第44話 ロディ、暗がりの中で
森の中を、ロディは街に向かってひた走る。背中にダントンを背負って。
最初はダントンを置いていこうかと思ったが、もしレインフロッグだけじゃなく他の魔物が現れでもしたら、抵抗できない彼は死んでしまうだろう。かといってナコリナにその場で留守番をしてもらうなんてのも論外だ。
それにもう夕方になっており、あとから戻って来ることも出来そうにない。
仕方なくロディは身体強化をかけてダントンを背負い、一心に街に駆けているのだった。
途中でナコリナはロディのスピードについていけなくなって脱落した。
「私を置いて、・・早く、街に行って、・・エマを、助けて。・・・この辺りなら、・・・私でも大丈夫、・・・だから。」
息も絶え絶えにナコリナはロディに先に行くように言った。少し悩んだロディだったが、ここはナコリナの意見に従うのがベストだと考えた。
「ごめんナコリナ。先に行く。」
「早く、エマを、助けて。」
そこからロディはさらにスピードを上げて森を出て街への道を駆け抜ける。
魔力身体強化は使い続けており、ロディの無尽蔵の魔力はさすがに減りが激しく、いつ魔力切れを起こすかわからない。
(魔力が切れたってかまわない。今はとにかく1秒でも早く家にたどり着くんだ。)
森の中をできる限りのスピードで駆け抜けるロディ。
ロディの思いが通じたのか、魔力切れを起こすことなく、夕刻に街にたどり着いた。
さすがに門を無視して中に入るわけにはいかない。ロディはスピードを緩めて門のそばに近づいた。
顔見知りの門番がロディを見かけて声をかける。
「ようロディ、急いでどうし・・・なんだそれは。」
門番は背中のダントンを見てギョッとする。
「けが人なんだ、急ぐんで通してくれないか。」
「お、おう、そうか。お前さんなら検査もいらないだろう。早く行ってやれ。」
「ありがとう」
お礼もそこそこにロディは街に入って駆けだす。
残された門番は、彼の走り去る姿を見ながら首をひねった。
「あのけが人、なんで縛られてたんだ?」
街に入ってもロディのスピードは緩まない。身体強化で視力を強化して人にぶつからないように間を抜けて走る。人々はロディが通り過ぎた後に気づき、何事かと振り返るが、その時はロディはすでに遠ざかっていて何もわからず、不思議な顔をするだけだった。
ようやく家にたどりついたロディは、すぐに違和感を感じた。
「おかしい。明かりが点いてない。」
すでに夕闇があたりを包んでいるのに、家は暗く、窓から明かりももれていない。
(エマは今日一日中家にいると言っていたはず。)
ロディの不安が一層濃くなった。
「あ、明かりが!」
一瞬、家の中に淡い光がともり、そしてしばらくしてそれは消えた。
(中に誰かいる!エマならいいけど、もしヤツらなら・・)
躊躇している暇はないと考え、ロディは急いで玄関に近寄り、そして慎重に玄関を開ける。
先ほどの光はもう見えない。
ロディは外からの薄明りの中、動くものが無いことを確認し、ら中にはいって明かりをつけようとする。
しかし明かり用のランプがいつもの場所に無く、明かりを付けられない。
(くっ、なぜランプが無いんだ。)
ロディは背中のダントンをその場に落とし、急いで「着火」の灯をともす。
そしてその明かりで見えた光景に、ロディは驚きの声をあげる。
「何だこれは・・。」
リビングはひどいありさまだった。
テーブルは倒れ、椅子は散乱して、食器が散らばっている。ランプも床に落ち、壁には大きな傷や、焼け焦げた跡も見える。ここで戦闘が行われたことがありありと分かる。
エマが戦ったのだろうが、エマは大丈夫なのか。
「エマ!」
ロディは妹の名を叫んだ。しかし返事はない。
「エマ!」
ロディは再度叫ぶが、物音ひとつ聞こえない。ロディは不吉な予感で胸が締め付けられそうになる。
それを無理やり振り払い、ロディはエマを求めて家の中を移動する。
「エマ、どこにいる。返事をしてくれ。」
エマを探しながら廊下に出ると、そこに人が倒れていた。
「エマ!?」
エマが倒れているかと思い、慌ててロディが近寄り、倒れている人の顔を確認する。
「・・・エマじゃない。」
ロディはほっと息を吐く。
倒れていたのはエマではなく、ダントンの子分だった。しかも二人とも倒れている。
エマではなく、しかも子分二人が倒れていたため少し安心したロディだったが、依然エマが見つからないことは変わりがない。エマはどこに?
(まさか、こいつら以外に協力者がいるんじゃないだろうか。)
不吉な考えが頭をよぎる。
その時にロディは扉が開く音を聞き、自分の部屋の方を見た。するとそこから明かりが少し漏れてきていた。
(!俺の部屋に誰かいる。協力者か?)
ロディは立ち上がって部屋にゆっくり歩み寄ろうとした。
しかしロディが部屋にたどり着く前に、ロディの部屋の開いた扉からから黒い人影が出てきた。
「誰だ!」
ロディは身構えて誰何の声をあげる。逆光の中の影は身長が高い男性のもので、明らかにエマじゃない。
警戒するロディ。
そこに、ロディを制するように男が言葉を発した。
「落ち着きなさい、ロディ君。」
暗がりの中で響く男の声。その声は鋭く、それでいて高ぶった気持ちを静めてくれるような深い声。
そしてロディにはその声に聞き覚があった。
「あ、あなたは・・・。」
暗がりに少し目が慣れてきたロディに見えたその男の顔は、ロディの見知った顔だった。




