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第49話 ロディ、冥福を祈る

 現れた穴とその奥に見える部屋の前に3人は無言のまま。10秒ほどたったところで壁に開いていた穴が消え、元の岩壁に戻った。


「わ!」

「元に戻った!?」

「どうして?何があったの」


 穴が閉じて元の壁に戻ったことで、驚きつつも我に返った3人は、互いに顔を見つめながら今起こった出来事を頭の中で整理しながら話し始めた。


「・・・これって、つまり『扉』ということじゃないかな?」


最初に口を開いたのはナコリナだった。


「『扉』・・・なるほど。奥の部屋へ入る扉、そのための魔法陣ということか。」


 魔力を流すと穴が開き、しばらくして閉じる。この魔法陣は奥の部屋の出入り口を開け閉めする役割を果たす扉なのだろう。


「この部屋って、今も人が住んでいるのかな。」


 エマは当然の疑問を投げかける。普通に考えて、部屋を作って暮らしている人がいるはずだ。

 しかしナコリナは首を振って否定する。


「多分今は使われていないと思う。」

「どうして?」

「最初に来た時に見たでしょ。この横穴付近は人の痕跡が全くないのよ。それどころか不思議な事に魔物の痕跡もない。普通は魔物が通ったり、住処にしたりしてもいいはずなのに、それが無い。まるでここを避けてるかのようにね。それに部屋は暗かったけど、ちりやほこりが積もっているのも見えたから、人が長い間住んでいないことは確実よ。」

「へー、そこまで見てたんだ。」


 ロディは短い時間で中を観察していたナコリナに感心した。


「つまり、ここは今は使われていない『空き家』ってことかな?」

「なかなか神秘的な空き家だね。」

「じゃあ私たち、入ってもいいのかしら。」

「今は使われていないからいいと思う。というより「入ってみたい」。どのみちこのまま何もせずに引き返すなんて出来ないよ。」

「そうね。賛成」

「全くその通りね!」


 これほどわくわくするようなシチュエーションで、このまま何もせず帰るなんて選択肢はさすがにありえない。3人とも部屋の中に入ることで気持ちが一致していた。

 なので、次はどのようにして部屋に入るかを話し合った。


「部屋に3人一緒に入るのはさすがに危険だわ。最初は外で待っている人がいないと閉じ込められる可能性もあるし。」

「たぶん中からも出られるようにはなっているだろうけど、古くて壊れてる可能性もあるかな。」


 話し合った結果、まずはロディ一人で部屋に入る事、中の安全を最優先で確認する事、何かあったときの為に外の二人は10分後に扉を開けること、などが取り決められた。

 危険があることも考え、ロディが剣を右手に、ランプを左手に持って扉の前に立った。


「準備OK。ナコリナ、扉を開けて。」

「分かった。」


 ナコリナが魔法陣に手を触れて魔力を送る。魔法陣が光り出し、やがて先ほどと同じように壁に穴が開いた。


「・・・行ってくるよ。」


 ロディは一度深呼吸して、そして1歩ずつゆっくりと中に進んで行く。入口付近を通り過ぎ、用心深く左右に目を送る。動くものは無く、特に危険な感じはない。


 後ろで扉が閉まり二人が見えなくなる。とたんに心細くなってしまったが、気持ちを奮い立たせ再び周りを見渡す。

 ふと扉のあった部分の右側に目を向けると、外にあるものと同じ石版の魔法陣があった。やはり内側からも扉が開けられそうだ。ランプを近づけてじっくり見たが、欠けなどない完全な魔法陣のようだ。これなら問題なく発動するだろう。


 ロディはその魔方陣に魔力を流した。すると、さっきと同じように壁に穴が開き、エマとナコリナが見えた。

 2人は突然のことにびっくりしていた。


「わ、ロディ。」

「お兄ちゃん。」

「驚かせてごめん。内側にも魔法陣があったので開くかどうか試したんだ。」

「・・ということは内側からも出られるってことね。よかった。」


 内側にも魔法陣があると知って2人はほっとしていた。中の様子が何もわからない分、待っている方が不安も大きかったのだろう。


「でもまだ中が安全かどうか確認してないから、もう少し待ってて。」

「分かったわ。」

「お兄ちゃん、気を付けて。」


 その直後に再びロディの目の前に岩壁が現れ、視界から2人が消えた。


 ロディはほっとしていた。実はロディも「閉じ込められるかもしれない」という不安は少なからずあったのだ。が、内側から扉を開けることが出来たのでその不安はほとんどなくなった。


 安心したロディは、部屋の安全を確認するために奥へと足を運んだ。


 暗く密閉した空間は不気味だ。ランプが移動するにつれてゆらりと動く様々な影が、その不気味さを助長していく。その中をロディはゆっくりと進んで行く。


 部屋の中央にテーブルがあった。テーブル表面は埃が隙間なく覆い、小さな岩粒も散乱している。やはりしばらく誰も使っていないのは間違いないようだ。ロディはテーブルにランプを置き、ぐるっと部屋を見渡す。

 すぐに目についたのは、なんとたくさんの本がおいてある本棚だった。


「わ、本がたくさんある。こんな場所に・・・信じられない。」


 部屋に入って左の壁に大きめの本棚が2つあり、そのほとんどの棚は本で埋め尽くされている。これほど多い本を持てるということは学者か、結構なお金持ちだったのだろうか。

 本棚から別の物に目を移す。部屋の奥に机、その上に何かの紙。机の隣には台があり、何かの道具が上に載っている。

 机に近づき、隣の台にあるものを見て、ロディは驚いた。


「この道具、魔紙やインクを作る道具に似ている。もしかして住んでたのは「陣士」かな。」


 ロディはこの部屋の住人は「陣士」もしくは「魔法陣」の関係者なんじゃないかと推測した。人知れず研究を続けていた、国とは関係ない在野の陣士。入口の扉が未知の魔法陣であることもその推測を裏付ける。


 あとは台所のような水場。奥にも部屋のようなものがあり、おそらくトイレと風呂だろう。

 ざっと見てとくに奇異なものはない、普通の部屋、または作業場と考えていいだろう。


「危険はなさそうだな。」


 ロディは剣をしまい、二人を呼ぶ前に最後の確認の為、ぐるりと部屋を見渡す。


 ふと違和感を覚えてある場所に目を止めた。ロディの目はベッドに向けられている。

 最初よりだいぶ落ち着いた今、最初には気付かなかったが、ベッドの布団が少し盛り上がっているように見えた。


「・・・」


 ロディはある事を予想しながら、意を決してベッドに近づき、埃まみれの布団をゆっくりとめくった。


「!やはり・・・。」


 それが見えた時、ロディはつぶやいた。予想していた可能性が実際に姿を現したからだ。


 布団の下にあったもの、それは”人骨”だった。


 ロディがめくったところには完全に骨だけになった頭蓋骨があった。顔は少しだけ部屋の方を向くように傾いていて、ちょうどロディに顔を向けている。ロディには、くぼんで何もない目の部分がじっと自分を見つめているような気がした。

 ロディは『顔』を出したまま布団をまげてそっと置き、部屋の持ち主と思われるその骨に手を合わせた。


「勝手にお邪魔してごめんなさい。」


 ロディが最初に死者にかけた言葉はそれだった。何か別のふさわしい言葉があったかもしれないが、頭に浮かだ言葉をそのままを口にしていた。

 その言葉をどう思っただろうか。

 部屋の主は何も語らず、ただロディを見つめるだけだった。


◇◇◇◇


「わ、扉が開いた!ロディ、大丈夫?」

「お兄ちゃん、大丈夫?」


 ロディが内側から扉を開けると、待ちかねたように二人が飛び込んできた。


「大丈夫だよ。危険なものは無かった。」

「もー、早く開けてよ。」

「ごめんエマ。けどエマたちを危険な目に合わせたくなかったから慎重に見てたんだ。」


怒るエマをなだめながら、ロディは弁解する。


「私たちも早く中を見たいわ。」


素早く奥に行こうとするナコリナをロディは呼び止めた。


「ちょっと待って。二人に最初にやってほしいことがあるんだ。」

「え、やってほしいこと?」

「こっちに来て。」


 ロディは少しだけ悲しそうに頷くと、踵を返して部屋の奥に歩いていく。それに続いて二人も歩き出す。

 ロディの向かう先のベッドを見た二人は、そこに何があるかを理解して立ち止まった。ナコリナは「まさか・・」と言い、エマは手で口を押えて驚いていた。

 ロディは振り返り、


「この部屋の持ち主だよ」


と、物言わぬ主を紹介した。


 少しの間を置き落ち着きを取り戻したエマとナコリナは、ベッドへと近づき部屋の主に手を合わせた。ロディも再び手を合わせる。

 二人とも何か語りかけているようで口元が動いていたが、ロディには聞こえなかった。


 手を合わせ終わったエマは、二人に提案する。


「この方を埋葬してあげたいわ。」

「うん、それがいいね。でもまだ俺たちは彼・・・彼女かもしれないけど、名前も知らない。」

「名前が分かってからきちんと埋葬してあげたほうがいいわね。部屋の中を探してみましょうか。」

「なにか名前がわかるものが無いか、調べてみましょう。」


 3人が同意し、まず調べようとしたのは机だった。故人にまつわる物があるとすればここだろう。


 机には埃が積もっているがきれいに整頓されていて、故人の性格が偲ばれる。

 その机の上にきれいにそろえられた一束の紙が置かれていた。その紙はおよそ10枚くらいあり、かなり古そうに茶色く変色していたが破れなどは全くなく、強度も十分で持ち上げることも出来た。

 そして紙一面には文字が書かれていた。


 その冒頭の文を読んだロディは驚いて二人呼んだ。


「二人とも、これを見て。」

「お兄ちゃん、何かわかった?」

「ちょっとここの頭の部分を読んでみて。」

「えっと・・・。」


その紙の冒頭に書かれていた言葉は、


『ここに最初に訪れた者へ。』


だった。


「・・・これはもしかして!」

「たぶんあの人がここに最初に入った人に向けて書いた手紙だと思う。」


 ロディはベッドを振り返って部屋の持ち主を見て、再び手紙に視線を戻した。

 彼(彼女)は手紙を残していた。ここを見つけた人に、何かを伝えたかったのだろうか。


「何が書いてあるの!?早く読ませてよ。」


 ナコリナが勢い込んで迫ってきた。


「ちょっと待って、1枚ずつ読んでから渡していくよ。」


そう言ってロディ達は紙に書かれた文を読み始めた。


 そしてそこには3人が全く想像もしていなかった驚きの内容が書かれていた。

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