジ
gander:♀
race:妖狐
ステータス
ATK:24
DEF:30
AGI:41
DEX:48
LUK:40
Lv.10/30
スキル
『狐火』『狐召喚』
職業:--
装備:鉄の扇(紅葉)・革の胸当て・革の膝当て
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レベル10になったことで新たなスキルを入手した。『狐召喚』というスキル。これはその名の通り、狐(狐火のように、実際の狐ではなく霊体に近い)を召喚し自身の援護・突撃など多彩な行動を取らせることができるもの。早速使ってみたいが、どうしようか。
「そうだ。『狐召喚』、敵の群れに対して十字突撃」
するとどこからともなく現れた2匹の狐が少し離れたところの敵群に縦横に突撃、6割強を一掃した。
「これは、強いな」
ボクは改めて、序盤でのレベル10の強さを実感したのだった。