1.おいでませTRF
何でもない、のどかな空が広がるある日。ピンポンとボクの家のチャイムを鳴らす音がする。
「お届けものでーす」
「はーい、今行きます」
どうやら頼んでいた"アレ"が届いたらしい。まあ、発送済みのメールを受け取っているから、分かってはいるのだが。
「印鑑かサインお願いします」
「サインで」
「ありがとうございましたー」
配送のお兄さんが去るのを待って、ボクは気持ち浮き足立って部屋へ戻り、包みを開ける。そこには、つい半年ほど前に発売された新型ヘッドギア、『Fulldive Gaming Device』、通称FGDが。
FGDは2038年、日本のメーカーがそれまでの技術の集大成として開発した、世界初のフルダイブを可能にしたヘッドギア。しかし驚くべきはそのお値段で、世界初の開発にしては学生のボクでも手が届く程の安さだ。そしてボクはバイトや小遣いを溜めたりなど苦心の末ついに入手した。
そしてなぜボクがこのタイミングでFGDを購入したのかというと、以前から開発中だったVRMMO、『Trance Race Fantasy』通称TRFのベータテストが間もなく開始されるから。
ゲームの内容は実際に入ってみれば分かるとして、そのベータテストの開始日とは、今日である。だから今からボクは急いでFGDの初期設定やアカウント登録をしなければならない。
ボクはコンセントにFGDを繋ぎ頭に被る。目の前には白一色の画面にFGDのロゴと制作メーカーが表示され、その後設定画面が。よし、急いで終わらせよう。
「TRFをダウンロードして・・・と。ふう、間に合った」
時間にして約1時間半。少々手間取ったために時間がかかってしまった。そして今から5分後がベータテストの開始時間である。
「3・・・2・・・1・・・0。スタート、TRF!」
視界が暗転、そして視界に色が戻って来ると・・・
「広いフィールド、様々な種族。冒険するもヨシ、キャラメイクにこだわるもヨシ!遊び方は無限大!さあ、あなたもおいでませTRF!」
CMで何度も聞いたフレーズと、同じくCMで見た映像が流れる。それが終わると、視界は一旦白く染まる。
『本世界でのあなたの外見を設定します。性別・種族・初期ステータスを設定して下さい』
ボクがこのゲームを始めようと思ったきっかけとして、ティザー映像に一瞬映った"ある種族"に心惹かれたからというのがある。それは妖狐で、ぴこんと立ったキツネ耳とふさふさ、ふわふわの尻尾が良さそうだった。だから勿論、種族は妖狐だ。そして性別だが、ボクはこれでも女子である。故に女性アバターにする。このゲーム、弄れる項目が多すぎて全て弄る人は少ないんじゃなかろうかと思う程。しかしボクはこういうのに拘るタイプなのでね、細部にまで拘っていくよ。
結果ボクは若干ツリ目で髪型は後ろを腰の上あたりまで伸ばし、耳の前から胸の辺りまで横髪を伸ばした。前髪は長すぎると邪魔なので程よくまとめておいた。髪色は銀。肌は現実のボクと同じく白に近い肌色(学校以外で滅多に外に出ないため)。瞳も現実と同じく黒。そして腰の下、尾てい骨あたりから生えたるふさふさの尻尾。頭にはキツネ耳。
そして驚いたのだけれど、妖狐は初期装備が和服だった。ボクは着物は好きだからいいけれど、普段着物なんて着ない人にとっては動き辛そうだ。そして初期ステータスだが、初期の割り振りポイントとして100ポイントが与えられた。これを好きなように割り振れということだろう。
とりあえずボクは攻撃に10、防御に10、素早さに20、器用さ20、幸運に40と割り振った。
よし、それじゃあゲームスタートだ。
βテスト
name:モミジ
gender:♀
race:妖狐
ステータス
ATK:10
DEF:10
AGI:20
DEX:20
LUK:40
Lv:1/60