第54話 ロディ、目指すはAランク
3人は今後のことについての方針を話し合った。
まず当面の目的地については、王都を目指す方針だ。
王都には当然人も多く様々な物資や情報も集まり、魔法陣を学ぶためにも都合がいい。また王都には近所にダンジョンがいくつかあり、それに比例して冒険者も多い。その後旅を続けるにしても、ひとまず王都に行って知見を広めるのは3人にとっても有益だろう。
ただ一直線に王都に行くつもりはない。最終的に王都にたどり着けばいいとして、道すがら街に寄っていろいろなクエストをこなしたり、ダンジョンや魔物のいる場所などで自身の能力を上げて、冒険者ランクアップしながら気ままに旅することにした。
3人の現在の冒険者ランクは、ロディとナコリナはDランク、エマはEランクだ。
「私はDランクは当然として、出来るだけ早くCランクまでもっていきたいわ。」
エマはそう宣言した。Cランク冒険者ともなれば「熟練の冒険者」と目されるようになり、依頼を受けられる幅も広がる。
「私もCランクかな。Dランクになってだいぶ経ってるから、もうすぐなれると思うけど。」
「俺もCランクだな。Cランクだったら依頼もたくさんあるし、やっていけると思う。」
二人のランク目標を聞き、自分も目標を掲げるロディ。
しかし、そのロディの目標に待ったをかけた人がいる。
「それじゃあだめよ、ロディ。」
「え?」
ダメ出しされるとは思ってなかったロディは、驚いてナコリナを振り向く。冗談で言っているのか、と一瞬思ったが、ナコリナはいたって真面目な顔だった。
ナコリナは真剣な表情でロディを見る。
「ロディはCランクで満足してちゃダメ。ロディはもっと上、Aランクを目指す必要があると思うわ。」
「「Aランク!!」」
ロディとエマは同時に驚きの声をあげた。
冒険者のうちBランク以上は「高ランク冒険者」と呼ばれる。Bランクは”一流”とも呼ばれ、たいていの依頼を難なくこなすことが出来る。ちなみにダントンもBランクだった。それがAランクともなると、”別格”とも言われる。
A,Bランク冒険者はそれぞれA,Bランクの魔物を単独で討伐できる実力を持っている。
Bランクは冒険者全体の5%くらい、Aランクは0.1%くらいしかいない、それほど貴重かつ高い力を持つ存在なのだ。ちなみにSランクは王国に3人しかいない。
つまりナコリナはロディに『別格の冒険者になれ』と言っているのだ。二人が驚くのも無理もない話だった。
「そ、そんな。Aランクなんて無理だよ。」
「そんなことない。ロディならなれるわよ。」
「まさか。Aランクってとんでもない力を持っている冒険者だらけだよ。自分なんかとても・・・。」
ロディは無理だと言ってうろたえるが、ナコリナは構わず続ける。
「ロディには唯一無二の『修正』ギフトがあるじゃない。そのギフトは規格外の力を得ることが出来るギフトよ。初級の攻撃魔法の威力もそうだし、何より”収納魔法”が使える。それにグライムスさんの遺産もあるし、旅に出ればダンジョンで新しい魔法に出会う可能性もある。今以上のすごい魔法も覚えられる可能性があるわ。」
「それはそうかもしれないけど。」
その時、それまで黙って聞いていたエマが口を挟んだ。
「お姉ちゃん。さっき『Aランクを目指す”必要がある”』って言ったでしょ。何か理由があるんじゃないの?」
エマの言葉にナコリナは小さく頷いた。
「そう。ロディはAランクになる必要があると思う。理由はそれがロディを守ることになるからよ。」
「俺を、守る・・・?」
予想もしていない言葉に戸惑うロディ。ロディがAランクになったらなぜ自分を守れることになるのだろうか。確かに強くなればそれだけ守ることも出来るが、ナコリナの言っていることは少し違う気がする。
ロディの疑問を見て取り、ナコリナは自分の考えを説明する。
「ロディは「修正」ギフトを使った魔法を秘密にしようとしている。だけど、本当にずっとその秘密がバレないと思う?」
「う、、」
ロディは痛いところを突かれたように声を詰まらせる。
ロディも「ずっと秘密にしておくことが本当にできるのか。」と考えないわけじゃなかったからだ。
「それは、3人が話さなければ何とか・・・」
「私は無理だと思ってる。どんなに秘密を隠そうとしても、ダントンの時のようにどうしても修正魔法を使わなきゃならない時がこの先必ずあると思う。そうなったら秘密が守られる保証はないわ。」
そうだった、とロディは思い出す。
ダントンとの対決で、勝つためには修正の魔法を使わなければならなかったことを。そしてそれがナコリナが秘密を知るきっかけになったことも。
今後同じように誰かが危機に陥った時、それが見ず知らずの人であってもロディは修正魔法を使わないだろうか。いや、おそらくためらうことなく使うだろう。
「確かに、秘密はいずれ漏れてしまうと考えておかなきゃな。」
「でしょ。だからロディは出来るだけ早くAランク冒険者になるべきなのよ。」
「??話のつながりが見えないんだけど・・・。」
「ロディってギルド職員でしょ。分からない?」
「え、そりゃギルド職員だけど、Aランク冒険者って・・・あ、そうか。」
そういわれてロディはあるギルドの規定に思い至った。
「Aランク冒険者にはギルドの命令に対して拒否権がある。」
「その通り。」
Aランク冒険者の拒否権。これは過去のある出来事に由来する。
以前Aランク冒険者を強制的に従わせようとした貴族がいたが、逆襲を食らってその貴族の居城は壊滅し、冒険者は他国へと逃亡したという。
Aランク冒険者だが、その実力は一人で一個師団にも相当する。Aランク冒険者はAランクの魔物を一人で討伐できる力量なのだから当然だ。
事件後に国は対応を話し合い、結果、Aランクのような実力ある高位の冒険者を国に留めておくために、優遇措置としてAランク冒険者は拒否権が与えられたのだ。
「Aランクならば拒否権があるからギルドは何も強制できない。当然貴族たちも過去の経緯から手出しを躊躇することになるでしょう。
つまり、Aランクほどの力を持ってしまえば、例え秘密がバレたとしても、誰も手出し出来なくなるわ。」
「なるほど。」
ロディはナコリナの言葉に考えこんだ。
確かに、今のままでは国や貴族、あるいは高ランクの冒険者にはとても太刀打ちできない。それに自分だけじゃなくエマやナコリナにも危険が及ぶだろう。それを排除するには力を持たなければならない。
そしてその力は、ナコリナの言う通りロディがAランク冒険者になれば持てるのだ。
Aランクになる以外の他には、信用ある貴族の庇護下に入るという方法もあるだろう。
しかし一地方都市に住むロディに貴族との伝手はないし、むしろ貴族の方がロディを信用しないだろう。
信用を得るためにはそれなりの立場が必要だろうし、それならAランク冒険者になることと同じだ。
それに自分がAランクならば、二人にも危害が及びにくくもなるだろう。
だが問題は、本当にそれが出来るのか、ということだ。Aランク冒険者はほんの一握り。それこそ「魔法陣製作士」になるよりもさらにハードだ。普通の冒険者が目指そうと思ってもなれるものではない。
だけど、とロディは考える。自分のギフト「修正」があればどうだろう。これまで誰も出来なかった、古代文明オリジナルの魔法陣を復活させることができる。それに「修正」の効果は魔法陣だけじゃない。成長させれば、もっと思いもよらないような凄い効果を見いだせるかもしれない。
ギフト「修正」を信じていけば、Aランクも夢じゃない。なら、みんなを守るためにも、目指すべきだ。いや、きっとなれる。
ロディにはもはや確信に近く、そう思えた。
「わかった。ナコリナの言う通り、俺はAランク冒険者を目指す。」
ロディはナコリナの提案通り、Aランク冒険者を目指すことを決心した。
ロディのAランク宣言に二人の顔がパッと明るくなった。
「やりましょう、ロディ。すごいギフトを持つあなたなら絶対出来るわ。」
「頑張ろう!私も手伝うわよ、お兄ちゃん。」
ロディは、美少女二人の激励に嬉しくなる半面、責任の大きさも感じていた。
(本当に自分ができるだろうか)
だが他に方法は無い。
ならば目標に向かって自分に出来ることを真っすぐにやっていくだけだ。自分のギフトはきっと自分を助けてくれる。この「修正」ギフトを信じ、成長させていこう。
ロディはもう迷わなかった。
「必ずAランクになって2人を守ると約束する。誰も手出しさせない。2人とも俺についてきてほしい。」
ロディの言葉に二人も一緒に続いて勢いよく賛成、・・・・とはならなかった。
2人はなぜか動きを止め、ロディを見つめて顔を赤らめていた。
「・・・あれ、どうしたの?俺なんか変なこと言った?」
微妙な雰囲気に勢いをそがれたロディが訝しむ。
「お兄ちゃん、その言葉は・・・」
「はわわわ・・・プロポーズされるのって、こんな気持ちになるのかな。」
「・・・はあ!?」
「お兄ちゃんは天然女たらしだってのを改めて思い知ったわ。」
「え、何を言って・・・」
「これ以上にときめく言葉に出会うのは無理かも。ロディ、責任取ってね。」
「責任って・・。」
「大丈夫。お兄ちゃんは優しいからきっと責任取ってくれるよ。ね、お義姉ちゃん。」
「字が違ってないか!?」
最後はこんなグダグダなやり取りになってしまったが、とにかくみんなの目標が決まった。
「よし、頑張って出来るだけ早くランクアップさせていこう。」
「「おー!」」
3人の力強い声が家中に響く。
のちにAランクどころかSランクとなり、『賢者』と呼ばれることになるロディ。
彼にその飛躍のきっかけと強い意思を与えたのは、この日3人で交わした約束だった。




