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第46話 ロディ、安堵する

 話は前日の夜にさかのぼる。


 ロディが家で出会った黒い影の男。


「あなたは・・・アルメイダさん。」

「ロディ、久しぶりだね。」


 ロディとダントンの対決の日の夜、ロディの前に現れた男は、ユースフの秘書アルメイダだった。


「まず君の家に無断で入ったことを詫びよう。すまない。緊急事態だと思ったのでね。」

「あ、いえ、お詫びなんていりません。緊急事態だということは分かっていました。・・・あ、アルメイダさんはエマを知りませんか?」


 ロディはなぜアルメイダがここに、と疑問に思ったが、それより先に妹のことが気になった。


「エマ、というのは君の妹の事だね。心配ない。君の妹は無事だ。少し睡眠薬をかがされたようなので、今は君のベッドに寝かせてある。」


 アルメイダはロディを安心させるように少し明るめの声で言うと、扉を大きく開き、ロディに中が見えるように体を移動させた。

 部屋の中は薄暗いが明かりがともっていて、ロディがのぞくと、ベッドで横になったエマが見えた。


「エマ!」


 ロディがベッドに眠るエマに近寄り、寝顔を心配そうに見つめ、そして恐る恐る手を取った。エマの手のぬくもりがロディに伝わる。



(良かった、エマは無事だった)



 エマが無事であることを確認したロディは、張りつめていた気持ちから解放され、目から涙が零れ落ちるのを止められなかった。


「見たところケガはないようだ。女性の部屋に入るわけにはいかないので、申し訳ないが君のベッドを使わせてもらうことにしたよ。」

「・・ありがとうございます。」


 ロディは安堵と感謝の気持ちでいっぱいになり、ようやく、たった一言言葉にできただけだった。




 しばらくして気持ちが落ち着いたロディは、アルメイダに事のあらましを尋ねた。

 すでに子分の二人は縛り上げて動けなくしているので心配はない。ダントンと子分の計3人は、リビングに寝かせている。


「まずは何故私がここに居るのか、順に説明しよう。」


 アルメイダは、総ギルド長であるユースフに命じられてこの街のギルドの監査のためにやってきていた。

 なんでも今のギルド長のあまりにも悪い評判が王都にも聞こえ、さらに内部告発もあったために急遽監査を行うことになったようだ。


「私は明日朝からギルド入りして監査を始める予定でこの街にやってきた。そして君にギルド長からの依頼を伝えるために君の家にやってきたのだ。」

「ユースフさんからの依頼、ですか?」

「そうだ。それは後で話そう。まずは君の家でおこった事件の話をしよう。」


 アルメイダの語ることのあらましはこうだった。


 事前にユースフの要請を伝えるべく彼がロディの家の近くに来たとき、怪しい二人組が家の様子をうかがっているのを見つけた。見たことのある顔で、ダントンの子分とすぐに判ったらしい。

 何をする気なのか観察していたところ、二人は周囲を見渡して、ダッシュで家に駆けこんで行った。そして家の明かりが消え、中で叫び声と乱闘の音が響いてきたために、アルメイダさんも急ぎ家へと飛び込んだ。

 薄明りの中で2人に捕まってぐったりしているエマを見ておおよそを理解し、子分2人を有無を言わさず即座に倒してエマを救出した。

 そして彼女を寝かせるためにロディの部屋に入ったところで今度はロディが飛び込んできた、というわけだった。


 それを聞いてロディは身震いした。アルメイダが来ていなければ間一髪の差で間に合わなかったかもしれない。

 ロディはアルメイダに心から感謝した。


「じゃあ次はロディの事を教えてもらおう。」


 今度はアルメイダの疑問にロディが答える番だ。


「君の体は傷だらけで、しかも気を失ったダントンを背負って来た。大体の想像はつくが、君から詳しく聞きたいところだね。」


 アルメイダに促されて、ロディは今日森で起こったことを語った。但し、魔法の事は伏せて。

 30分後、全てを聞いたアルメイダは一つ頷いて、そしてロディの目を見て言った。


「なるほど、よくわかった。ロディ、君はよくやった。君はギルド長の策略とダントンの思惑を見事打ち破ったということだ。」


 アルメイダに褒められて、ロディは照れたように頷いた。


「しかしダントンによく勝てたものだ。彼はBランク冒険者だろう?」


 アルメイダの問いに、ロディは苦笑いして、


「魔法師の知人と二人だったので、何とか勝てたんです。」


と言ってごまかした。


「しかし、そうか。この件もあのギルド長が絡んでいたのか。」


 アルメイダのつぶやきは、ギルド長が別件でも問題を起こしていることをほのめかしていた。


 そして話は、最初の「なぜアルメイダがここに来たのか」の理由に戻った。


「今回の監査では、特例ではあるが監査対象のギルド所属の君に協力してもらえるよう、総ギルド長から指名依頼が出ているんだ。」

「ユースフさんからの指名依頼!?」

「そうだ、これが『指名依頼書』だ。」


 ロディは驚きながら差し出された依頼書に目を通す。読み終えたロディは顔を上げてアルメイダを見る。


「監査の助手の依頼、ですか。」

「そうだ。今回の監査を君に手伝ってもらいたい。」

「でも、私はまだギルドに入って間もないし、仕事も他の先輩方よりもこなせるとは思いません。」


それを聞いてアルメイダはロディの目を見ながら答えた。


「今回の件は仕事の良し悪しの話で依頼をしたわけじゃない。必要なのは君のギフトだよ。」

「え?ギフト」

「君は『修正』という稀有なギフトを持っている。このギフトは書類などの間違いを見つけて正してくれる。そうだね?」

「はい。」

「君にはギルド内の監査対象の書類を見てもらい、どこに間違いがあるのか見つけてもらおうと考えている。間違っている場所が最初から分かっていれば、そこを重点的に調べることができる。非常に効率よく監査を行うことが出来るんだ。すべての書類をつぶさに調べるよりはるかにね。」


アルメイダはロディのギフトの有用性を語った。


「今回の件は、すでに現ギルド長が不正をしていることはあらかた調べがついている。監査はその主な証拠探しだ。彼は書類に隠ぺいを施しているだろうから、そこを君のギフトで『間違っている部分』として見つけてもらえばいい。君のギフトがあれば我々の仕事もはかどるはずだ。」


 ロディはアルメイダの言葉を聞いて非常にうれしかった。自分のギフトを高く評価してくれて、そのギフトの活用の場を与えてくれている。


「分かりました。自分のギフトで出来る限りのことをやらせていただきます。」

「そうか、ありがとう。では明日から宜しく頼む。」


 アルメイダはすっと立ち上がり、ロディに右手を差し出してきた。それを見てロディは少し戸惑ったが、意を決して立ち上がり、右手を出してアルメイダと握手を交わした。ロディはアルメイダから一人の男として認めてもらえたように感じ、誇らしい気持ちになった。


 と、その時玄関の扉がバタンと開き、だれかが侵入してくる音がした。

 ロディとアルメイダは、同時に扉に目を向ける。


(ダントンの仲間か!?)


 二人に緊張が走る。


 が、侵入者の声を聞いてすべてを悟った。


「やっと着いた。ロディ、助けに来たわよ。エマ、無事なの?返事をして!・・・暗くてよくわかんないわ。明かり明かり・・・・。キャー、何これ、部屋中めちゃくちゃじゃない。誰がこれを・・・って、ダントンがいる!あ、子分も縛られてるわ。何、一体どういうこと。・・・でも良かった。最悪の事態にはなってないみたい・・・ねえロディ、どこ?いるんでしょ。出てきてよ。無事なの?ロディ!エマ!」


 この騒がしい侵入者はナコリナだった。


「・・・私の知人です。後を追って助けに来たみたいです。」


 ロディは苦笑しながらアルメイダに正体を話す。


「ほう、さっきの話に出ていた魔法師か。心配しているだろう。はやく行ってあげなさい。」


 ロディはアルメイダの言葉に頷くと、まだ騒ぎ続けるナコリナにエマの無事を告げようと急いで部屋を飛び出していくのだった。

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