第23話 ロディ、3層へ行く
3層に入ると、人気のない建物が立ち並んでいた。街、という感じなのだが、人の気配はなく、建物は古い。近くにある何かの店の看板は今にも落ちそうだ。
「いかにもゴーストタウンって感じね。」
「魔物もゴーストがいるらしい。」
ここ3層は通称「廃墟の街」。そして魔物はゴーストやスケルトンといった、いかにも『死者』と呼ばれる種類の魔物が出て来るらしい。
「ここは我ら2人には相性が悪いのだ。だからたまにしか来ていないのだ。」
「魔石もあまりよくないしな。」
2人は2層をメインとしていて3層にはあまり来ていないという。彼らの目的が『ダンジョン攻略』ではないから積極的に階層を進んではいないという。
「でも5人もいれば多分楽に進むことが出来るわ。」
「このままダンジョン攻略も出来そう。」
「そうかもしれないが油断するなよ。」
そう言って気を引き締めた時に、建物の影から魔物が見えた。スケルトンが2体、こちらにやってくる。
スケルトンは1体は剣だけを持ち、1体は兜と楯とショートソードを装備していた。スケルトンにも装備に差があるようだ。
「最初は慣れてる俺たちが戦ってみるよ。」
「分かった。宜しく頼む。」
「任せるのだ。」
テオが勢いよく突進していき、レミアがそれに続く。
テオが剣だけ持つ1体に体当たりを食らわせて転ばせると、その間にもう1体の方に体を向けた。
スケルトンはテオに向かってショートソードを振るうが、テオは素早くかわしていて全く当たる気配が無い。そうしているうちにテオが隙を見て懐に入り込んで、体の中心にある『核』と呼ばれる部分を直接ナイフで攻撃した。
スケルトンは骨だけで、腕を切ってもそのまま攻撃してくるのだが、胸の中央付近にある核が弱点で、それを破壊すれば倒せる。
テオは骨の隙間からナイフを滑り込ますこと数度、どうやら核が壊れたようで、スケルトンは崩れるように倒れ込んだ。
一方、最初に倒されたスケルトン1体は、テオの代わりにレミアが対応して、ファイヤーボール数発でそのまま消えていった。
「スケルトンは光もしくは火魔法に弱いのだ。」
スケルトンを倒したレミアが得意そうにロディ達に振り向いた。
3層の魔物、ゴースト系統は火と光に弱いということはギルドの資料で見ていたが、実際に見ることが出来たのは収穫だ。
「おーい、それより早く回復してくれよ。」
戻ってきたテオがレミアに言った。見ると左腕に1か所切り傷があった。体を使った接近戦を挑んでいるのだからそういった傷は絶えないのだろう。
「わかったのだ。『ヒール』」
レミアがヒールを唱えると、テオの傷はたちどころに消えていった。
(やはりヒールを持っていたのか。)
最初に出会った時の戦闘後にもヒールを使っているのをロディは見ていたので驚かないのだが、実は回復魔法の使い手は少ない。
回復系の魔法陣はあるが、中級クラスで使用魔力も大きい。そのため上位の魔法師や僧侶クラスでないと取得していない。ヒールを使えるだけでもパーティへの勧誘が絶えないほどだ。
「さすが、鮮やかに倒していたわね。参考になるわ。」
エマがテオ達を褒めて、テオは照れて、レミアは得意そうな顔をする。
「テオは身体能力が抜群で、それにレミアが回復を使えるのはすごいな。」
「私のギフトは『僧侶』なのだから最初からヒールが使えたのだ。」
「へー、僧侶か。いいギフトだね。」
「おれは『獣戦士』。体を使った戦闘が得意だ。」
「なるほど。だからか。」
「僧侶」と「獣戦士」。2人の役割は、テオがメインで接近戦を行い、レミアはサブで補助し、戦闘後に回復を行う、というやり方だ。2人パーティとはいえかなり戦えるだろう。
しかし、とロディは考える。
テオは身体能力が高く、素早い戦闘が得意だが、「超接近戦」というべき戦い方をしているためその分リスクが大きい。実際先ほどの戦闘でも傷を負っていた。
2人しかいないのでそういう戦い方しかないのだろうが、危険が大きく、いつか大けがを負うような戦い方に思える。
ならば、今の5人ではどうか。
前衛はテオとロディが出来て、攻撃系魔法にナコリナとロディ、回復にレミアがいる。エマは索敵と、弓による遠距離攻撃、それにショートソードで接近戦もできる、いわばオールマイティだ。
そう考えると、ほぼ理想的なパーティが出来ていると思える。
(エマも言ってたけど、このパーティなら初級ダンジョン攻略も可能だろうな。)
そう思っている所へ、ナコリナが近寄ってきた。
「ねえロディ、この5人パーティってバランスがいいんじゃない?」
「俺もそう思う。」
ロディはこのパーティで戦うのが楽しみになってきた。
「じゃあ、今度は5人で隊列を組もう。前衛はテオと俺。次にナコリナ、レミア、最後にエマ。この形で進もう。」
しばらく廃墟の中を進んで行くと、2体のゴーストを発見した。
ゴーストは黒いローブを羽織ったようないでたちだが、体が半透明で透けており、足も無く宙に浮いている。
「待って。右からも敵2体。」
エマの指さす方を見ると、空を飛ぶ黒い鳥の魔物が2体現れた。
「げ、クロウが現れやがった。」
「我らはあれが苦手なのだ。」
テオとレミアがイヤそうな顔をする。
なるほど、テオは空を飛ぶクロウには通用しない。レミアの魔法攻撃が主となるだろうが、レミアはさほど攻撃が得意ではなく、クロウの動きに対応するのはむずかしそうだ。
3層にはあまり来ない理由はクロウの存在にあった。
黒い羽毛に全身覆われたクロウは、ガーガーと鳴きながら近づいてきていた。
「大丈夫。こっちには飛び道具があるわ。」
ナコリナが後ろを振り向くと、エマが軽く頷いて、弓をつがえてピュッと矢を放つ。矢は狙いを過たずにクロウ1体に突き刺さり、クロウは落ちて行った。エマの弓の技術も上がっているようだ。
もう1体はナコリナがエアカッターを放ち、クロウは避けきれずに翼に当たり、飛ぶ力をなくして落ちて行った。
落ちたクロウ2体にテオが駆け寄り、ナイフでとどめを刺す。
クロウはDランクの魔物だが、空からの襲撃が厄介な反面、それに対応できればさほど恐れる敵ではない。
残る2体のゴーストだが、こちらはスピードが遅く、クロウを始末する間にも接近できていない。
「ゴーストも火と光魔法が有効よ。」
「よし!」
ロディが、ファイヤーボール3連射×2体を放ち、ゴーストは一瞬で火だるまになり、やがて炎とともに消えていった。
「ほえー、一瞬なのだ。ロディは魔法もすごいのだ。さすが私の見込んだ男なのだ。」
そう言ったかと思うと、レミアがロディに抱きついてきた。彼女は何かとロディにくっつきたがる。
「と、危ないよ。戦闘後も油断しないようにしよう。」
ロディは苦笑いしながら、レミアをやさしく引き離した。
ロディとしてはレミアに抱きつかれても、子供にじゃれつかれているようにしか思えない。
ふとエマを見ると、この間みたいにジト目でこちらを見ていた。
・・・いや、そんな趣味は無いってば。兄を信じようよ。
はたして、ロディの思いが理解される日が訪れるかどうか、今は判らない。




