第30話 ロディ、2人の秘密を知る
テオが少しずつ自分たちの気持ちを語りはじめた。
「俺たち、このままじゃいつまでたってもダンジョンから出られない。ずっとこのままダンジョンで暮らさなければならないなんてイヤだ。そんなんじゃ生きてる意味が無い。
でもそれよりも何よりも、ロディ、ナコリナ、エマと一緒に外に出て旅をしてみたい。ずっとパーティでいたい。」
テオは真剣なまなざしでロディ達を見て、語り続けた。
「俺たちがなぜこうなったのか、話すよ。だから、俺たちを助けてくれ。俺たちを一緒に外に連れ出してくれ。」
ロディは、テオの心の底からの叫びを聞いて、笑顔で頷いた。
「もちろんだ。仲間のお願いを断れるわけないじゃないか。」
ロディの言葉に、テオとレミアは泣きそうな笑顔を浮かべ、そして自分たちの秘密を語った。
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~テオ、レミアの話~
テオとレミアは、ミズマの街から数日の距離にある小さな村の生まれだった。
その村は獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人と呼ばれる種族の人々が多く住んでいた。
村は貧しく、人々は余裕のない生活を送っていたのだが、それは他の村々と大して差はなく、「普通の村」と考えて差し支えなかった。
そこで10年前にレミアは成人の儀を受けている。テオはそのとき5歳。テオにその時の記憶があるため、レミアが今22歳であるというのはどうやら間違いのない話のようだ。
2年前、村は記録的な不作に見舞われた。作物は半分も育たず、人々は森の動物や木の実を食べるなどして飢えをしのぐしかなかった。
そして1年前。村は無情にも2年連続の不作に見舞われた。
1年ならギリギリ何とか耐えられたのだが、2年連続ではとても耐えられない家がたくさん出てきた。レミアやテオの家もそうだった。
村人は、どうやれば自分たちが生き残れるのか、日々それだけを考える日が続いた。
そんな半年ほど前、ある人物が村を訪れた。そしてその男は、この村から館で働く者を数人購入したい、と村長に申し出た。男の条件は「出来るだけ若い者」。
いわゆる人身売買だ。
普通であれば断る話だが、今の村の状況からは逆に神からの恵みのような話だった。
村からは数人が男に購入されていく。おそらく奴隷になるのだろう。しかしその数人の犠牲で残る家族は救われる。
村長はその話に乗り、人を出せる家を募った。
そして選ばれた数人の中の2人が、レミアとテオだった。
◇◇
「村から人を買う、人身売買・・・。」
ロディ達はそれに似た話を最近聞いたことがあった。最近ミズマで話題になっていた、狂った魔法師の魔法陣実験。そして彼は捕縛を逃れようと館と共に焼死したという、あの話だ。
(レミアたちは、あの事件の関係者なのか。)
ロディ達は少し緊張の面持ちで、話の続きを聞くのだった。
◇◇
館に連れて行かれたレミアたちは、しばらく地下の一室に入れられていた。ただ入れられていただけで、何をされることも無く、食事だけ与えられる日が数日続いた。
そして、レミアとテオがついにあの魔法師に呼ばれる日が来た。
彼らはある一室に連れて行かれた。テオとレミアのほかに8人、合計10人の子供、少年、少女がいた。
そして彼らは全員、睡眠薬で眠らされた。
そして次にレミアとテオが目を覚ました時には、他の8人はどこにもいなかった。魔法師に聞いても答えなかった。
そしてレミアたちは体の異変に気付いた。体の中心、お腹の少し上ぐらいにすでにふさがっている切り傷があった。そして体の中に何か硬い物があるのが触った感触で分かった。何かを埋め込まれたのだと、レミアは思った。
◇◇
テオとレミアはその傷を見せてくれた。確かにお腹の上ぐらいに切った跡がある。そしてテオのお腹を触ると、硬い何かがあることが分かった。
(何だろう。魔道具みたいな何かだろうか。)
調べるためには取り出さなくてはならないが、体を傷つけて取り出すのはやはり危険だ。今は取り出す方法がない。
◇◇
体に何かを埋め込まれた後、起き出してすぐにレミアたちは体の異変に気付いた。体内の魔力が少なくなっている。そしてそれはどんどん減って、気分が悪くなっていく。
レミアたちは体の不調を魔法師に訴えた。魔法師はあれこれ調べた。そしてその原因が『魔力の過剰消費』であることが分かった。魔石を体に近づけると、すぐに魔力が吸収されてクズ石に変わり、二人に体調が回復する。これは埋め込まれたものが常に魔力を消費し続けているからと推測された。
『この方法は思いのほか魔力の使用量が大きい。このままではこいつらはすぐ死ぬな。しかし生き残った貴重な実験体だ。このまま死なすのは惜しい。だが魔石を与え続けるのは割に合わん。さてどうするか。』
魔法師は独り言のようにつぶやき考え、そして対策を思いついた。
『ダンジョンならば魔力は豊富で、魔力不足になることは無い。わざわざ魔力を与える手間も省けて一石二鳥だ。』
彼はテオとレミアを近場にあったこのダンジョンに連れていき、そこで暮らすよう命令した。必要最低限の武器と衣服等を渡されただけで。
魔法師がテオとレミアをダンジョンに残して去るときに、彼らに呪縛の言葉を残した。
『私のことを役人に訴えるか?しかしそれでもお前たちは助かることは無い。お前たちは参考人として外に連れて行かれ、そのまま魔力が無くなっていく。魔力や魔石は貴重だ。一般平民に分け与えるようなことは決してないのだ。お前たちはダンジョンでしか魔力を得られないのだ。つまりお前たちが生きるには、私の事は何も語らずここで暮らしていくしかないのだ。』
魔法師の事を訴えても自分たちが死ぬ。そのことは魔法師の言う通りだと容易に想像できた。そのため、レミアたちは何も言わずにダンジョン内で暮らし続けた。生きるために。
ダンジョンで暮らして20日が過ぎたころ、ある噂が聞こえてきた。
『狂った魔法師が館に火を放って自殺した。』と。
噂を詳しく聞けば聞くほど、あの魔法師の事に違いなかった。
あの男は死んだのだ、と安堵した半面、自分たちはこれからどうなるんだろうか、と目の前が霧に包まれるように感じた。自分たちの未来への可能性は良くも悪くもあの男が握っていた。そしてその男がいなくなった。と同時に、未来へのかすかな光も見えなくなった。
自分たちはどうすればいいか、2人で話し合ったが全くアイデアが浮かばない。そのままただ漫然とダンジョン内で魔物を倒し、ただ生きていく、そんな生活を送っていた。もしこのまま何もなかったら、いずれ2人とも正気をなくしていたかもしれない。
ロディ達と出会ったのはそんな時だった。
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2人の話は終わった。
彼らはあの事件の生き残りだった。体に何らかの物体を埋め込まれた実験体。ダンジョンにいたことが幸いし、事件の悲惨な結末には巻き込まれなかったのだ。
「辛かったね。頑張ったんだね。」
ナコリナが2人を後ろから抱きしめて言葉をかける。それを2人とも黙ったまま受け入れていた。
「テオ、レミア。話してくれてありがとう。つらい思い出を思い起こさせてしまって、ゴメン。」
ロディは頭を下げた。必要な事だったとはいえ、つらい思いをよみがえらせてしまったようで、その罪悪感から謝らざるを得なかった。
「それでお兄ちゃん、2人の体、どうにかなりそうかな?」
エマが不安そうに聞いてくる。
わざわざ秘密を聞き出したのは、2人を外に連れ出せるようにするためだ。ロディ達には、その方法を考えて、そして実行する責任がある。
「安心してくれ。今のを聞いて対策を思いついた。2人ともダンジョンがら出ることが出来るだろう。」
「本当!?」
「もちろん。」
ロディは自信を持って言った。この方法ならばきっとうまくいく、そう断言できる。
「本当なのだ?本当に外に出ても平気なようになれるのだ?」
レミアが、喜び8割、不安2割の表情でロディに聞いてくる。ロディは安心させるよう笑顔で答えた。
「ああ、約束する。いろいろやらなきゃいけないことはあるけど、外で暮らしても死なないようになるはずだ。」
「本当か。俺、何でもやる!このダンジョンから出られるのなら、言われたことは全部やるぜ。」
テオは勢い込んで立ち上がって宣言した。テオの顔に”希望”の灯がともったように生き生きしていた。
「それで、どういう方法なの?」
ナコリナが、2人の気持ちを代弁してロディに促すように問いかける。
「それはまず・・・」
「待って!!」
ロディが話し出した瞬間、エマが急に声をあげて止めた。
「どうしたの?」
「何かが近づいてくる。・・・3つ。冒険者っぽい。走っているみたい。」
エマはそう言って目を5層方向の通路に向ける。そちらから誰かが走って来ているようだ。走っているということは、魔物から逃げている可能性がある。5人は話を中断し、立ち上がって身がまえた。
やがて、通路から大広間へ駆け込んでくる冒険者たちが見えた。彼らはよほど慌てていたらしく息も絶え絶えだった。
そして、ロディ達は彼らに見覚えがあった。
「あ!」
「あいつらは。」
「またかよ。」
ロディ達が見た冒険者は、ボスに挑戦に行ったはずのゴルザとその仲間だった。




