第21話 ロディ、魔法陣を描く
結局その日は2層の安全地帯から引き返すことにした。このまま3層に行っても時間的に満足に探索できそうになかったためだ。
「ダンジョンの外に出るのが難しいのなら、俺たちが何か必要な物を買ってきてあげるよ。」
テオとレミアにはそう約束した。
彼らは、ダンジョン周辺の市場にはたまに足を運んで買い入れるそうだが、そこはミズマの街中に比べれば値段は高いし、食料品の質もよくない。
街まで行けば値段は安いだろうが、時間がかかるため魔力が減って動けなくなる恐れがあるためそれは避けたい。
冒険者が親切そうに購入代行を申し出てくれることもあるらしいが、そういう人たちに限ってレミアの鼻は「いやな匂い」を感じてしまうらしい。
そんな悩みを聞いたロディたちは、彼らの為に買い出しを引き受けたのだった。
「明日は休みにするから、明後日またここに来るよ。」
「必ず来るのだ。ロディの匂いを楽しみに待つのだ。」
「ええぇ・・・」
「じゃ、また来るわね。」
「・・・まあ来たら歓迎してやるよ。」
「素直じゃないな少年。」
「少年じゃねえ。もう15だし名前で呼べよ!」
「ハハ、ごめんごめん。」
それぞれの別れを告げ、ロディたちはダンジョンを後にしてミズマに戻ったのだった。
◇◇
翌日、ロディたちは休日にしていた。
毎日ダンジョンに潜るのは疲労がたまってしまい危険だということで、3人は『2日活動、1日休み』というルールを決めている。冒険者の間ではこのスケジュールは一般的だ。
そして彼らが休日をどう過ごすかというと、
「じゃロディ、お留守番よろしく。」
「お兄ちゃん、行ってくるね。」
「ああ、気を付けろよ。」
エマとナコリナは2人で、レミア達に頼まれた買い出し兼ショッピングに出かけ、ロディはナコリナに頼まれていた『魔力譲渡』魔法陣の作製をすることにした。
「よし、やるぞ。」
ロディは大きな魔紙に向かって気合を入れた。
この魔紙は昨日帰る途中で購入してきた50cm角の上級用サイズのものだ。
このサイズに魔法陣を描くには時間がかかる。メルクーの時には仕事の傍らに作製していたので、大体4~5日は必要だった。しかし魔法陣だけに集中してやれば2日くらいで出来るだろう。
ロディは朝から作業に没頭し、夕方、2人が帰って来た時にはおよそ半分くらい出来上がっていた。
「お帰り。・・・結構買って来たね。」
「うん、2人から預かっていた魔石がたくさんあったから結構な金額で買い取ってもらえたの。」
「テオ達にいい食料をたくさん渡したいからね。」
両手いっぱいの荷物を抱えたエマたちが言う。2人は、レミアとテオの為に張り切って買い物をしてきたらしい。
買い出しの為に、レミアたちから代金の代わりに彼らがダンジョンで貯めていた魔石を受け取っていた。それを換金して購入したものは、主に食料と、あと衣服など生活必需品ばかりのようだ。
「でもどうやって持っていく?あの2人の前で『収納』は使えないだろ。」
「出すときにうまくごまかせばいいのよ。たくさん入っている感じの荷物袋を持って行って、出すときに袋に手を入れて、実際には『収納』から取り出すようにすればいけると思うわ。」
「そうだな。そうするか。」
ダンジョン内に荷物を持ち込むのは大変だ。
荷物運び用の魔法には『軽量化』という魔法があり、その魔法陣が描かれた魔道具を荷物袋に設置することで大荷物でも運びやすく出来る。しかし軽くなるだけなので限界はある。
それを考えると、やはり収納はありがたい魔法だ。
◇◇
夕食時、3人の会話には自然とレミアたちのことが話題に上った。
「・・・彼ら、外で生活できないなんてかわいそうね。」
「外に出たそうな感じだったからなあ。」
彼らにメルクーの街の話をしたときの目の輝き。あれは、ダンジョンを出ていろいろな街に行ってみたいと思う願望が込められているようだった。
ロディ達は彼らの事を気に入っていた。ウマがあったとでもいうのか、彼らの飾らない性格が、話をしていると楽しく響いてくるのだ。
だから3人とも、老婆心ながら「彼らを何とかしてあげたい。」という気持ちになっていた。
「ねえロディ、何とかならないかな?」
ナコリナがロディに聞いてくる。
「うーん、一応考えてみる。けど彼らが何故そうなったか理由を話してくれないと、根本的には解決できないと思うんだ。」
「そうよね。」
彼らを助けるとしても、どのようにするのが彼らにとってBESTなのか。原因を知らなければ正しい結果には導けない。
昨日出会ったばかりだし、彼らから秘密を聞き出すには、さらに信頼を得る必要があるだろう。
「まずは、彼らと接触を続けることが必要だと思う。」
「直ぐには無理かもしれないけど、ずっと接していけば少しずつ心を開いてくれるでしょうね。」
それを聞いていたエマは、決心したように口を開いた。
「よし、じゃあ私ひらめいたわ。明日、頑張る!」
「エマ、何かいいアイディアがあるの。」
「えへへ、内緒。明日楽しみにしていて。」
エマはそういうと、ニコニコしながら残りの料理を口に運んでいた。
ロディとナコリナは顔を見合わせ、やがてフフッと笑い合った。
エマに任せておけばいい。エマなら大丈夫だろう。そんな信頼感のある笑みだった。




