10.新しい街、新しい拠点、新しい神社
TRFにダイブして、アップデートが正常にダウンロードされていることを確認する。
「新しい街、か。行ってみようかな」
と思い立ち、ボクはウノの街を出発する。目的地は新たに追加された街、ドス。
「それにしても、最初は歩いて行かなくちゃいけない、とは大変だ。ボクは体力がある方ではないんだけどね?」
マップを確認したところ、中々の距離があった。ワープ機能も追加されたけど、ワープシンボルを起動しないとその地点へのワープが解放されないので、どちらにせよ歩かなければならない。
ベータテストで何度も見た街道の景色を見ながら歩くこと十数分。ようやくマップの追加された部分の始めまでやってきた。
マップが広いと言うより、ウノの街の対角にマップが追加されたので、かなり距離がある。ウノの街はマップの中央ではなく、実は端の方にある。
「ここから街まではそう遠くないのか。ふぅ、頑張ろう」
道中で見かけたワープシンボルは一通り起動してきたので、帰る時は楽だろう。
それからさらに数分後。いくつかのシンボルを起動し、雰囲気のがらりと変わった景色を見ながら、ようやく2つ目の街、『ドス』へ到着した。とりあえずはこの街の水辺にある拠点を購入して、内装を施しておきたい。
丁度いい場所にホームがあったので、貯金から購入。内装を今回は洋風にしてみたく思い、クローゼットや化粧台、収納付きのベッド(見た目は某家具屋にあるような収納付きベッドだけれど、流石に収納機能は付いていない)を配置。さらに釣り場となるバルコニーには飲み物や軽食が置ける程度の小さめの机に長時間座っても辛くならないチェア(尻尾が潰れて痛くなったり形がおかしくならないように腰の辺りが空いている)を配置。これで配信中でも大丈夫だろう。
拠点が一通り完成したので、付近の探索をしようと外に出て、街をうろうろとしていると、鳥居が見えた。近づいて見れば、それはウノの街にもあった神社とよく似た構造をしていた。
「せっかくだし参拝しておこうかな」
鳥居の端(出来れば鳥居の外を通るのが良いらしい)を通り、手水で手と口を清める。
拝殿の前で拝む。ウノの街では挨拶をするものだ、と言ったけれど、よくよく考えると神社というものは祟りを鎮めるために造営されるもので。拝む時は祟りが起こらないことを祈るらしい。しかしそれはリアルでの話、ここはゲームの世界なので少し違っていたとしても問題はない、はず。
拝んでいると、周囲の音が小さくなり、不意にボクのすぐ近くを風が通る。
「おや、この気配は・・・。やはり貴女でしたか」
すると今度は目の前から声が聞こえ、ゆっくりと頭を上げるとそこには、ウノの街でボクを巫女にしてくれたイナリと呼ばれた人が立っていた。
「ここでは初めまして、ですね。貴女のことは聞いていますよ」
なんだかウノの街で会ったイナリさんとは違うような気がするのだけれど、気のせいだろうか。という旨の話をすると、
「ああ、それはそうでしょう。ウノの私も、ここの私も、分身のようなものです。言うなれば、式神が近いでしょうか」
「へ?それは、どういう・・・?」
「つまりは、私の本体と呼べる存在は別の所にいます。当たり前ですが、幾つもの場所に同時に存在できる生命などありませんから」
どうやらウノの街にいたイナリさんとここにいるイナリさんは違うらしい。そしてそれらの分身を作り出した本人は別の場所にいる、と。
「折角ですから、本体がいる場所を紹介しましょうか?貴女も妖狐ですから、きっと歓迎してくれることと思いますよ」
「え?いいのですか?」
「勿論です。本体も貴女と会う時を待っていると思いますよ。生憎私はここから移動することは叶いませんので、こちらを」
そう言ってイナリさんは一枚の紙を渡した。
「こちらは扶桑村への地図です。私の本体はそこにおりますので」
扶桑村、という集落も追加されたというのだろうか。扶桑と言えば、大昔の日本の国号であったとされ、現在も扶桑という地名が残っており、帝国海軍の戦艦に命名されていることから、かつて扶桑国という地域があったのだろう。
「ありがとうございます。近い内に赴きたいと思います」
と言ってお辞儀をすると、「頼みましたよ」という意味深な言葉が聞こえ、再び風が通り抜け、目を開け頭を上げると、そこには誰もいなかった。
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