第6話 ロディ、用心する
皆さん、あけましておめでとうございます。
ロディの話を読んでくれてどうもありがとうございます。今年も頑張りますのでよろしくお願いします。
午後の最初は薬屋に向かう。目的は価格調査と品ぞろえの確認だ。
初級ポーションなど必要と思われるものはすでに購入済でロディの収納空間に入っている。
ここミズマでのポーションなどの価格は、メルクーと大差なかった。品ぞろえは高級なもの、例えば魔力回復薬などメルクーにはなかったものがあった。
この魔力回復薬は初級ポーションの100倍以上の価格のため、今回の購入は見送った。しかしいずれは万が一のために1本は購入しておくつもりだ。
次に向かったのは魔法陣の店だった。
魔法陣の店と言っても魔女がいそうな不気味な感じではなく、ごく普通の雑貨屋のような明るい店だった。
店に入ると初級魔法陣が数種類と、魔紙やインク、その材料などが並べられていて、奥のカウンターには初老の小柄の女性が座っていた。
「いらっしゃいませ」
女性は柔らかい雰囲気のあいさつをしてきた。
「すみませーん。聞きたいことがあるんですがいいですか。」
ナコリナが『魔法陣製作士の卵』として進んで話しかける。
ナコリナは人と仲良くなるのが上手い。すぐに女性と打ち解けて笑顔で会話をしている。
初老の女性はやはりこの店の店主で、陣士になって20年以上のベテランだそうな。
この店に置いてあるのは初級魔法ばかりで、中級魔法以上は注文を受けて作るらしい。価格は魔法陣の難しさと製作期間で決まり、製作には大体1日から3日だという。
ロディは複雑な魔法陣を描くのに5日くらいかかってしまう。やはりベテランは製作が速い。自分ももっと努力せねばと感じてしまう。
「ミズマは森が少ないせいで材料が品薄でね。特にインク草が手に入りにくいんだよ。インク草とか何でもいいが、魔法陣の材料があればギルドより色をつけて買い取るよ。」
店主は素材の持ち込みをしてほしいらしい。
実はロディの収納にはインク草の花びらがある程度まとまって入っていた。メルクーを出る前に採取しておいたものだ。
しかしこれをすぐに売るのはためらわれる。この街の事情などをよく知らないので、持ち込んでも問題がないか、余計な詮索をされたりしないかが分からないのだ。
店主の要望はあるのだが、今回は売らないことに決めた。
◇◇◇
魔法陣の店を出て、3人はギルドに向かった。
ギルドに入って最初に資料室に入り、明日行く予定のダンジョンの情報を入手する。ダンジョンの内部情報、出てくる魔物の種類など、必要な情報を読み、必要な部分はメモしていく。
こういったことはダンジョンに限らず、情報が重要だ。何も知らずにダンジョンに入るなんて初心者にとっては自殺行為でしかない。
あらかた必要な情報を入手すると、彼らは部屋を出てギルドの大広間に移動した。
夕刻前のギルドは冒険者が依頼から戻ってきていて、かなりの人数がいる。
3人はミズマでは新参者で、地元の冒険者から話を聞いておくことが今後さまざまなところで役に立つだろう。それに顔を覚えてもらうことも必要だ。出来るだけ早くなじんで『仲間』と思われなければならない。
「こんにちは。私たちメルクーから来たばかりなんだけど、聞きたいことがあるの」
3人は積極的に冒険者たちに話しかけて、様々な話を聞いて回る。
情報収集も終わり、3人がギルドを出たのは、陽もだいぶ落ちてきたころだった。
◇◇◇
宿に帰った3人は、夕食後に部屋でくつろいで雑談をする。
今日の街巡りで、様々な情報を知ることが出来てとても有意義だった。
「あの事件の話、かなりの大ごとだったみたいだ。」
今日聞けた話の中でよく耳にしたのは、やはりあの事件のことだ。
事件から1週間しかたっておらずまだ新鮮な話題なのだろう、こちらが聞かずとも頻繁に耳に飛び込んできた。
聞いた噂をまとめると、大筋こんな感じらしい。
ーーー
最近この街と周辺の村を中心に、数件の行方不明事件が発生していた。最初はあまり注目されなかったが、ここ数年間の累計数がかなり多いことに一般市民も気付き始めた。
また同時に、お金を出して貧しい家の子供を買う、いわゆる人身売買の話も少なからず聞こえてきた。
その件が領主に報告され、領主は自領の兵士に調査を命じた。
調査が進むにつれて、『山中の館に住む研究者』が関係している可能性が濃厚になってきた。
そんな時、行方不明になっていた人物の1人が館から逃げ出して保護された(別のうわさでは、館の使用人が密告してきた)。
脱走者(または使用人)は、『研究者が魔法陣を勝手に改変し、しかもその効果を試すために誘拐や人身売買によって手に入れた人たちに使用するという、いわゆる人体実験を行っている』と証言。
そこで、急遽研究者の捕縛が決定され、領兵100人(噂では10人、30人などさまざま)が館を急襲した。
研究者は逃げられぬと悟り、館に火事を放って、使用人や誘拐被害者もろとも自殺した。
館の焼け跡から数人分の焼け焦げた死体が発見された。ただし損傷が激しく、どれが研究者か特定できなかった。
領兵が館を取り囲んでいて脱出は不可能だったことから、「被疑者死亡」と公式に認められている。
ただし噂には、研究者は火事に紛れてうまく逃げてどこかに行方をくらませた、という話もあった。
ーーー
「・・・数名の焼死体。その中には誘拐されて館に捕らえられていた人たちもいるんでしょうね。」
「それで最後が焼死なんて、かわいそう。そいつ、許せない。もし生きてるんだったら絶対ふん捕まえて領主に突き出してやるんだから。」
ナコリナとエマは、事件の凄惨さを知って、犠牲者への哀悼とその研究者への怒りが抑えきれないようだ。
「とりあえずこの事件、公式には『終わった事件』と考えられているようだから、これ以上の動きはないだろう。」
「でもお兄ちゃん、しばらくは用心が必要だと思う。」
「うん、わかってる。」
事件は終わったことになっているが、1週間しかたっていないので住民の間ではいまだに話題にされるほど関心は高い。そんな中でロディの修正魔法を不用意に使って誰かに見られてしまうと、魔法陣に関して敏感になっている人々から疑いの目で見られてしまう。
「『人の噂は砂の城』とも言うし、しばらく経てば噂もほとんど消えるだろう。それまで待つしかない。」
「でもそれじゃ練習にならないんじゃ?」
ロディは出来るだけ早く冒険者ランクを上げていきたい。それにはやはり魔法は不可欠だ。短期間とはいえ、この時期に魔法を練習できないのは痛い。
「そこはダンジョンを利用しようと思う。ダンジョンなら、どこからか誰かが見ている、なんてことにはならない。「索敵」で周りに人がいないのを確認してから、魔法を使えばいいんじゃないかな。」
「そうね。ダンジョンでロディの攻撃魔法と「威力減少」魔法を合わせて練習して、今のうちに「普通の」魔法に見えるようにできれば、そのあとは魔法も使い放題ってわけね。」
威力減少の魔法は世の中には知られていない。メルクーにいるときに発見したグライムス氏の遺産の中にあった不完全な魔法陣を、ロディが修正して復元したものだ。
こうなってくると、「威力減少」魔法の取得を強く勧めたナコリナは先見の明があるとしか言いようがない。
一通りの話が終わったころには、もう夜も更けていた。
「さて、じゃあ明日のダンジョンに備えて、お風呂に入って寝ましょ。」
「明日はいよいよダンジョン。楽しみ!」
「楽しみすぎて夜更かししないようにな。」
「ロディ、一緒に入る?」
「・・・からかうなよ。男女で別れてるから出来っこないだろ。」
「チェッ、つまんない。最近ロディはからかい甲斐がないなぁ。」
「ナコリナ耐性が出来たのさ。」
3人はリラックスした雑談をしながら、明日に備えるのだった。




