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第43話 ロディ、急ぐ

 ダントンを打ち倒したロディは、それでも用心の為少し待ってダントンに近寄り、完全に気絶していることを確認してからウォーターボールを消した。


「ふう、なんとか勝てた。こいつが魔法に詳しくなくて助かった。」


 魔法というものは離れれば離れるほど効果がなくなる。これは魔法が魔力を使って保持しているからだ。

 ウォーターボールやファイヤーボールは体から離れるほど魔力と制御力を必要とするため魔法の保持が困難になる。さすがのロディでも、10mくらいが限界だ。

 つまり、ダントンがウォーターボールから逃れるためには、ロディから離れればよかったのだ。

 しかし、ロディはわざとダントンとの間にサンドウォールを作り「接近するのを阻止しようとしている」かのようにみせて、思考を誘導して接近戦を挑むように仕向けたのだ。

 ロディは頭脳戦にも勝利したのだ。


「しかし、疲れた・・・。」


 ロディは実感のこもった声でつぶやくと、その場に座り込みそうになった。

 彼は本当に疲れていた。

 「大剛力」というレアギフトを使うBクラス冒険者と渡り合うのは体力も精神力も消耗させるのだ。よく勝てたもんだと今にして思う。蹴られた脇腹は今でも痛い。修正魔法が無ければ確実に負けていた。


「ロディ、すごい。勝っちゃったんだね。お疲れ様。」


 背中からの声に驚いたロディは、後ろを振り向き、声の主を確認して安堵する。


「ナコリナ・・・気が付いたんだね。」


 ロディの後ろからナコリナが覗き込むように立っていた。彼女の無事な様子を見たロディはうれしくなって立ち上がった。


「ナコリナ、ごめん、守ってやれなくって。」

「そんなことないよ。こんな事、ダントンが勝っちゃうことに比べればなんてことないわ。」

「体は大丈夫?ケガは無い?」

「大丈夫。お腹がちょっと痛いけど、他はどこもおかしくないわ。」


 ナコリナがそばに倒れるダントンを見て、そしてロディを見て言った。


「ロディありがとう、ダントンに勝ってくれて。ロディは強いのね。Bランクのダントンに勝っちゃうなんて本当にすごい。ロディが彼を倒してくれなかったら、私、どうなっていたか・・・。」


 ナコリナは悪い想像をしたのか、自分の手で両腕を抱いてぶるっと震えた。


「いや、ナコリナは俺たちの件に巻き込まれただけだ。俺の方こそ謝らなきゃいけないよ。」

「私、途中で気絶しちゃって力になれなくて。」

「そんなことないよ。ナコリナがいてくれて心強かったし、それに”絶対負けられない”って思ったから勝てたんだと思う。ナコリナがいたから勝てたんだ。」

「ロディ・・。」


 ロディはナコリナを気遣い、そして傷ついた心を包むように優しい言葉をかけた。その言葉にナコリナの顔が次第に赤くなり、そしてプイっと顔を別の方向にそむけた。


「あ、ダントン、このままじゃマズいんじゃない。」


 エマの言葉にロディもやるべきことに気づいた。安心する前にやるべきことがある。

 ロディは縄を取り出しダントンの手と足を縛った。

 この縄はギルド特製のもので、様々なギフトを持つ冒険者にも対応できるよう耐物理、耐魔法に優れた特別な縄だ。さすがのダントンのギフトでもこれを切ることはできない。ギルド職員が護衛や視察などで外出する際には必ず縄を持参することが義務付けられている。


 ダントンを縛りながら、ロディは一つの事が気になっていた。


(ナコリナはいつから起きていたのだろう。もしかして、ナコリナは魔法を使うところを見た?)


 が、魔法の話をしないところを見ると、見ていた訳ではなさそうだ。

 それに。考えたところで今さらだ。魔法を使わなければ勝てなかったし、それで見られたのなら仕方ない。

 そう考えてロディは気にしないようにした。


 ロディがダントンを縛り終わった時、ナコリナがダントンに近づいてきた。


「ダントンが起きたら面倒だからこれ使うね。」


 ナコリナはカバンに手を入れて薬瓶を取り出した。


「睡眠薬よ。これを口に含ませれば2時間は起きないわ」

「へー、あまり見たことないけど自分で作ったの。」

「そう。魔法師は魔力が多くて、たいていの薬も作れるから、薬の作り方も知っておくのが常識なの。」


 ナコリナは睡眠薬を手早くダントンの口に流し込んだ。


 少し手持無沙汰のロディだったが、ふと視線を感じて池の方を見る。

すると、


「あ・・」

「ロディ、どうしたの・・・ええっ!」


 二人は水面を見てその光景に固まってしまった。

 二人が見たもの、それは池の水面に大量に浮かんぶ”目玉”だった。この目玉の正体は当然レインフロッグ。ロディの”天敵”だ。

 そのレインフロッグが数十匹、水面から眼だけ出してこちらを眺めていた。


(ヤバい、レインフロッグだ。今襲われたら危ないぞ。)


 ロディはすぐ逃げ出したいと思ったが、ダントンをこのままにするわけにはいかない。

 ロディとナコリナの二人は、急いで荷物をもってダントンのそばに近寄った。レインフロッグが襲って来たらすぐに逃げるためだ。


 しかし、どういうことか彼らも目を水面上に上げているだけで動こうとせず、じっとこちらを見ているだけだった。


「・・・レインフロッグ、動かないわね。」

「前に襲われたことがあったんだけど、今日は見ているだけだな。どうしてだろう。」

「・・・ひょっとして冬眠してたんじゃないの。騒がしいから見に来たとか」

「なるどほ、そうかも。」


 レインフロッグはカエルだけに冬は冬眠する。だから今はいわば「寝起き」なのだろう。それに寒くて体もうまく動かないのかもしれない。


「じゃ、動かないうちに急いで帰ろう。」

「見られながらじゃ気味が悪いけどね。」


 二人はとりあえずカエルは意識しないようにして地面に転がるダントンを見下ろした。


「これから街にこいつを運んでいかなきゃならないけど。」

「それは俺が担いでいくよ。身体強化を使えば街に着くまでは・・・・・あ!!」


 ここまで言ったとき、ロディは重大なことを思い出した。まだ事態は終わっていなかった。ロディにとっては一番重要なことが。


「どうしたの、ロディ。」

「ナコリナ、直ぐに街に戻ろう。エマが危ない!」

「え、エマが?どういうこと?」


 ロディは手早くダントンの語ったことを説明した。エマが子分たちに狙われていることを。

 ナコリナは驚き、そしてダントンを蔑んだ目でにらむと一度軽く蹴りを入れてから


「急いで帰りましょう。」


と言い、二人はすぐさま準備をして街を目指して去っていった。


 彼らが去ったあとには、雪上の戦闘の残滓と、水面に浮かぶ多量のレインフロッグの目が残っているだけだった。

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