21.イベントクエスト(前)
現実世界・日本時間22時30分、ゲーム内では昼の時間帯ではあるけど、これからイベント戦闘が始まる。
『旅の戦士たちよ、集結感謝する。私はトレス領主レド。レド・ツェペランである。現在トレスは危機に瀕している。魔物達の暴走が発生した。奴らの進行方向はここだ!我々も防衛を行うが、戦力が不足しているのが現状だ。旅の戦士諸君にも協力を願う!』
「おお、手が込んでるね〜」
「そうね。イベント開始のテンプレートとしてはよく見るやつだけど、リアルさがあるわね」
「ふ、雰囲気ぶち壊し・・・」
「あはは・・・」
大人組の元も子もない発言に勢いを削がれツッコミを入れるトウカに苦笑しつつ、イベント開始に伴う強制転移で街の前、目測150mあたりのところに転移したボクたちプレイヤー。どうやらイベント戦闘はさっきの演説で始まりだったようで、よ〜く目を凝らせば遠くに微かに土煙が見える。恐らくあれが暴走する魔物、10年前くらいに流行ったネット小説なんかでは「スタンピード」などと呼ばれていたそれに気づいたプレイヤーもいたようで、
「ファーストキルは俺がもらうぜ!」
と言って走っていった人がいて、一瞬呆気に取られた他の人たちもはっとしてそれに続いていく。
「それじゃ、私たちも行きますか。モミジちゃん、指揮は任せたよ!」
「え、えぇ!?ボクですか!?」
「ええ。だってモミジちゃん周りをよく見てるから。あたし人間観察は得意なんだ〜」
「わ、分かりました。じゃあ近接系の人は突撃、遠距離の人は突撃する前衛の支援をお願い!」
「りょーかい!」
「やってやるですよ!」
「ひゃっはー!汚物は消毒だ〜!」
最初に駆け出した人はもう接敵しているのかな。走りながらそんなことを考えていると、次第に敵の全容が見えてくる。
「うわぁ・・・」
「これ私大丈夫だよね?淫魔だからって襲われないよね?」
「エルフのあたしの方が危ない気がするなー・・・」
「?あれがどうかしたんですか?」
「サクラはそのままでいて」
各々がそう感想を漏らした理由、それは敵の編成にあった。
先陣を切って走っている、緑色の肌に棍棒を持ち、尖った鼻や耳を持つボクたちより一回りか二回り小さいやつ・・・知能は低いけれど繁殖力が高く、集団で来られると苦戦するのでお馴染み、そう、ゴブリン。更にその後ろにはこれまた緑色の肌に豚鼻で斧や棍棒で武装し、下半身の最低限の部分だけを隠す布を身に纏う巨人型のやつら、言語を話す時もあったり意外と知性があったりと作品によって扱いが変わってくるやつら、オーク。
それらが群れを成して突撃してくるのだから、迫力がすごい。
「こらぁ、運営になろう系ばっか読んでたやついるでしょ〜!」
「それか同人ゲームやりこんでたやつ!ここにきてテンプレみたいな編成にしなくていいでしょうが〜!」
「ま、まあ5.56mmの弾が効かないドラゴンとか、ミサイルが追尾してくれないドラゴンとかがいないだけマシだよ・・・」
と話していると突然敵が吹っ飛んだ。
「うわっと、始まったみたいね」
「ファーストキルが範囲攻撃って、すごいわ〜」
「これ、ボクたちいるかなぁ?」
「ま、私はこの辺で魔法打っとくわ。『メテオシャワー』」
魔法は英語なんかい!と心の中でツッコミながら進む。今のボクは始めたての頃に入手したレア武器、「童子切安綱」を装備しているので前線に出れる。
「あたしもこの辺にスタンバイするね。狙撃手の腕前、披露しちゃうよ〜!」
「お願いします!サクラ、トウカ、行ける?」
「お任せ下さいです!私の鍛えた斧の力、見せてやりますです!」
「任せて下さい先輩!私だって刀がメインなんです!それに万が一の時は街で売ってた拳銃ぶっ放してやりますよ!」
頼もしいなぁと思いつつ、ボクも肉薄する。恐らくゴブリンに関しては先に突撃した人たちが片付けてくれるだろうと思うのでオークを対処しよう。
「せぇいっ!やぁ!おまけだよ、『爆炎札』!」
『グボォァァ!?』
機動力を生かして懐に入り込み、オークが混乱している隙に2、3回斬撃を叩き込んだ後に爆炎札を貼り付ける。少しした後に爆発してオークを撃破。
「よし、このままキルを稼ごう。って、うわわっ!」
「きゃああっ!」
気合いを入れ直した瞬間、土埃の向こうから真っ白な塊が飛んできた。悲鳴が聞こえたので思わず受け止める!
「くぅっ・・・と。大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとうございます・・・。ん?その声、もしかして・・・いや、気のせいか」
「へ?その声・・・いや、気のせいか」
「助けてくれてありがとうございます。いや〜飛べるからって油断してたわ〜」
「だ、大丈夫ですか?・・・あれ、もしかしてソロですか?辛くないです?」
「あ〜、まあ確かに辛いかな。でもあたしパーティ組んでくれる友達とかいないし、仕方ないかなって」
「よければ組みます?ボクたち今5人で組んでるんですけど、増えても問題無いですし、ステータスも共有できるし」
「へ、いいの!?願ったり叶ったりよ!よろしく!あたしはユリ、よろしくね」
「ユリさん、よろしく。ボクはモミジです」
「モミジちゃんね、よろしく!・・・モミジ、ってやっぱり・・・いや、偶々か」
(ユリって名前でこの声・・・いや、流石に偶然でしょ)
「モミジさん、右翼が押されてるです!」
「え、あほんとだ。援護しよう。ユリさん行けますか?」
「任せて!・・・って言いたいところだけど、さっきの一撃で結構削れちゃって。回復するまで後ろで待機するわ」
「了解です。サクラ、行こう」
「はい、モミジさん」
「ちょ、先輩!私も行きます〜!」
それからしばらくは押され気味のところに走って支援をした。おかげで結構な数のオークを屠って肉壁が薄くなってきたところで後ろが見えたのだけれど・・・
「うっそでしょ・・・」
「飛んでますね・・・」
「先輩のぼやき、見事にフラグでしたね」
そこには10を超えるドラゴンが猛然と飛んできていた。
「やばい、ボクもサクラも対空装備は持ってないよ」
「私もこの拳銃じゃあ火力不足です・・・」
「一旦下がってマリアさんとサキさんと合流しよう、それから作戦を考えよう」
「了解です」
ボクたちは前線から退いて合流し、体勢を立て直す。
「私も一応飛べるから肉薄して魔法打ち込めるわ」
「あたしも弓で応戦できるよ」
「ではお二人にお願いしていいですか?ボクたちは対空できなくて・・・」
「任せなさい。みんな前線で頑張ったんだから、こんな時くらいお姉さんたちにいいとこ持って行かせてちょうだい」
「マリア、先行くわね。援護お願い」
「はいはい、任せなさいな」
「お待たせ。回復終わったわ。あたしも飛べるし、天使だから魔法使えるから行ってくる!」
「あ、はい!」
「およ?モミジちゃんいまのは?」
「さっき知り合ってパーティに入れさせてもらったユリさんです。実力はまだ未知数ですが頼もしい戦力になってくれるといいですね」
「あらぁ・・・、モミジちゃん女たらしだねぇ」
「ゑ?」
ちょっとそれは不服だなあ。
「と、とりあえずボクもできる限り妨害とかしますから」
ボクは札を放ってドラゴンの集中を逸らすことにした。
「っ!?危なっ!」
突然感じた殺気に咄嗟に回避する。
「ハァ?今の避けんのかよ。女だからって油断しちまったか」
「君、プレイヤーを攻撃するとは・・・PKかい?」
「おうおう、知ってるんだな。そうさ、俺様が百発百中のPK、レイス様さぁ!大人しく死んでもらおうか!」
「あいにくとそうやすやすと死んであげるほど親切じゃないんで、ね!」
「先輩!」
「ふ、ふふ、ふふふ・・・・・・」
「あ?んだこのガキ?」
「サクラ?」
どこか様子のおかしいサクラにびっくりしていると、
「PK、死すべし。母の教えにあったのです、PKは秩序を乱す屑だから見つけ次第排除せよと。死ぬのはPKさんの方ですよ」
「っ、ガキが調子に乗るなよ!」
「選ばせてあげるですよ、大人しく一撃でやられるか、惨めにズタズタにされて死ぬか」
「舐めやがって!」
「小さいからって舐めちゃ痛い目を見るですよ・・・!」
それからはサクラの独壇場だった。PKさんの放つ攻撃を正確にいなし、かわし、跳ね返しながら的確に攻撃を加えるサクラ。次第にPKさんの顔が恐怖に染まり、最終的に胴体に重たい一撃を喰らって倒れた。
「ふぅ、はぁ〜楽しかったです!」
「そ、そう・・・ヨカッタネ」
ふと見上げると空中に公式のものであろう録画ドローンが飛んでいたけれど、黙っておいた。




