9.コラボショップでお買い物
今回はリアルでのお話になります。
トウカとショッピングの予定を入れ、彼女の希望する日時に集合場所へ。
「あ、先輩。お待たせしちゃいました?」
駅の改札を出ながらきょろきょろと周りを見渡し、ボクの方を見て小走りでやってきたトウカ。
「いや、今来たばかりだよ。それで、今日はどこへ?」
「そうですね、せっかく今コラボショップが出てる訳ですし、行ってみません?」
そう、TRFはサービス開始から半年を待たずして大規模コラボを打ち出した。各地方の大都市(その地方で最も都市と言える地域)の某アニメグッズショップとコラボし、特設のコラボショップやコラボブースを展開。それまで実店舗とのコラボというものはそのコンテンツが軌道に乗った後にやるのが一般的だったけれど、TRFは初期売り上げがかなり良かったのだろう、このタイミングでコラボを打ち出したようだ。
そのコラボショップが展開しているビルを訪れると、TRFプレイヤーと思しき人々が何人かいた。平日の昼間なので人は少ないと思っていたけど、予想通りだった。
「色々ありますね〜。あ、この扇子のデザイン、先輩がいつも使ってるやつと同じじゃないですか?」
「本当だ、なるほどこういうのもあるのか」
コラボショップには本当に色んな商品があった。プレイヤーに人気のキャラクターのぬいぐるみやNPCのキーホルダーもあったけど、妙にリアルな造形の蜘蛛型の敵のフィギュアを見た時は思わず悲鳴をあげてしまった。その際トウカから「先輩にも可愛いとこあるんですね」と言われてしまったのは内緒。
「ふう、色々買っちゃいました」
そう言うトウカの手には大きな紙袋が。
「あれ?紅葉?」
不意に後ろから声をかけられた。
「久しぶりじゃん、元気してた?」
「久しぶりだね、深雪さん。この人はボクの知人の如月深雪さん。深雪さん、こっちはボクの友達の椎名燈香」
「ども、紅葉の知り合いの如月よ。よろしくね、燈香ちゃん」
「ども、よろしくです」
「にしても、やっぱり変わってないのね、その口調」
「まあ、あの頃に染み付いてしまってね」
「懐かしいわね。あの頃はまだ中学生だった紅葉が今じゃ大学受験も終わらせてるんだから」
「あ、あの〜」
「おっと、置いてけぼりにしてしまったね。なに、ただの昔話だよ」
「そうですか。どんなお話ですか?」
「それはね「その頃の話はボクにとって黒歴史だからあまり詮索しないでくれると助かるな」・・・だって」
つい話を遮って、少々早口になってしまった。
「まあ仕方ないか。紅葉にとってはちょいと辛いからねぇ」
「そうだったんですか・・・。なんか、すみません」
「いや、いいんだよ。いつか話すさ」
「そ〜いえばさ、2人がここにいるってことは、2人はTRFやってるの?」
「そうだよ。トウカとはそこで知り合ったんだ」
「深雪さんは違うんですか?」
「そうね。友人から勧められてはいるけど、どうしよっかな〜って感じ。どう?プレイヤーからしたら。どんなことができる?」
「そうですね、冒険でしたり、採集でしたりと色々です。あと配信なんかもできますよ。先輩もやってます」
「へえ、そうなんだ。私、配信は時々見てるの。紅葉は何て名前で活動してるの?」
「そのままモミジって名前です。先輩は配信で冒険をしないんです。専ら釣りと雑談です」
「モミジ・・・知らない名前ね」
(良かった、認知されてない)
と思ったボクだったが・・・
「帰ったらアーカイブ見てみようかな?」
と言われ、ドキッとした。いや別に悪いことをしているわけではないのだけれど、リアルの、それも数年来の知り合いに認知されるとどことなく気まずい。
「そ、その話は置いておいて。深雪さんは何をしに?」
「私?私は推しのグッズを買いに」
その後、しばらく世間話や深雪さんを含む知り合いで集まる日を聞いて、今日はお開きとなった。
「じゃ、私はバスだから。またね」
「うん、また」「さようならです」
「ボクは空港線だけど、トウカは?」
「私は大牟田線なので、ここでお別れですね」
「そうかい。それじゃ、またTRFで」
「はいっ」
そういえば、アップデートの途中だった。帰ったら新要素に触れてみることにしよう。




