11.クエストしてたら尻尾が増えた
「扶桑村は・・・あった、ここか。そんなに離れてはないみたいだね」
神社での一幕を終え、その扶桑村へ足を運ぼうと思う。話によれば、これまで神社で会ったイナリさんの本体?にあたる存在がいるとか。
扶桑村へのルートを確認し、道中でも何度かマップを確認すること数分。ボクは扶桑村へと辿り着いた。
扶桑村は多くの家屋が木造建築で、ちらほらと西洋風、まあウノやドスの街に見られる建築が建っており、明治の文明開化の風景を彷彿とさせる。そんな扶桑村で最も存在感を放っているのは、村の中央に位置する大きな神社。
「そこの方、お待ちを。あなたがお持ちの地図、それです。拝見してもよろしいでしょうか?」
参道を歩いていると、巫女服を着た人にそう声をかけられた。手紙と言われドスの神社で貰った地図を取り出す。
「これですか?どうぞ」
見せない理由も無いので手渡す。
「失礼します。やはり、これはイナリ様の直筆。先程イナリ様より来客の知らせがありましたが、あなたで間違いないようです。あ、名乗りがまだでしたね。私はカイリ、ここ扶桑大社の巫女を務めている者です。どうぞお見知り置きを」
「ボクはモミジです」
お互いに名乗りを終えた後、カイリさんが「イナリ様がお待ちです、どうぞこちらへ」と先導するのでその後を着いていく。一応鳥居の外を通る。
「イナリ様、お客人です」
カイリさんがそう言ったので、今度はどこから出てくるやらと思っていると・・・
「ほう、貴様がモミジとな。うむ、分体からの情報と違いは無いの」
一度見たはずの背後から声が聞こえ、結局驚く羽目に。
「かかかっ、驚かせてしもうたかの」
「い、いえ・・・。あなたがイナリさんの本体?ですか?」
「いかにも。妾こそあやつらを統率しこの地を治めるイナリだ。よろしく頼むぞ、モミジ」
そう言って一度話を切るイナリさん。まさか挨拶するためだけに呼んだ訳じゃないだろうと思っていると、
「して、早速であるが本題に入ってもよいかの?」
と問われたので頷く。
「では本題だが・・・。最近、近辺の邪な者どもが活発になっておる。最近増えてきた旅人らが街道周辺のものはあらまし潰しておるのだがの。そこから一歩踏み込んだ先では未だ大勢活動しておるのだ。無論、妾が出張ることができればよいのだが、生憎妾は村を統治せねばならぬ上、分体の管理で手一杯なのだ。そこで貴様に彼奴らの討伐を依頼したいのだが、良いかの?」
<クエスト:神子のお手伝い(1)を受注しますか?>
という表示が現れる。何度か見たクエスト発生の表示だ。別に断る理由も無いので『受注する』をタッチして受注。
「そうか、頼まれてくれるとな。それではよろしく頼んだ」
そう言ってイナリさんは慌ただしく社の奥へ消えていった。突然消えるんじゃないのか、と思ったのは内緒。
クエストの内容は、エネミー(敵対mob)を300体倒すというものだった。場所の指定はないので累計300体を倒せばクエストクリアになるだろう。
「まあ、今日中には終わると思ってたよ」
まだこちらのマップのレベリングスポット(エネミーが多く出現する区域)を見つけていなかったので、探索はまた別日にすることにし、いつもの洞窟へ。そこで2時間程エネミーを薙ぎ倒したところ、300体の討伐が完了した。
ワープ機能で大社へ。境内に入るとイナリさんが現れる。
「貴様、どうやら邪な者どもを片付けてくれたようだの。周囲の邪気が減っておる。流石は妾の見込んだ旅人よ」
<クエスト:神子のお手伝い(1)を達成しました>
という表示が出て一気に大量の経験値が貰えた。それによって32レベルだったボクは34レベルまで上がったのだった。
「しかし、気を抜くにはまだ早いようだ。雑魚は減ったが、大きな気を感じるのだ。恐らく強力な者・・・民は彼奴らを『ネームドエネミー』と呼んでおるが、そやつらも活発になっておるのだ。モミジよ、貴様にはまたそやつらの討伐を頼みたいのだ」
<クエスト:神子のお手伝い(2)を受注しますか?>
と聞かれたので受注。
「あいわかった。彼奴らは強力ゆえ、油断せぬようにの」
真剣な面持ちのままイナリさんは社へ消えた。
クエスト内容を確認すると、「ネームドエネミー:憂鬱な天使を一体討伐する」とあった。
強力なエネミーなので念には念をということで助っ人を呼びたいと思い、トウカに連絡する。
『トウカ、今いいかな?』
するとすぐに返事が。
『大丈夫ですよ先輩。どうしたんですか?』
『今、新しいマップでクエストを消化していてね。1人ではちょっと厳しそうなんだ。手伝ってもらえると助かるんだけど』
『分かりました!今向かいますね!』
というチャットの後、返信は無かったのだけれど、トウカはボクの位置を知っているのだろうか?
「お待たせしました!」
「おわぁっ!?」
など考えていると、いきなり後ろからトウカの声が聞こえて飛び上がるくらい驚いてしまった。
「は、早かったね」
「はい、先輩の位置はフレンドリストに書いてあったので、ワープしてきました!」
「な、成程。こほん、それじゃ、パーティ組もうか」
「はい。それで、何を手伝えばいいですか?」
ボクはクエストの内容を伝えた。そしてボク達は指示された地点に向かい、そこで該当エネミーと対峙することになる。
「あれが憂鬱な天使・・・。なんか、天使っていうよりもクリオネに羽が生えたみたいな見た目ですね」
「そうだね。でもどんな攻撃をしてくるか分からないし、注意しないと」
ボク達はゆっくりと進み、間合いを縮める。しばらく行くとエネミーの索敵範囲内に入ったのか、「キィィィイン」という鳴き声を発してこちらへ突撃してきた。
「来たよ!」
「はい!『受け流し』!」
トウカは装備していた刀のスキルを用いて初撃を回避。
「爆炎札!」
ボクもスキルを発動。狐火よりも威力の高い炎が籠った札を投げ、命中すれば封じられた力が一気に解放される。が、避けられてしまった。
「あれ、避けられた。仕方ない、ちょっと消費がでかいけど、『爆炎札・追尾』」
先程の札にホーミング機能を搭載したスキル。追尾機能の代わりに消費が約1.5倍になっている。
高速で移動するエネミーを正確に追尾した札は見事着弾しエネミーは炎に包まれる。
「よしっ。・・・あれ?」
「あんまし効いてないみたいですね・・・」
エネミーは平気だった。属性があっていなかったのか?
「なら・・・『暴風札・追尾』」
続いて放った札がエネミーに着弾すると突然吹いた暴風にエネミーはバランスを崩し墜落した。
「今がチャンスです!」
「そうか、あれは気流を操作しながら飛んでいるから、異なる気流が発生すると剥離するのか」
よく考えれば飛行機と同じことだった。確かに飛行機が乱気流に弱いように鳥も乱気流に弱いんだった。
「おりゃおりゃ!ちぇすとぉ〜っ!」
声を出しながらトウカは墜落したエネミーを斬りつける。エネミーの体力ゲージがみるみる減っていき、半分が削れた。
「ボクもいくよ。『夢想封印』!」
エネミーに向かって大きなエネルギー弾が4つほど飛んでいく。消費もバカにならない分威力は申し分なく、その一撃でエネミーの体力ゲージを一割程度削った。
「このまま削り切りますよぉ!」
それからボクはほとんど周囲の警戒で終わってしまった。スキルを惜しみなく使うトウカの止まらない猛攻はエネミーをもう一度飛ばす余裕すら与えず、地上でわちゃわちゃしている間にエネミーは体力を全損し消滅した。
ネームドエネミーということもあって経験値はそれなりに美味しく、ボク達は一気にレベルアップした。
「わお、これは美味しいですね」
「ボクもさっきまでの分も合わせてレベルキャップに届いてしまったよ」
「ってことは!先輩がよりモフモフに・・・うへへ」
いつものエフェクトが出て、ボクの尻尾は4本になった。その際、トウカがちょっとお見せできない表情をしていたことは彼女のためにも黙っておくことにしよう。




