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第4話 野獣のような……




 レミファは牙を一本テーブルに置いた。


「釣りはいらんぞ。 取っておくが良い。」


 そして、にこやかにそう言う。


「は?」


 絶句した。

 何?

 どゆこと?

 俺は慌ててレミファの隣の席に移った。

 レミファの首に腕を回して、がっちり引き寄せる。


「ちょ、レミファ!? 何言ってんの!?」


 俺はおばちゃんに聞こえないように、小声でレミファに話しかける。


「お金持ってんじゃないの!?」

「何じゃ、トーシロー。 騒々しいの。 だから今、こうして会計をしておるではないか。」


 …………はい?

 一瞬、レミファが何を言っているのか分からず、ぽかんとしてしまった。

 だが、すぐに気がつく。


(あ。 あー、あー、あー、なるほどね。)


 お金と言えば、俺にとっては硬貨や紙幣だ。

 でも、金で直接取り引きする国だってある。

 物々交換だって普通だ。

 この国の通貨が牙だって、別に不思議なことはない。

 様々な国が、そういう時代を経て兌換紙幣や不換紙幣へ置き換わっていったのだ。


 俺はほっと胸を撫で下ろす。

 だが、横を見るとおばちゃんもぽかんとしてた。


(だめじゃん!)


 明らかに「何それ?」って顔をしてるよ!

 再びレミファをガシッと引き寄せ、小声で問い詰める。


「どう見てもだめそうなんだけど!?」

「何を言うておる。 これ一つで牛一頭と交換できるだけの価値があるのじゃぞ?」

「牛!?」

「そうじゃ。 クピテ・パピピコ族では、これ一つで――――。」

「知らねーよ!? どこの部族だよ!?」


 なんだよパ(ピー)コって。

 しばらくぽかんとしていたおばちゃんが、はぁーー……っと大きく溜息をつく。


「アンタたちはマシな身なりしてるから、油断しちまったよ。」


 そう言って、やれやれと首を振る。


「あ、いや、違くてですね! これはっ……!」


 あわあわしながら、必死に弁解を考える。

 だが、どう言い訳しようが、無銭飲食。

 俺も知ってます、はい。


 おばちゃんが俺の横に来る。

 そうして、いい笑顔で肩にポンと手を置いた。







 ジャブジャブジャブ、カラン……ジャブジャブジャブ。


 泡だらけのシンクに手を突っ込み、大量の食器類を洗う。


「時々、流れ着いたばかりの人が食い逃げしようとするんだけどね。 ウチじゃこうして、皿洗いをしてもらうことにしてんだよ。」

「ほほぉー……。」


 おばちゃんとレミファがお茶を飲みながら雑談をしている。

 つーか、レミファ。

 お前も同罪だろうが。

 何くつろいでやがる。


「二人とも珍しい髪色してるけど、一緒に流れて来たのかい? そういう話はあんまり聞いたことないけど。」


 おばちゃんが煎餅を齧りながら、レミファに聞く。


「そうかえ? (わらわ)とトーシローは姉弟(きょうだい)じゃぞ。」

「なあっ!?」


 俺は泡だらけの手のまま、慌てて厨房を出て訂正する。


「い、従姉弟(いとこ)なんですよ、従姉弟! あは、あははは……。」

「何じゃ、トーシロー。 (わらわ)が姉では何か不満でもムグッ!?」


 俺は泡だらけの手のまま、レミファの口を塞いだ。

 おばちゃんに聞こえないように、小声で怒鳴る。


()()()()やってんだから、直接の血縁設定はやめろっ!」

「ムグゥムグッムグッ!」


 何事かレミファが反論するが、塞がれて声にならない。


「ほらほら、あんちゃん。 サボるんじゃないよ。 食べた分はしっかり働いて返しなさいよ。」

「す、すいません……。」


 俺は恐るおそるレミファの口を塞いでいた手を離す。

 クチの周りが泡だらけになっていた。


「ぷっ!」


 思わず吹き出す。

 レミファは俺のシャツの裾をぐいっと引っ張ると、泡だらけの顔を拭いた。


「ああ!? 何しやがる!」

「それはこっちのセリフじゃ!」


 ぎゃーぎゃー喧嘩を始める。


「あう、もう! 煩いね! あんちゃんはさっさと皿を洗ってきなっ! その後は店の掃除もだよ! 終わるまで帰さないからねっ!」


 おばちゃんに怒られました。

 仕事が増えました。







「つーん!」


 前を歩くレミファが、不機嫌さを声で表現する。

 俺たちはおばちゃんに言われた仕事を片付け、何とか労働から解放された。

 まあ、働いたのは俺だけですが。


 俺は何度も頭を下げ、無銭飲食を詫び、店を後にした。

 レミファはさっさと歩き出していたけど。


「……俺は悪くない。」

「つーん!」


 大体、お金をを持っていると言ったレミファが発端じゃないのか、これは。

 パ(ピー)コ族とか、意味が分からんこと言うし。


 レミファがどこに向かっているのか分からないが、仕方なく黙ってついて行く。

 ここはすでに街の外だ。

 街道を歩いて小高い丘を登り切ると、目の前には田園風景が広がっていた。


「すげぇ~~~~……。」


 懐かしの日本の田舎の風景である。

 いや、別に俺は懐かしくはないけどね。

 テレビや写真で見た風景そのままだ。


「何で田んぼがあるんだ? 稲でも流れてきたのか?」


 下手したら、田んぼが丸ごと流れて来た可能性すらあるな。

 何たって、すべての世界は()()()()()のだから。


 立ち止まってその風景を眺めていると、先を歩いていたレミファが戻って来た。

 そうして、俺の横に並ぶ。


「レミファは田んぼって知ってる?」

「つーん!」


 どうやら、まだご立腹らしい。


「ここの風景は、俺のいた世界の風景に似てるんだ。 大分昔みたいだけど。」

「つーん?」


 ちょっとだけイントネーションが変わった。


「いつまでツンツン姫なの?」


 そう聞くと、レミファがにこっと笑った。


(わらわ)は姫かえ?」


 そこがポイントだったか。

 俺はしばし考える。


「…………前に言ってた、野獣の様な剣士とお姫様、やる?」


 そう聞くと、レミファが俺の手を取り、来た道を引き返す。


「ほっほっほっ。 今夜は寝かせないぞ?」

「それ、お姫様のセリフじゃないよ?」


 俺は苦笑する。

 そうして、二人で手を繋いで居住空間に帰った。







 野獣の様だったのはお姫様の方だった。





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