12.海辺に拠点が欲しいよね
「こんばんは。今日も始めるよ。まずは新しいホームの紹介をしよう。早速ドスにホームを購入したよ」
『始まった!』
『きちゃ!』
『はやっw』
コメントを見ると配信が始まるのを待っていた人や早速新しい街に拠点を購入したことに驚く人など様々。
「まあ、ホームが新しくなってもやることは変わらないんだけどね。てことでコメントしてくれるかな?」
≪ 瑞雲最強 さんから¥1000が贈られました≫
「はっ?」
突然、所謂「投げ銭」が飛んできたので気の抜けた声が出てしまう。・・・そう言えば、ボクのタブレットに収益化云々のメッセージが送られてきていて、色々と設定したような。懐かしい顔と会ったのと燈香とお出かけしたことで浮かれていてあまり考えずにやっていたような気が。良かった、詐欺関連のメールやメッセージに入力していなくて。下手したら今頃ボクは社会的に死んでいたかもしれないと思い冷や汗が溢れ出た。
『みんな!貢げるぞ!!』
『収益化されとる!』
『収益化おめ』
そんなボクを尻目にコメントは視聴者たちが賑わっていた。
≪ かもめ さんから¥1500が贈られました≫
≪ ソニック さんから¥500が贈られました≫
「ちょ、みんな落ち着いて。お金は大事にして?」
『睡眠用のASMR買うより安い』
『推しに貢ぐ。これ世の常なり』
『投げ銭されて戸惑うモミジちゃん可愛い』
≪ 通りすがりのセレブ さんから¥10000が贈られました≫
『受け取るザマス!』
「みんな落ち着いてよぉ・・・。そんなぽんぽん投げるものじゃないよぉ・・・」
『キャパ超えてふやけてるw』
『かわいい』
『かわいい』
『セレブすげぇw』
ボクが何度諭しても視聴者は止まらず、ボクは自分でもおかしいと分かるくらいふにゃふにゃになっていた。
「つ、釣りしよう。そして気を落ち着かせよう・・・」
ボクは無心になる為釣り糸を垂らし、竿先を凝視した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『質問。俺氏は雪国が実装されて欲しいと思っているんですが、モミジちゃんは実装されて欲しいロケーションはありますか?』
「お、質問ありがとう。そうだね・・・今のところ釣りスポットが川か湖しかないから、海が欲しいかな」
『わかる』
『その時は水着も実装されてくれ』
『ヌーディストビーチになったりして』
海辺のロケーションが欲しいと答えると、コメントではボクと同じように思う視聴者のコメントが多数書き込まれた。
「具体的にいうと、例えば長い桟橋の先の方、まあ水深が深くなるようなところにペンションみたいな感じのホームが欲しいな。そんな豪華なものじゃなくて、もっとこう、リゾート地って感じの。ゲームだからこそ作れるようなホームがいいな」
『言ってることがもう釣り人なんよ』
『釣りガチじゃないですかやだー』
『でも言いたいことは分かるぞ』
コメントからそう指摘される。そんなに思考が釣りに持って行かれてるかな?と思ったけれど、確かに釣りをしながら答えたのでもしかすると万が一だけれどもあるかもしれない。
『サメが釣れて大変なことになったりして』
「それ、本当にありそうで怖いんだよね。実際にゲームの魚たちはリアルだからね。もし鮫が釣れたらきっとボクでも慌ててしまうだろうね」
『これは期待w』
『フラグは立った・・・!』
『むしろサメしか釣れないで欲しい』
『お?モミ虐か?』
その後、いつものように配信は進んだ。
『今気づいたけどモミジちゃん尻尾増えてね?』
「ん?ああ、増えたよ。見る?ほら」
そう言ってボクは立ち上がり尻尾を揺らす。
『モフモフじゃー!』
『モミジちゃんお尻も一緒に振りよる』
『すけべだと思ってしまった』
気づかずお尻も振っていたようで、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「んっうん!は、はい終わり!」
『照れとるw』
『恥ずかしかったんやなw』
『かわいい』
「う、うるさいよっ」
そのまま配信は終わりに近づき、締めに入る。
「それじゃ、今日は、この鰻を使って白焼きでも作ろうか」
視聴者とわいわいやっている間に釣れた「ヌメウナギ」という魚を使おう。ちなみにヌメウナギという名前とは裏腹にあまりヌメリがある訳ではなく、掴みやすい。
インベントリから魚を選び料理を選択するといつものように体が勝手に捌いていく。
まな板に鰻を目打ちで固定し、背中側から開く。尾びれの方まで開けたら内臓を取り、背骨を取る。ゲーム内での鰻は血液に毒があるか分からないけれど、血を抜いている。毒があるのか、それともただ単に現実での捌き方に忠実なだけなのか。
捌けた鰻を網に乗せ遠火で焼く。この時、焼きながら何度もタレを塗ると「蒲焼き」になるけれど、今回は白焼きなので味付けは塩で。
「完成、と。豪快に一尾丸ごとなんだね」
『美味そう』
『お酒欲しくなる』
『正直これを見ながら日本酒飲むとめっちゃ美味い』
『丸ごとてw』
コメントでは飲兵衛な視聴者の嘆きや報告に加え、丸ごと使ったことに驚く視聴者もいた。
「それじゃ、今日の配信を終えるよ。今日も見てくれてありがとう。それじゃ、寒くないようにするんだよ。また見てね」
配信を終了し、夜も更けてきていたのでゲームを終了する。
するとボクのスマホに通知音とともにメッセージが届いた。それは深雪さんから。
『配信みたよ!途中でふにゃふにゃになる紅葉かわいかったよ。懐かしいね、バンド入りたての頃を思い出したな』
というメッセージの後に「きゅんっ♡」というスタンプが送られてきた。どうしてあれだけ色々とあった配信の中であれが一番印象に残っているのか・・・。いや、昔を知っているからこそなのかもしれない。




