第47話 ロディ、秘密がバレる
その日から1週間余り、メルクーの冒険者ギルドはこれまでで一番の忙しさだった。
ギルド長は監視付きの軟禁状態の為、副ギルド長が業務を代行し、監査員の指示に従い資料を集めて提出しつつ、日ごろの業務も行うことになった。
ロディも通常業務を行う傍ら、依頼があれば即座に出向いて資料の『間違い』を探し、終わればまた仕事へと戻って行く。
監査の資料は都度呼ばれるのではなく、チェックしてほしい資料を取りまとめてくれており、一定数貯まったらまとめてチェックを依頼することになっていた。
しかし、ギルド長の不正が明確になるにつれてチェックする資料も膨れ上がっていき、最後の方は他の監視員と一緒にチェックを行い部屋から出られないような状態だった。
ギルド職員は忙しかったけれども、しかし表情は明るかった。ギルド長とダントンの影響が無くなったこともあり、ギルドは徐々に活気を取り戻していった。
監査最終日の夕刻。アルメイダと監査員たちはギルド前に集合して別れの挨拶をしていた。
「監査は終了した。メルクーのギルド職員たち、監査への協力を感謝する。期待以上の成果が得られたことで、総ギルド長も満足するだろう。」
アルメイダの目前に並んでいるギルド職員は、やり切った感のある誇らしげな表情で彼の言葉を聞いていた。
「今回の結果、このギルドの膿を出し切ったと思う。これからはより良いギルドになるよう、ギルド本部も協力していくことを約束する。以上だ。では出発!」
アルメイダの声と共に職員が馬車に乗り込み、そして馬車は動き出した。
馬車が見えなくなるまでの間、職員一同はずっと見送っていたのだった。
監査一行は今日は街の宿に戻り、翌朝には王都に向けて街を出立する予定だ。
今回罪に問われることになったデルモスはいまだ肩書上はギルド長だが、容疑事実がほぼ確定したとして一緒に王都に移送されることになった。(ちなみにザンス氏も一緒に)
さらにダントンも『重犯罪人』として共に護送されていくことになっている。
彼の家がこの街の有力商家のため、この街で裁判をかけると無罪になる恐れがあるとアルメイダが判断し、許可を取って王都へ連れていくことにしたのだった。
◇◇◇◇
慌ただしかった1週間が過ぎ、ようやくゆっくりできる、とロディが家に戻ると
「「お帰り!」」
家ではリビングでくつろぐエマとナコリナがいた。
「・・・ただいま」
もうすでに何度か見たことのある光景だったが今日は少し気分が乗らない。
別にナコリナがいるのが悪いわけじゃない。これまでの監査のおかげで今日はかなり疲れ切っていたので、帰ったらゆっくりしたいと思っていたところだ。
でも仕方ないか、とロディは頭を切り替えて、着替えを済ませて一緒に会話をすることにした。
一週間前、ダントンの子分に襲われたエマは、やはり恐怖だったらしくしばらく沈み込んで、何かの音にも少し怯えるような様子だった。
ロディがそばにいてあげられれば良かったのだが、しかしギルドの監査によりそんな時間はほとんど取れないという状況。
そんな中、ナコリナは毎日エマの元にやってきて、時には泊まり込んでエマの話し相手になってくれたため、今ではエマはすっかり以前の明るさを取り戻していた。
おそらくナコリナはエマの状況を分かっていて、それで無理にでも都合をつけて訪ねて来ていたのだろう。ナコリナには感謝しかない。
そういったことで、もはや兄妹二人はナコリナには頭が上がらない。
「うーん、いつもながらエマちゃんの料理はおいしいわ。」
「フフ、ありがとう。」
ナコリナはにこにこしながら今日の夕食である魚のムニエルを平らげる。エマに笑顔をもたらしてくれたのだ。夕食くらいお安い御用だ。
夕食は和気あいあいとした雰囲気で過ぎていった。
ナコリナが話を切り出したのは、夕食も終わり、3人でゆっくりしていた時だった。
「やっとゆっくり話すことが出来るわ。」
おもむろに話し始めたナコリナは、少し雰囲気を変えてロディに顔を向けた。
「監査は終わったんでしょ。私、ロディにずっと聞きたいことがあったんだよ。」
「俺に聞きたい事?」
一体なんだろうかとロディは気楽に返事をしたが、次の言葉はロディたちを緊張させるのに十分だった。
「ロディ、魔法が使えるようになったの?」
「「!」」
ロディとエマは驚いてナコリナを見たまま声を出せなかった。
「実はね、ダントンとの戦いのとき途中から私目が覚めてたんだ。そしたらロディが魔法を使って戦ってるじゃない。私驚いちゃったわよ。」
「え、あれ、気付いてたの?」
やはりあの戦いをナコリナに見られていたのか。
仕方がなかったこととはいえ、ちょっとまずいことになりそうだ。
「でも戦いのレベルが高くって、しかもロディがダントンを圧倒してたから、私が入ると邪魔になると思ってそのまま見てるだけにしたの。ごめんなさいね。」
ナコリナが恐縮したようにあやまる。が、ロディはそれどころじゃなかった。慌ててエマを見ると、彼女はロディを見て怒っていた。
「もー、秘密にするって言ってたのに。」
「し・・・仕方ないだろ。魔法使わなきゃダントンには勝てなかったんだ。魔法を使っても結構危なかったんだからな。」
「・・・そっか、それは仕方ないわね。」
ダントンと戦わざるを得なかったことは聞いていたので、エマはすぐに納得してくれた。
が、問題はナコリナだ。二人はナコリナに、どう言い訳しようかと考えた。
「えっと、ナコリナ、魔法が使えるようになったことを黙っていたことはゴメン。だけどこれには深いわけが・・・。」
「そ、そう!ちょっと訳があって・・・。」
ナコリナは二人の様子を見て少し笑ってから言った。
「フフ、べつに秘密にしてたからって怒ってるわけじゃないわ。だってせっかく魔法が使えるようになってるのに、誰にも秘密にしてるなんて何か訳があるんでしょ。それと、私も見たこともないすごい強力な魔法だったのも何か関係ありそうだし。」
ああ、ナコリナは魔法の威力が普通じゃないこともわかっていたのか。
「あ、あれは「魔法陣全集」から覚えたとっておきの中級魔法で・・」
ロディは今さらではあるが誤魔化そうと試みる。しかしそれは無駄な努力だった。
「ウソ。私、中級魔法も見たことけどあんな魔法じゃなかった。ロディの魔法はなんというか・・・質が違ったわ。ロディが使うファイアーボールの方が、私の見た中級火魔法よりも威力が高い。私の感覚で言えば、初級魔法の高威力バージョンって感じかな。」
本職の魔法師はさすがに他人の中級魔法を見ているようで、誤魔化されなかった。
「えっと、・・・」
「それに、ロディの魔力量、あれは何なの?街まで身体強化かけ続けてさらに人を背負って走り続けて、それで魔力切れを起こさないなんて信じられないわ。」
「「・・・・」」
二人は黙ってしまった。ここまで分かってしまっているようでは、誤魔化すには無理があるようだ。
ナコリナは笑いながら顔をぐいと前のめりに近づける。
「ねえ、ロディには秘密があるんでしょ?ここまで気づいちゃったんだから、私にもロディの秘密を教えてくれない?誰にも話さないからさ。」
ロディとエマは無言で顔を合わせ、そして頷いた。ナコリナには恩があるし、こんな感じだがむやみに人に秘密を話すような娘じゃない。話しても問題ないだろう。
ロディはナコリナの方を向いて、ゆっくりと口を開いた。
「・・・ナコリナはいつも俺たちに良くしてくれるし、それにそこまで気付いているんだったら黙ってるのも失礼だし、話すよ。だけど、絶対に他の人には秘密にするって約束してくれる?」
「もちろん。私、こう見えても約束は守るわよ。」
ナコリナは豊富な胸をそらし、さらに右手拳を胸に当てる。
「じゃあ話すよ。この話は僕のギフトである「修正」が絡んでるんだ。・・・・」
ロディは少しずつ丁寧にナコリナに語っっていった。
ギフトで見える魔法陣の赤い線、体内魔力の操作により体外に魔力を出せるようになったこと、修正魔法陣の魔法実験とその威力の事などを。
最初は笑顔で聞いていたナコリナだったが、話し続けるにつれて驚きの表情に変化し、さらに真剣なまなざしでロディを見つめ、そのままロディが語り終えるまで静かに聞いていた。
聞き終えたナコリナはしばらく話の内容を理解しようとするかのように黙っていたが、フやがてゥッと息を吐き、二人に向き直った。
「秘密を話してくれてありがとう。なんというか・・・私が想像していた以上にとんでもない話だったわ。二人が秘密にしたがるのも無理ないわ。秘密が漏れたら二人にどんな危険が迫るか想像もつかない。
私、絶対に言わない。さっきも言ったけど、必ず約束は守るわ。二人を危険な目に合わせたくないもの。」
ナコリナは決意したような顔で宣言した。その言葉と表情から、ロディは信頼できる何かを感じた
「ありがとう、ナコリナ。」
「でも、ロディの「修正」ギフトは大化けしそうね。聞けば聞きくほど大きな可能性があるように思えるわよ。」
「そう言ってもらえるとうれしい。俺はギフトの本来の能力をまだ十分に発揮できていないって思うんだ。ギフトの力を引き出せていないなんて、ギフトに対して申し訳なくて。」
「そんな暗いこと言わないの。あなたのギフトは今回のギルド監査でも大活躍だったって聞いたわよ。これからギルドは改革されて将来発展していくはず。あなたの力はそれに貢献してるんだから、誇っていいわよ。」
ナコリナは明るくロディを励ました。この明るさにロディはいつも勇気づけられる。
「ありがとう・・・。ナコリナ。」
◇◇◇◇
「ところでさ、お兄ちゃん。今度の休日は何か用事ある?」
重要な話題がひと段落して、エマが別の話題を切り出した。
「ん?予定はないけど。最近疲れたから寝ていようかとも思ってたけど。」
「お兄ちゃん、不健康だよ。」
「はは、さすがに冗談だけど、家でゆっくり魔力鍛錬しようかと思ってた。」
「・・・それはゆっくりって言うの?」
エマとナコリナはジト目をしていた。ロディとしてはザゼンしながら魔力鍛錬すると気持ちが落ち着いて良いんだが・・。
「でさ、お姉ちゃんと話をしてたんだけどさ、休日にインク草の群生地に行ってみない?」
いつのまにかエマがナコリナを『お姉ちゃん』と呼んでいる。
他の人が聞いて変な誤解を生まないかとロディは少し心配になるが、まあ親しくなったのは良いことだとあまり気にしないようにした。
「インク草の群生地?今は季節が違うから咲いてないと思うけど。」
「えー、ロディ。この間話したばかりなのにもう忘れてるの?」
ナコリナから指摘されたロディは、少し上を向いて考えた。
忘れていることってなんだ?インク草の群生地だよな。あそこに何か・・・・あっ!
「そうだ、思い出した、横穴と魔法陣だ。」
「そうそう。ロディって、忘れっぽいの?」
「あのときいろいろあったから、すっかり忘れてたよ。」
ロディは素直に謝る。
「ま、あれだけのことがあったから仕方ないか。で、行ってみない?」
あの横穴にあった欠けた魔法陣。あの時は何の魔法陣かわからずに保留にしておいたけど、魔法陣製作士になり「魔法陣全集」を手に入れた今なら何かわかるかもしれない。
「そうだね、行こう!」
その言葉で三人の次の休日の予定が決まった。
ロディはあの横穴について考える。あの魔法陣は魔法陣全集に載っているものなのだろうか。もし載ってなかったら?もしかしたら自分のギフトを使えば・・・。
ロディは考えれば考えるほどどんどん楽しみになってくるのだった。




