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プロローグ

 ミズマの街から30kmほど離れた山中にその洋館はあった。その位置はミズマ領の北の端に近く、隣の領との境界が間近にある。


 普段は静かな、木々に囲まれた山中の洋館。

 そこに、周辺の雰囲気とは場違いな大きな声が響いた。


「ザルクルース。無駄なことはやめておとなしく出てこい!」


 館を鎧を着こんだ兵士たちおよそ30人が取り囲んでいる。彼らはミズマを所有するセルアン子爵の領兵だった。

 その中でも一番いい装備をした、おそらくこの兵たちの指揮官であろう男が館に向かって再度声を響かせる。


「出てこなければ実力行使で踏み込む。そうなればお前の生死は保証できないぞ。これが最後だ。出てこい、ザルクルース。」


 その呼びかけにも館からの返答はなかった。


「・・・仕方ない。総員、配置に付け。」


 男は呼びかけをあきらめ、麾下の兵に号令する。その合図に、兵たちは言葉を発せず整然と動いて行く。

 館への突入は時間の問題だった。



 館の中の窓から、隠れて外の光景を見ていた男がいた。その男の名はザルクルース。この館の主であり、館を囲む兵たちの目的の人物である。


「クソッ。研究がバレたのか。えーい、忌々しい。これからという時に。」


 ザルクルースは悪態をつきながら窓から離れる。

 周りを囲んだ兵30人をから簡単には逃れることは出来ないだろう。しかし、だからといってザルクルースには素直に捕まるつもりも無かった。

 彼は、部屋にあった小さな箱を手に持つ。それはどうやら魔道具のようだ。


「ククク、ワシが簡単につかまるものか。見ておれ、一泡吹かせてやる。クハハハ・・・。」


 不気味な高笑いのあと、彼は小箱についていたボタンを押した。


◇◇


 兵士2人が玄関扉に近づく。手には剣ならぬ斧を持っていて、おそらくこれで扉を破壊するのだろう。

 兵の少し後ろには数名の兵が、こちらは剣を手にして立っていて、さらにその後ろに指揮官の男がいた。

 指揮官が突入の合図をしようとした、その時、


ドーーーン


館から大きな音が響きわたり、兵たちは慌てて屋敷を見渡した。


「あ、あれを!」


 兵の1人が、館の2階の左側を指さす。そこには館の壁の一部に穴が開き、さらには中から火の手が上がっていた。

 さらに、同じような破裂音が3度、4度と連続で響き、それと共に火の手が館中から次々に上がっていた。


「クッ。何だ!?・・・総員退避!館から離れろ。火災に巻き込まれるな。」


 指揮官は兵に離れるように指示し、自らも館から離れた。


 館は火が瞬く間に燃え広がり、とても中に入れるような状態ではないことは一目でわかった。


「火魔法の魔道具のようだ。逮捕されないように準備していたか。」


 指揮官の男は悔しそうに燃える館を眺めていた。


「・・・各員、周辺の木に火の手が及ばぬよう対応しろ。水魔法で火を消し、それが無理なら木を切り倒せ。力の強い者は斧を持て。山火事を防ぐのだ!」


 館に入れぬのが明白ならば、現在できる最良の事ことをしなければならない。

 気を取り直した指揮官は、部下への命令を変更し、山の木々への延焼を防ぐことを目的とした命令に切り替えた。

 その間も、館の火勢は衰えることなく、ごうごうと音を立てて館全体を赤く呑み込んでいった。



 およそ3時間後。

 指揮官の臨機応変の対応もあり、山の木々への延焼はほぼなく、山火事を防ぐことは出来た。

 しかしザルクルースの館は完全に焼け落ちていた。

 この時の火事の炎と煙は、ミズマの街からも見えたという。

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