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第39話 ロディ、命令される

 ロディの秘密の魔法練習からひと月ほど過ぎた冬のある日のこと。

 ロディがギルド内で仕事をしていると、ギルド長から呼び出しがあった。


 また難癖をつけられるのかと沈む気持ちを引きずって部屋に向かい、ドアをノックする。


「ロディです」

「入れ。」


 ロディが部屋に入ると、いつもながらに椅子にふんぞり返ってギロリと睨むデルモスがいた。

 しかしこれまでと少し様子が違う。ロディが見たところ心なしか落ち着きがないように思えた。


「お呼びでしょうか。」

「うむ、お前にやってもらう仕事がある。」


 デルモスはロディから顔をそむけた。


「前に森の池の爆音騒ぎがあったのは知っているな。」

「・・・はい」


 ロディはあの件がバレたのかと一瞬戸惑い、しかし懸命に平静を装って答えた。


「その件を再捜査してこい。」


 身構えていたロディだったが、想定とは違う言葉に少し肩透かしを食らってしまった。


「・・・再捜査、ですか?すでに調査した者が報告書を作成していると聞いていますが。」

「それは知っている。が、報告書では『原因不明』となっている。おまえはもう一度調査に言って原因を突き止めてこい。」


 ロディは自分のことがばれたのかと考えたがどうやらそういうわけでもないらしい。もしそうなら再捜査しろとは言わずに直接聞いてくるはずだ。

 しかし、なぜひと月もたった今頃わざわざ再調査させるのだろうか。理由が全く思い当たらず、いろいろ腑に落ちない。


「ひと月前の事件を再度調査ですか?」

「そうだ」

「あれから異変は起こっていません。再捜査するほど重要な件でしょうか。」

「お前の知るところではない。」

「すでに現場には痕跡も残っていないと思います。明日は雪が降りそうですし、さらに調査は困難になります。それでも必要でしょうか。」


 はっきり「無意味だ」と言わずに言外にその意味を込めたが、デルモスには通じなかったようだ。


「ええい、うるさい!」


 ロディの質問に短気を起こしたデルモスが机をぶっ叩いて会話を強制中断した。


「つべこべ言わずにお前は調査に行けばいいのだ。明日、必ず行ってこい。いいな?」

「・・・承知しました。」


 部屋を出たロディは首を傾げた。今回の命令には疑問がある。なぜ今更そのような調査をするのだろうか。やる必要があるだろうか?ロディとしては全くそうは思えなかった。

 どうもこの命令には別の意図があるように思える。例えば、明日はロディをギルド内にいさせたくないとか・・・。

 が、ロディはギルド内の重要人物ではないし、理由も全く思いつかない。


「仕方が無い。命令だし、調査に行くしかないか。」


 幸いにして、ロディのやったことがばれているわけではないのが分かって安心だと思うことにした。


「またあのカエルがいる池に行かなきゃいけないのか。業務命令とはいえ行きたくないんだけど。冬だし、冬眠してる気もするけど、気を付けなきゃ・・。」


 窓からみえるどんよりとした空を眺めながら、何事もないことを祈るロディだった。


◇◇◇◇


 翌日ロディが家を出てみると、昨晩降った雪が数cmほど積もっていた。

 この地方は王国の南部に位置しており、あまり気温は下がらず雪は少ない。今日のように雪が積ることが珍しいくらいだ。


「こんな寒い中で調査のために森に行かなきゃならないなんて、ついてないな」


 思わず愚痴が出てしまうような寒さの中、ロディはまずギルドに向かって歩き始めた。

 ロディが一仕事終え、昼過ぎに調査を行うためにギルドを出る。目的の池までは片道1時間くらいなので、日が暮れるまでには帰れるだろう。


 昼すぎだが気温は低く、街の人通りもまばらだ。雪も人が歩いたところ以外はそのまま残っている。ロディは寒さで少し身を縮めながら東門へ向かう。


 門のところでロディは見慣れた後姿を発見した。


「やあ、ナコリナ」


 ロディは彼女に声をかけた。ナコリナは振り向いてロディを見つけると笑顔で近づいてきた。


「ロディ、久しぶり。元気してた?」

「おかげさまでね。ナコリナは相変わらず元気そうだね。」

「もちろん。」


 ナコリナの服装を見ると、冒険者スタイルに上から防寒用のローブを羽織っている。どうやら彼女も街の外に出る所のようだ。


「今から森へ行くのかい?」

「そう、寒いから嫌なんだけど、こんな季節じゃないと採取できない花や草があるんだ。採取する人が少ないから結構いい値段で売れるのよ。ところでロディはギルドの仕事時間じゃないの?」

「俺もギルド長からの指示で森に調査に行くところなんだ。」

「うえー。ギルド長か。」


 ナコリナが不快なことを聞いたかのように言葉を返す。彼女はギルド長を嫌っていて、その話題が出ると露骨に嫌そうな顔をする。

 まあ大概の冒険者はギルド長を嫌っている。デルモスがギルド長になってから、支払が極端に渋くなったし支払遅延も多発している。これで彼を支持するような奴は、一部の贔屓されているやつらだけだろう。


「アイツからなにか嫌な仕事を押し付けられたの?」

「違うよ。前に森の中の池で起こった爆音の再調査を命令されたんだ。」

「ああ、あれね。」


 ナコリナもあの爆音を知っていた。それほどあの『ファイヤーボール』の爆発は皆に聞こえて話題になったようだ。


「でも今さら再調査って何するかわかんないな。ロディに嫌がらせをしようとわざと変な仕事を押し付けてない?」


 その考えはなかった、とロディは思った。魔法陣の件で逆恨みして寒い中の外出仕事を言いつけた、と考えたほうがまだ納得がいく。


「ね、ロディ。私も一緒に行っていい?仕事の邪魔しないからさ。」

「え、ナコリナは採取依頼があるんじゃないの?」

「池に行くまでの間にも結構あるのよ。おしゃべりしながらの方が楽しいし。」

「そうだね。じゃあ一緒に行こう。」


 仕事中だが、これくらいは許されるだろう。ロディとナコリナは二人で森に向かって会話しながら歩いていく。


◇◇◇


「あ、あったあった。」


 森に入って目的地に向かって歩く間に何度か、ナコリナが雪を払い、地面から目的の草を見つけて摘み取り、手慣れた手つきでバッグに入れる。


「へー、慣れてるね。何度か依頼を受けたことあるの?。」

「まあね。冬の貴重な収入源だもの。」


 冬は魔物も植物も少なくなるため冒険者が森に行くことも少ない。しかし冬でしか取れない草花や冬に活動する魔物も少ないが居るため、まったく森に入らなくなることはない。

 しばらく採取しながら歩いていると、ナコリナが「あっ」と声をあげた。


「思い出した。ロディ、思い出したよ。」


 ナコリナが勢いよく顔を近づけてきた。ロディはたじろぎながら問い返す。


「え、何を思い出したの?」

「魔法陣よ、魔法陣!」

「?」

「前にインク草の採取に行ったことがあったでしょ。で、そこで魔法陣を見つけたじゃない。」

「!ああ!思い出した。」


 そういえば陣士に受かる前、インク草を採取に行ったときに横穴を見つけて、そこで魔法陣を見つけたんだった。


「いろいろあって忘れていたよ。よく覚えてたね。」

「そりゃ、私は何度かインク草を採りに行ってたしね。・・・まだ試験受かってないし。」


 ナコリナはちょっとすねたような仕草でロディを見た。


「あ、ご、ゴメン。」


 ナコリナはすまなそうなロディを見てカラカラと笑った。


「そんな顔しないでよ、冗談だから。それはそうと、今度時間があるときに確かめに行かない?あの魔法陣が本に載ってるかどうか。」

「そうだね、行こう。」


 ロディたちに一つ楽しみが出来た。冬の間はさすがに難しいが、春になったら見に行こう。そして魔法陣を確かめてみよう。もしかして、何かわかるかもしれない。


「さ、ちょとっ時間がかかっちゃったし、急ごうか。」

「うん、わかった。」


 二人は少しわくわくした気分になって、足早に道を進んて行った。

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