第48話 ロディ、部屋をみつける
ロディの次の休日の日、朝から空は晴れていた。冬ではあるが、もう雪は融け、気温も凍えるほどではない。
ロディは今日を楽しみにしていて、朝早くから起き出してごそごそ支度をしていたくらいだ。
「お兄ちゃん、早すぎよ。準備の邪魔!」
エマはいつもより早く起き出したロディに小言を言いながら朝食と持っていく昼食を作っている。
けれどエマの顔も笑顔だ。彼女も楽しみにしていたに違いない。
「おはよう!今日はいい天気で絶好の探索日和よ!」
朝食ができたころ、ナコリナが家にやってきた。ナコリナは今日の調査も朝食も楽しみにしていたようだ。
三人は暖かい部屋で楽しく朝食を採った後、支度をして目指す森へと出発した。
森を進む三人の息は白く、森の空気の冷たさを感じるが、彼らの様子からは寒さを感じない。防寒着を着ていることもあるが、森を歩いて体が暖かくなっているのだろう、顔も赤みがかっている。
冬の森はあまり魔物が現れない。三人の歩みの前に魔物は一匹も現れておらず、順調に森を進んで行った。
「もうすぐ着くぞ。」
先頭を進むロディが少し上気した顔で後ろを振り返った。後ろの二人は笑顔で頷く。
やがて視界が開け、見覚えのある河原に到着した。河原は谷あいにあるが、日の光が差し込んで明るく、川の水も澄んでキラキラと輝いていた。
「季節が違うと趣も変わるな。」
「夏もいいけど、冬のこんな日もいい感じだわ。」
ロディとエマはきれいな景色にしばし見とれていた。
「当然インク草は今は見当たらないわね。」
インク草は1年草で、夏に受粉して土の中に新たな球根のようなものを作る。元の花が枯れた後、新しい球根は次の初夏にまた花を咲かせるのだ。なので今は土の中で季節を待っている。
今日の目的はインク草ではないので、少し早い昼食を摂った後、三人はさっそく横穴へと向かった。
◇◇◇◇
横穴は前回来た時とまったく変わらない状態だった。見つけにくい場所のせいか、他の冒険者が立ち寄った跡も見られない。
「この場所は見つからなかったようね。」
エマが魔法陣に近づいて確認したが、誰かに触られたような様子はないようだった。
ロディはほっとして、鞄の中から「魔法陣全集」を取り出した。
本を開いたロディの両脇にエマとナコリナが近寄りる。残念ながらその本はロディにしか見えないようになっている。なので調べられるのはロディだけだ。
ロディは壁の魔法陣と本とを比べていく。
「うーん、違うな。」
確認作業はおよそ30分間続いた。そして、最後のページを確認したロディが、二人の顔を交互に見ていった。
「ない。・・・この魔法陣はこの本の中にはどこにもない。」
「え、ということは・・・。」
「全く未知の、新しい魔法陣ってこと!?」
「そういうことになるな。」
驚くべきことに、壁の魔法陣は『魔法陣全集には載っていない未知の魔法だった。
「それって、すごいことじゃない!?」
「そう、すごいことだ。魔法陣が動けばだけど。」
「え?動かない魔法陣があるの?」
エマは疑問顔で聞いてきた。ロディとナコリナは頷く。
動かない魔法陣は実はかなりたくさんある。
魔法陣は古代文明の遺産であり、古代遺跡の内部の遺物や奇跡的に残った古い書物などにより発見されているが、そのほとんどは完全な状態の魔法陣ではない。
書物が古すぎて破れや破損が多く、遺跡からは欠落や削れた魔法陣が多数見つかっている。欠けがあると魔法陣は起動しないのは明らかで、魔法陣の理論が全く確立されていない現在では欠けた魔法陣を修復することはほぼ不可能なのだ。
現在使用されている魔法陣は、数少ない完全な形で残った動作する魔法陣で、その数は88個しかない。
不完全な魔法陣は、「魔法陣全集」に載っていない。それらは王都の魔法陣研究所に収集保管されている。その数は断片を含めると数百はあると言われ、魔法陣研究所では、魔法陣の理論構築や、魔法陣の修復の研究が日夜なされている。
「へー、じゃあ魔法陣って本当はもっといっぱいあったんだね。」
「そうだな。一部見つかっているのでそれだけあるから、本当はその10倍以上あるのかもね。」
「10倍以上!・・・古代文明って、改めてすごいって思うよ。」
エマは目を丸くして驚いていた。確かに古代文明は自分たちでは想像もできない高いレベルの文明だったのだろうと改めて感じる。
「それはそうと、この魔法陣が本に載ってない魔法陣だってわかったところで、次はロディの出番ね。」
「分かった。やってみるよ。」
ナコリナに促され、ロディは自分のギフトを発動させる。この欠けた魔法陣にロディのギフトを使うと、もしかしたら正しい魔法陣が赤く「現れる」のではないか。そう予想していたのだ。
今まで一部が完全に欠けた魔法陣にギフトを試したことが無いため、どうなるかドキドキしながらロディは「修正」ギフトを発動させた。
「・・・・・・・・!」
「ロディ、どう?」
「・・・見える。赤い線が欠けた部分に見えるよ!」
「「本当!!」」
ロディがギフトを発動してしばらくして、欠けた三角形の端の部分から赤い線が少しずつ伸びてきて、それが左右から合わさり、さらに複雑な模様も見えるようになった。
赤い線が加わり完成した魔法陣は、ロディから見ても図柄的に違和感は感じられず、これが正しい魔法陣だと直感できた。
「私たちには見えないから、早く描いてみて!」
ナコリナはそういうと、持ってきた木片のいくつかを欠けた部分にあてがった。そのうち一つの木片を選んで、切り欠きに丁度合う形にするように調整をして、そこにはめ込む。
ロディははめ込まれた木片に、ギフトで示されている図柄をなぞるように線を描く。出来るだけ正確に、丁寧に。
「・・・できた。」
ロディの声に、二人がそばに寄ってきた。
「凄い。。。これがこの魔法陣の本当の姿なのね。」
3人は完成した魔法陣を、不思議な感動と共に見つめていた。
「こんなに簡単に古代魔法陣を復元できるなんて・・・ロディ、あなたは天才だわ。」
「天才?ただギフトがすごいだけだよ。」
「今天才って呼ばれてる人は、みんなすごいギフトを持っているのよ。ギフト込みで天才なのよ。」
天才と言われて照れるロディ。しかし「修正」ギフトが褒められていると思うと、悪い気はしない。
「けど、まだ本当にこれか発動するか確認したわけじゃないよ。動くようにしないと。」
「そうね、早くやっちゃいましょう。」
3人は、再現された魔法陣を作動させるための準備を始めた。
固定式の魔法陣は魔紙の魔法陣とは違い、硬い石板あるいは金属板に描かれていて、作動しても消えることはなく何度も使える。
今回彼らは木板を石板代わりに使用することにした。木板は加工しやすい反面、耐久性が著しく悪い。石板製のものは何度でも使えるが、木板はせいぜい4~5回が限度だ。但し今回はこれで十分なのだ。
木片に描かれた線に2mm程度の深さの溝を掘り込み、それが終わると木片全体に固着用、防護用の液体を表面に塗り、乾いた後で掘った溝に沿ってインクを埋めていく。このインクは魔紙用のインクと異なり魔石の粉末が混ぜられており、粘性も高いため掘った溝を埋めるように厚くなる。
「よし、出来た。」
完成した魔法陣の木片パーツを切り欠き部分にはめ込み、位置の微調整と、石板-木片間の穴埋めを施す。これで魔法陣は完成だ。
「やっとできたわね。この魔法陣ってどんな効果があるのかしら。」
「じゃあ魔力を流してみるよ。危険かもしれないから二人は少し離れてて。」
エマとナコリナはロディに指示されて横穴の外まで移動して中をうかがう。
二人の位置を確認したロディは魔法陣に向き直り、「よしっ」と気合を入れて魔法陣に手を当てる。そして魔力を魔法陣に少しずつ流し込んだ。
徐々に流し込む魔力を増やしていくと、徐々に魔法陣が光り出した。
「お兄ちゃん、右の壁に何か・・・」
エマの声にロディが右側を見ると、2mくらいの四角く黒い何かが見え、そしてそれは徐々に消えていった。いや、黒い四角が消えるとともに、その位置にあった壁が消えたのだ
「壁に穴があいた!」
すぐにエマとナコリナも近寄ってきた。ロディは思わず魔法陣から手を放し、二人と共にすぐ右側にできた壁の穴を見る。穴は縦横2mくらいの真四角で、縁は全くの直線状だ。この魔法陣で穴が開いたのは間違いないだろう。
穴の向こうは、通路のようになっていた。この通路は、魔法陣で作られた感じではなく、元々あった通路のようだ。魔法陣で壁に扉のように穴をあけて繋げた、という感じだった。
「!奥を見て。」
開いた穴の奥を見たナコリナが叫んだ。言われずとも3人とも穴の奥は見えていて、そして同様に息をのむ。
中は光が無く薄暗かったがそれでも入射光により中にある物が何であるかは十分わかった。
通路は数mくらいで終わり、その奥はさらに空間が広がっているように見えた。そしてその空間には・・・
「部屋・・・だよな。」
「・・・私もそう見える。」
3人が見たもの、それは壁の向こうにある、机、椅子、本棚、ベッドなどが整然と置かれた『部屋』だった。




