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第19話 ロディ、少年少女と出会う

 他の冒険者の戦闘に割って入るのは、当人たちの了承を得ない限り基本的にご法度というのが冒険者の間での暗黙の了解だ。そのためロディたちは少し離れたところで彼らの戦闘を見守ることにした。


 前で戦っているのは、およそ15歳くらいの少年。服装や革鎧はあちこち破れたり傷があったりしていて、最低限の装備をしている、という感じだった。

 しかし服装よりなにより、彼には外見上大きな特徴があった。それは、


(獣人、か。)


 その頭に生えている犬のような三角耳と、30cmくらいのふさふさのしっぽから、ロディは彼が犬か狼系の獣人であると分かった。


 少年の戦闘スタイルは、獣人特有の身体能力、特にスピードを生かしたものだ。

 彼は左手にナイフを逆手に持ち、右手は何も持っていない。アントに対して素手で殴ったり左手のナイフで切りつけたりと、3体のアントに対して、後ろに行かせぬように大立ちまわりを演じている。


 少年の後ろには、フードを被った小柄な女の子がいた。

 彼女は12歳くらいの身長で、手に杖を持ち、前に立ち男の子をサポートするように火魔法を放っている。


 後ろからは少女による魔法攻撃による牽制で、アントを不利なポジションに追い込み、そこへ少年が攻撃する。

 戦闘は、数的不利にもかかわらず危なげなくアントを倒して決着した。

 アントを倒し終えた後、後ろの少女が何か呪文を唱えると、彼女から淡い光が飛びだし、少年に当たって彼の体が薄く光に包まれた。すると、彼が腕などに受けていた切り傷が瞬く間に消えて行った。


(治癒魔法か。彼女はヒールが使えるのか。)


 ロディが思ったことは同様にエマとナコリナにもわかったようで、感心しながら2人を眺めていた。


 と、少年が3人の方を振り向き、鋭い声を発した。


「そこにいるのは誰だ。何を見ている。」


 少年の警戒を含んだ誰何の声に3人は顔を見合わせ、そして代表してナコリナがゆっくり近づきつつ話しかけた。


「ごめんなさいね。邪魔するつもりはなかったの。ちょっと戦いを見学させてもらっただけ。」


 ナコリナは出来るだけ穏やかに話しかけた。しかし少年はなかなか警戒を解こうとしなかった。


「私の名前はナコリナ。この2人とパーティーを組んでいるの。」

「俺はロディ。」

「私はエマよ。」


 3人はあらかじめ、他の冒険者とは出来るだけ友好的に接することと決めている。そのためには最初に名前を名乗った方がいいだろうということでそれを実践している。

(すでにギルドで非友好的な絡まれ方をされているのはご愛敬)


 少年は名前を告げられるたびに視線を向けていたが、エマの方を見た瞬間、動きが止まった。


「「「?」」」


 3人が怪訝そうに少年を見つめるが、それに全く気付かないように動きを止めたままエマを見ていた。

 やがて少年の表情が少しずつ緩んで、頬が次第に赤くなってきた。


 事の成り行きを見ていたロディに、ナコリナが肘でつついて小声でささやいた。


(これはあれだね。その少年、エマちゃんに一目惚れしちゃったみたいだね。)

(一目惚れ!?マジか。 一目惚れの瞬間なんて初めて見た。)


 ナコリナがニヤニヤしながら2人をそう評した。

 まあエマは可愛いのでこれまで言いよる少年や男たちは後を絶たなかった。これからも気に入られたり言い寄られたりすることあるかもとは思っていたが、ダンジョン内で、しかも「一目惚れ」を見れるとは考えもしなかった。


 しかしこのままでは何も動かないのでは話が進まない。そろそろ話しかけようかと思っていたところ、不意に別の方から声がした。


「私はレミアなのだ。」


 ロディたちが少し慌てて声の方を見ると、ひとりの少女が立っていた。先ほど少年と一緒に戦っていた少女だ。

 彼女は、魔法師っぽいいでたちで、フードに覆われた顔は年相応のかわいらしい雰囲気だ。しかし服は少年と同じようにボロボロに近く、あまりいい装備には見えない。


「バ、バカ、どんな奴かわかんねえのに不用心に近づいてくんなよ!」


 不意の声にようやく我に返った少年が、レミアと名乗った少女に向かって怒ったように言った。

 しかし少女はどこ吹く風といった感じで、逆に少年に向かって少し舌足らずな口調で返事をした。


「大丈夫。この人たちはいい人たちなのだ。3人とも『いい匂い』なのだ。」

「え、匂い?」


 3人はレミアと名乗る少女の言葉に戸惑った。『いい匂い』とはどういった意味だろうか。

 すると3人の疑問を感じ取ったのか、レミアは少し得意そうに説明しだした。


「私は匂いで人を見分けることが出来るのだ。いい人は気持ちが良い匂いがするのだ。でも悪い人はヘドロのような腐った匂いがするのだ。貴方たちはみんないい匂い。だからみんないい人なのだ。」

「へ、へえ・・・。」


 どうやらこの少女は、『匂い』で人の良し悪しを見分ける特異な能力を持っているようだ。にわかには理解しがたいが、そういった異能の人もいるのだろう。それに「いい人」と認定されたのでコミュニケーションもうまくとれそうだ。ロディはひとまず納得することにした。


「チッ、レミアがそう言うんなら、まあいいか。・・・俺はテオ。」

「テオ君に、レミアちゃんか。宜しくね。」

「!・・・よ、よろしく。」


 エマが屈託のない笑顔で言うと、テオと名乗った少年はあわてたように視線をそらしながら、ぶっきらぼうに答えた。

 そしてそれをニマニマと笑みを浮かべた6つの目が生暖かく見守っていたのだった。


(しかし『匂い』の話だけで警戒していた少年が納得した。ということは、その『匂い』判定はかなり信頼されているんだろうな。)


 ロディは少し感心してレミアを見つめる。

 すると、レミアは少し怒ったような口調でロディ達に言った。


「ちがうのだ。」

「え?」

「『レミアちゃん』、ちがう。『お姉さん』なのだ!」

「お姉さん?」


 どうやらエマがちがうと言ったのは「レミアちゃん」に対してだったらしい。しかし、ロディ達はレミアの言葉をすぐには理解できなかった。『お姉さん』とはどういうことなのだろう?

 すると、レミアは驚きの内容を話し出した。


「私は22歳なのだ。『ちゃん』付けはダメなのだ。『お姉さん』なのだ!」

「え!?22歳!」

「そうなのだ。」


 レミアは、自分22歳だと、とても信じられないことを主張している。


「12歳にしか見えないけど。」

「違う。22歳なのだ。もう『レディー』なのだ。」


 レミアがむくれたように言い張る。ロディ達からは、レミアはどう見ても鑑定の儀を受けたばかりの年齢にしか見えない。

 3人が戸惑ったまま、自然とテオの方を見る。テオは『またか』といった感じでため息をつきながら、


「俺も信じられねえんだが、どうやらレミアは22歳で間違いないらしい。」


と答えた。


「そ・・・そうなんだ。」


 最も身近な第三者の証言は信用せざるを得ない。

 どうやらレミアの年齢は本当の事で、この中では最年長。だから『ちゃん』付けに不満、ということだ。

 しかし見た目は最年少にしか見えないから、ギャップがとんでもなさすぎる。


「なので私の事はレミア、もしくはレミアお姉さんと呼ぶのだ。」

「俺もテオと呼んでくれ。」


 レミアはそう言うが、とても「レミアお姉さん」と呼ぶことが出来そうなイメージが無い。結局テオとレミアは呼び捨てで呼ぶことになった。

 レミアは、


「誰も『お姉さん』と呼んでくれないのだ。」


とすねたようにむくれていた。

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