22.イベントクエスト(後)
「あ、そういえばサキさんたちは!」
「それなら大丈夫よ。見て、ドラゴンが撃墜されてく」
「あ、ほんとだ・・・」
ボクの心配はどこへやら、5体満足でドラゴンを屠っていくサキさんとユリさん。これは最早一方的な虐殺だなと思い、ドラゴンに同情してしまう。
「というか、空飛べる人たちが予想よりも多くてドラゴンがリンチされてるような気がするね」
「まあ、流石に運営も鬼じゃないし?」
なんというか、地上を歩いていた大量のゴブリン・オーク軍団の方が十数体のドラゴンよりも手こずったような・・・。
「ほい、ただいま〜」
「おかえり〜、やっぱその夜の戦闘に強そうな見た目で実際めちゃ強なのズルいわ〜」
「そういうマリアだってエロフな見た目しといてアウトレンジばんざいな戦い方するのはずるいと思います!」
「ぎくっ!だ、だってゲームの中で現実よりも大きくしとけば現実での重さがマシに感じるかなって・・・」
何の話をしているのかは分かるけど触れないでおこう。
「で、これで終わりなの?」
『た、大変だー!でかいのが来るぞ!このままじゃ街がぶっ壊されちまう!』
「およ?これはNPCの台詞かな?」
「そうみたいですね。てことは次がボス級ということでしょうか?」
ゴブリンとオークを一掃し、ドラゴンを撃墜したところで一旦落ち着いたと思われたクエスト。でも今のアナウンスからわかる通り、大きな敵が来るみたいだ。他のゲームではこういった敵というのはボス級の敵で、それらを倒せばクエストクリアな場合が多かったのでこれもそうなんだろう、という推測。
そんなことを考えていると一瞬影が通った。それが何かを探していると次第に影が大きくなり、風を切る音も聞こえ出した。
「おわ、なんかやばそう」
「でかいドラゴンかなんか来るのかね?」
「これ街壊れたらどうなるんですかね?」
三者三様な反応をするボクたちだけれど、その正体が分かると皆揃って同じことを考えた。
「「「でっかい(な)(のです)(わね)!!??」」」
音の正体はとてつもない大きさのドラゴンだった。さっきのドラゴンがミニチュアに見えるほどの大きさは太陽の光を遮りボクたちのいる場所を暗くする。
「でかいにも程があるでしょー!?」
「これあたしたちじゃ無理でしょ!」
「これ倒せるですか・・・?」
最早負け確のネタ枠だろ、と言いたくなるドラゴンに戦意喪失になりかけていたボクたち。しかし、
「よっしゃ!コレぶっ飛ばせば終わりやんな!やってやろうじゃねぇかこの野郎!」
「地面に落とせば数で押し切れるだろ!」
と威勢のいい台詞を吐くプレイヤーがいたことで緊張が緩み、イベント参加プレイヤーに戦意が戻ってくる。
「そうね、これ倒せばイベントクリアだもんね」
「まあ、やらない後悔よりやる後悔って言うしね」
「先輩とならなんでもやってやりますよ!」
「私もモミジさんとなら!」
「そうだね。私達レベルは高いからね。あとトウカちゃん、今何でもやるって」
「あ、あはは・・・。よし、それじゃボクたちも行きますか。多分最後の戦いに!」
「「「ええ(はい)(うん)!」」」
そう掛け声を出してボクたちはまたしても先立って突撃を始めたプレイヤーに続き、ドラゴンの撃破に向かった。正直ドラゴンが大き過ぎて近づいているのかすら分からないけど。
しばらく走りようやくドラゴンの脚が近づいてきた時、ドラゴンが口を開けた。
「あ、なんかやばそう」
「ここに盛り上がった土があるよ!こっち!」
「か、隠れろ〜!」
咄嗟の判断で数人が隠れられそうな土壁を見つけ潜り込む。よく見ると戦場にいくつか形成されていて、回避のしようはあるみたいだ。
『グルァァァアァア!』
ドラゴンが吠え、口の中が紅く光ると次の瞬間、真っ赤な火炎放射が放たれた。壁裏に隠れていたプレイヤーは炎を避けられたけれど、そうでないプレイヤーは
「しまっ、あっつぁぁぁ!!!」
「ぐわぁぁ!」
火炎放射の直撃を喰らいさらに火傷の状態異常で倒れ初期位置でリスポーンしていた。
「あっぶなー!」
「これ見つけれてなかったら死んでたです・・・」
「なんとか無事ね・・・」
何とか回避したボクたちや一部プレイヤーたちは再び前進、ドラゴンがまたブレスを吐く前に距離を詰めようとした。
ドラゴンにかなり近づき弓や銃ならば射程距離内に入ったかというところでまた動きがあった。
「うわぁっ、横に避けて!」
「し、尻尾ぉ!?」
「危ない!」
なんとドラゴンが尻尾を振り下ろし攻撃してきた。反射的に避けれたプレイヤーは少なく、かなりのプレイヤーが鱗に覆われた硬い尻尾に薙ぎ払われ倒れた。
「今なら詰めれる!」
ボクはそう判断し一気に走る!
「私、飛んで近づくわ!」
「私も飛ぼう。ダメージが蓄積すればそのうち飛べなくなるはずだからね!」
「モミジさーん、私も突撃するです!」
メンバーもそれぞれ自分に合った戦い方をしようとしているようで移動を始めた。
「出し惜しみはしないよ、『一斉召喚』」
「ご主人、ご命令をってでかぁ!?」
「こりゃあ主の乳揉んでる場合じゃないねぇ!」
「あらあら、これはなかなか骨の折れそうな戦いですね」
「最初っから、クライマックスだぜぇ!」
「みんな力を貸して!」
「「「はいっ!!」」」
こういう時くらいしか使わないであろう、新しく覚えた技を使う!
「風・雷・火・水、主従同時攻撃!」
まず景の炎を纏わせ、次に彩の風で竜巻を起こし炎の竜巻を形成。炎の勢いが弱まってきたところで瑞の力で消火、竜巻に凍らせた水を混ぜダイヤモンドダストを発生させたところで紫の雷を放ち感電させる。そうして動きが弱まったところでボクが一閃ごとに属性を持たせ斬る!
「す、すごいのです!」
「先輩かっこいい〜!」
「ありがとう。ただ、これ消費が激し過ぎて撃ち終わったらしばらく動けなくなるんだよね・・・」
そう、強力だけどその分代償も大きく、足に力が入らず膝から崩れ落ちるのがこの技。誰か介抱してくれる人が近くにいればいいけど、1人だとまず死ぬだろうという大技。
「先輩はここの壁裏に居て下さい!私達がダメージ蓄積しておきますから」
「ごめんね、頼むよ」
「私の連撃を喰らいやがれです!」
「うわ、サクラちゃんすご!よ、よ〜し、私も負けないぞ!」
ハンマーを振り回すサクラが重たい打撃を与え、刀を使うトウカが剣を止めずに袈裟斬りだの唐竹だのといった型を浴びせる。ドラゴンは・・・多分嫌がってると思う、うん。
「お、おいあの子たちすげえな」
「女に負けてたまるかってんだ!野郎ども、あのカワイコちゃん達にいいとこ見せてやろうぜ!」
「「「応!!」」」
それに触発されたのか周りのプレイヤーたち・・・生き残り組、リスポーンして追いついた組が奮起して攻撃をし始める。
「あらら、男ってホント単純ね〜」
「そうね。でもそのおかげでかなり下まで降りてきたわよ、あいつ」
「うわ、いつの間に!」
そのまま数の暴力でダメージを与え、ついにドラゴンは地に足をつけた。しかし流石にそのままやられるわけもなく、再びブレスを吐こうと口を開ける。
「まずっ、た、退避〜!」
その瞬間を認識できたプレイヤーはすぐに近くの壁まで逃げ込む。
その時、突如『ガアァン』という乾いた音が響き、ドラゴンの眼球に向けて何かが吸い込まれる。するとドラゴンは大きく怯み、ブレスがキャンセルされた。
音の正体を見つけようと辺りを見渡すと、ドラゴンに銃口を向けたプレイヤーが伏せていた。
「なるほど、狙撃したのか」
「ナイスだ!そうか、目は鱗で覆われていないからな!」
彼を見つけたプレイヤーたちから感嘆と称賛の声があがる。
「俺に出来るのはこれくらいだ!前衛、頑張れ!」
「おっしゃ、全員でタコ殴りじゃ!」
「「「おぉおぉぉ!!」」」
「ボクたちも行こうか」
「そうですね、このままクエストクリアしてやるです!」
「私も援護するわ!」
そうしてどんどん削れていくドラゴン。HPバーが残り1割というところでボクはたまたまドラゴンに肉薄していて、他に2人ほどいたプレイヤーと共に最後の一撃を加える。
「豪雷斬り!」
「バーンナックル!喰らえ!」
「グレイプニール!」
斬撃と共に落雷が落ち、炎を纏わせたパンチで爆発が起き、至近距離から大量の光弾を浴びせられたドラゴンはついにHPバーを全損し倒れる。ついにボスであろうドラゴンの討伐に成功した!
「やったぁ!」
「勝ったのです!」
「っしゃあ!勝ったぞぉ〜!」
「ばんざぁ〜い!」
「バンザーイ!」
「大本営発表!作戦に成功せり!」
『旅の戦士たちよ、よくやってくれた!皆の協力の甲斐あってトレスは守られた!皆、本当に感謝する!』
そんなアナウンスの後、クエストクリアの表示が出た。それからはお楽しみ、クリア報酬ガチャの時間。
「おや、これは新しい着物だ。後で着てみよう。それに・・・新しい刀か。どれどれ・・・」
<龍魂刀『顎門』>
あらゆる生命を恐れさせた巨大な龍の魂が宿った刀。素材には龍の鱗と爪が用いられている。
ATK+80
新たなスキルが使用可能
という性能だった。うん、たぶんレアだこれ。強い。
「あとは・・・お、銃が貰えてる」
<一○○式軽機関短銃>
その昔とある世界で用いられた銃。精度が良い分連射力に欠け、威力も小さい。
連射武器・物理
「細かっ!あ、あとは・・・?え、『ボロ布』?」
<ボロ布>
ゴブリンやオークが身につけていた布。何日も洗っておらず、また大事な部分を隠していたため、くさい。
これはインベントリから出さないようにしよう。他の人はどんな感じだろうかと周りを見ると、
「っしゃあ、レア武器ゲットォ!」
「くっそ、ゴミしかねぇ!」
「ちょ、布面積少な過ぎだろこれ!」
「いいだろ男なんだし、減るもんじゃなし」
「いや何かが擦り減るわ」
いいものが当たり喜ぶ人、何も当たらず号哭する人などいろいろいた。
「わ、かっこいいお衣装が当たったのです!」
「あら〜、本当ね。良かったわね、サクラちゃん」
「はい!」
「うわボロ布くっさ!・・・あ、でも奥の方に・・・くっさ♡」
なぜかしきりにボロ布の匂いを嗅いでいたサキさんだけど、いつのまにかマリアさんが持っていたハリセンで「スパァン!」と小気味いい音を鳴らしてはたかれていた。
「いったぁ・・・」
「馬鹿なことしないの!小さい子もいるんだから」
「はぁ〜い」
そうして騒がしいイベントクリア報酬の時間が過ぎていった。
<イベントは終了しました。旅人の皆さんのおかげで無事にトレスの街は守られました!お疲れ様でした!イベント中の映像は公式サイトより閲覧頂けます。また本イベント終了時より『ギルド』機能を追加します。ギルドは近日開催予定の『G1グランプリ』、また近日実装予定の『ギルド統治可能マップ』に関係します。お楽しみに!>
「へえ、ギルドか。・・・え、なにみんな」
「いや〜、そりゃあねえ」
「こんだけ一緒に頑張ったし?」
「ギルド結成したいのです!」
「ギルド組めばいつでも先輩にくっついていられるって本当ですか!?」
「私も組みたいなぁ、ギルド」
「・・・はいはい、じゃあギルド組むって前提で、みんなフレンドになっとこうか」
「やったあ!」
「あ、もちろんリーダーはモミジちゃんだよ?」
「なんで!?」
「だってこんな可愛い狐ちゃんなんだもん」
「ギルドの顔としては120点よ」
「先輩の可愛さは世界一」
「お〜い後輩、戻ってこい」
いつの間にかギルドを組むことになって、しかもそこのリーダーを務めることになってしまった。
「・・・モミジ、このあとちょっといい?」
「?分かりましたユリさん」
===============
「で、どうしたんですかユリさん?」
「いや〜、最近どうなのよ紅葉?」
「?まあ、ぼちぼち元気でやってるよ百合華お姉ちゃん。・・・あ」
「やっぱり!紅葉だ〜!」
「ほんとに百合華お姉ちゃんなの!?」
「うん、そうだよ?っていうか、2人とも名前安直だね〜、紅葉は本名の読み方変えただけで、私は一文字削っただけって」
「なんか、さすが姉妹って感じだね。父さんと母さんは元気?」
「うん。2人とも元気だよ。今はたぶんこれの運営してるんじゃない?」
「・・・え?これ?」
「あれ知らなかった?父さんと母さん、『TRF』の開発側の人間だよ?」
「えぇえぇぇ!?」
2人がゲームクリエイトに関わる仕事をしていることは知っていたけど、まさかこれに関わっていたとは。
「あ〜、そっか。紅葉は高校進学の時に引っ越したもんね、知らなくてもおかしくないか」
「うそぉ・・・。あ、だったらお姉ちゃん、お願いがあるんだけど、父さんたちに言っておいて欲しい。『蜘蛛の苗床クエストは廃止してくれ』って」
「あ〜、あのちょっとミスるとおぞましい数の蜘蛛が湧いてくるあれ?紅葉蜘蛛無理だもんね、分かった、後で言っておくよ」
「ありがとう。・・・あ、そうだ。ギルドではボクたちの関係隠す?」
「いや、むしろ積極的に言って行こう。『私がモミジを女好きにした女です』って」
「なんか恥ずかしいからやめて・・・」
世間狭しとはよくいうけれど、まさかゲームでたまたま受け止めた人が現実の姉だったとは。




