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第53話 ロディ、ギルド辞めるってよ

「どうしたのお兄ちゃん」


 ロディに呼ばれたエマがリビングにやってくる。


「まあ、座って話そうか。」


 二人はテープルに向き合って座る。


「お兄ちゃん、何か相談事でもあるの?」


 ロディの少しこわばった面持ちに何かを感じたのか、エマがロディに問いかける。

 ロディはエマに対し少し逡巡した後、決心したように口を開いた。


「エマ、俺はこの街を離れて冒険者として旅をしたい。」


 ロディが決断していたこと、それは『ギルド職員を辞め、冒険者として生きていく』ということだった。


「・・・!」


 ロディの言葉にエマは目を大きく見開いたが、声を出さず、兄の言葉をじっと聞いていた。


「俺は幸運にもギルドで冒険者としての知識を得られた。陣士にもなれたし、少ないけれど貯えも出来た。そして『修正』ギフトが成長して、そのおかげで魔法も覚えることが出来るようになった。このままいけば安定した生活は出来る。

 けれどそれだけじゃギフトを十分に使っていないように思う。俺はもっともっと自分のギフトを成長させていきたい。

 それには冒険者になっていろいろな場所に行ってみて、そしていろいろな知識と経験を得るのがいいと考えているんだ。」


 ロディは小さいころから冒険者になることが夢だった。だが孤児であたっためにまず生活していくことが必要だったこと、また妹のエマを一人にできず彼女の生活も確保するため、街で仕事をすることを望み、結果ギルドで働いて妹を養っていた。


 現在、望んだことのほとんどすべてが満足いく形で叶っている。そして残った”望み”は冒険者になることだった。


 今回の一連の騒動の中で、ロディのギフトが冒険者としても有効に使うことが出来ることが分かった。それ以来ロディの心には冒険者になるという気持ちがゆっくりと、しかし確実に高まっていたのだった。


「だから俺は本格的に冒険者になりたい。勝手に決めてすまないが、これが俺の今の気持ちだ。」


 エマは一言も言わずロディを見つめ、その言葉を一言も洩らさないように聞いていた。ロディも緊張の面持ちで自分の意思を語り終えた。エマは聞き終わると、こちらも決心したようにロディに言った。


「わかったわ。これまで私が不自由なく暮らしてこれたのはお兄ちゃんのおかげ。だからお兄ちゃんのわがままはかなえてあげないと。」

「あ・・ありがとう。エマ」


 予想外にすんなりと意見が通って拍子抜けしたロディは、少しあっけにとられたがすぐに喜びを表した。

 しかしそれだけでは終わらなかった。


「で・・・私は?」

「え?」」

「私はどうすればいいの?」

「えっと、エマはもう”狩人”として一人前の働きができるようだし、それが無くても料理や裁縫で食べていけるだけの技術がある。もう俺がいなくても生きていけるだろう。だから・・・」

「ちっ・・・・がーーーう!」


 突然大声をあげたエマに驚くロディ。


「え?え?」


 何が違うのか判らず戸惑うロディ。


「ホント、お兄ちゃんは女の子の気持ちがわからないんだから。」


ビシッと指をロディに向けるエマ。


「え、ご、ごめん。」

「やんわりと言ってもわからないでしょうから、直球で言うわ。いい?」

「あ、うん、わかった。」

「私もついていくわ。」

「うん、わかった・・・え?」

「私も、お兄ちゃんと一緒に冒険者になって旅をするの。」

「えーーーーーーーっ!!」


 エマはニヤリと悪どい顔をして慌てふためくロディを見ていた。


 ロディにとってエマが付いてくるなんて想定外だった。当然エマは街に残って、安全な生活を送る、と勝手に想定していたからだ。


「ちょ、ちょっと待って。なんでエマも一緒に!?」

「ダメなの?お兄ちゃんは冒険者になるのがOKで私はダメ?」

「だって、そりゃ、女の子の旅は何かと危険だし、いろいろつらいこともあるだろうし・・・。」

「前も言ったと思うけど、女性の冒険者もいるでしょ。」

「いるのはいるけど、つらいのは変わりない。この街で暮らしたほうが安全だよ。」

「孤児院で暮らしてたから、つらいことも馴れてるわ。」


 どうやらエマも冒険者としてロディと一緒に旅をするつもりのようだ。


 ロディはあわてて、妹を思いとどまらせようと説得しようとしたが、エマの方が押し気味だ。


「それにこの街もあまり安全じゃないわ。」

「え?」


 エマのその言葉は予想外だった。エマは街にいても危険だという。


「ど、どうして?」

「だって、ダントンを捕まえたのってお兄ちゃんでしょ。ダントンの実家の商会って、この街では力を持ってるんじゃない。」

「・・・ああ、そうか」


 ロディにとってそれは盲点だった。

 ダントンは捕まって王都に連れていかれたが、個人の犯罪であって家が処分されたわけではない。

 ダントンの実家であるパディラ商会は、ダントンとは無関係を貫いているが、原因となったロディをどう思っているかわからない。ダントンの悪事とはいえ、家族がロディに含むところが無いとは言えないのだ。

 もちろんギルドや冒険者の知人たちが何かと目をかけてくれそうだが、完全に守ることはできないだろう。

 そう思うと妹のエマ1人だけ街に残るのは確かに安全ともいえない。


「それに、私も冒険してみたいじゃない。いろいろな街に行って、ダンジョンなんかも巡ってさ。」

「でもなあ・・」

「私も決めたの。私も一緒に旅をする。じゃないと、お兄ちゃんの冒険者のことも認めない!」

「そんな・・・」


 エマがわくわくした顔をロディに向ける。ロディはそれを見て何か言おうとしたが、やがてため息をついてあきらめた。


「・・・はぁ、お転婆娘は結局いつまでたってもお転婆だな。」

「ね、いいでしょ。私も一緒に旅に出て。」

「本当はそうしたくないんだが・・・・、仕方が無い。」


 自分の要望を言った手前、エマの要望を拒否することは出来そうにない。それに街に残しても危険なら、エマの希望通りに一緒に旅をする方が、自分がそばにいれるだけ安心ということもある。

 最悪、旅が想像以上に危険だったら、少し離れた安全な街で定住させる、そんなこともできるだろう。


「じゃ、一緒に行っていいのね。やったー!」


 結局、ロディはエマに押し切られる形で旅の動向を許可した。無邪気に喜ぶエマを見て『あれ?俺よりエマの方が冒険に出たかったのか?』と考えこんてしまうロディだった。


◇◇


「私も行くわよ。」

「はいいいっ?」


 エマと共に街を出て旅に出ることをナコリナに告げた時、彼女もさも当然のように「一緒に行く」宣言をした。


 驚くロディの横でエマが「やっぱりね」といった顔でうなずいている。


「私を置いていくの?ひどい!散々私を弄んでおいて。」

「え・・お兄ちゃん・・、まさか・・」

「だーー、ありもしないことを言わないでくれ!エマが信じるじゃないか。」


 慌てて否定するロディを見て、ナコリナはカラカラと笑う。


「冗談よ。でも一緒に行くつもりなのは本当。私も連れてってよ。」

「え、でも・・・」

「ロディと一緒にダントンと戦ったのは誰?」

「あー、ナコリナだな。」

「ならパディラ商会に目を付けられているのは私も同じ。むしろ当事者として、私の方が可能性が高いわ。」


 ナコリナの言うことは正論だ。狙われるならエマよりむしろナコリナの方だろう。

 ナコリナはそのまま話し続ける。


「だからあれ以降、私も街を出ることも考えていたわ。別にメルクーの街に居なきゃならないわけじゃないしね。」


 元々ナコリナも街を出ることを考えていたようだった。


「でも、ご両親は大丈夫なの?」

「家を継ぐわけじゃないからね、田舎から出てくるときに『どこに行くのも自由』って許可取ってあるし。」

「へー、理解ある両親なんだね。」

「・・・そうね。」

「・・・?」


 何でもないように軽く言ったナコリナの顔に、ほんのわずか影が差したようにロディには見えた。



(もしかして、ナコリナと家族とのはうまくいってないんだろうか。)


 しかし自分が踏み込むような話ではないと思い、深く考えないようにした。


「お姉ちゃんならついてくるって思ってたよ。これからもよろしくね。」


 エマが嬉しそうにナコリナを歓迎すると、ナコリナはいつも通りの表情に戻る。


 「よろしくね。・・・じゃあさ、今後の事の話し合いしよう。いろいろ準備もあるし。」

「え、もう今から?」

「そうよ、善は急げっていうしね。」


 有無を言わさず早速準備に取り掛かろうとするナコリナはだれも止められない。


 自分の冒険者になる決心が近しい人に迷惑をかけるかとかと思っていたロディだったが、逆にお転婆の二人に振り回されることになる。

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