第37話 ロディ、再び追いかけられる
≪お試し魔法 ウォーターボール編≫
二人の目の前には水をたたえた池が広がる。
ロディは苦い顔をしてエマを見る。
「ここって、この間の・・。」
「そう、ファイヤーボールを試した池よ。」
その池は二人がレインフロッグに追いかけられた因縁の池だった。
「なんでまたこの池を・・・。」
「だって、今ならみんな怯えて近づかないのよ。秘密の実験には丁度いいわ。」
「でも、レインフロッグがまた襲ってきたら・・。」
「大丈夫だって。ウォーターボールは爆発しないし。水だから池に落としても問題ないでしょ。」
「そうかな・・?」
エマの自信とは裏腹に、漠然とした不安を感じるロディだった。
「ウォーターボール!」
ロディが魔法を唱えると、目の前に水の球が現れた。大きさは直径4~50cmくらいだろうか。
「これが修正ウオーターボールなの?明らかに大きいわ。」
エマはウォーターボールの大きさに驚きの声をあげる。
「普通はどれくらい?」
「普通は20cmくらいよ。サイズが2倍以上じゃない。」
エマもウォーターボールを出してみる。およそ人の頭と同じくらいかやや小さい。
比較すると、やはりロディのウォーターボールの大きさが際立つ。
サイズが2倍以上なら体積はおよそ10倍くらいだ。ロディの魔法は明らかに水量が多いのがわかる。
「さわってもいいかな?」
エマは自分のウォーターボールを解除し、ロディに近づいて水の球にそっと指を近づける。水に触れ、そのまま少し水の中に指を入れる。
「特に何ともないわね。飲んでも大丈夫かな?」
「いいんじゃないか。」
冒険者の遠征や旅では水魔法の水を飲むのが普通だ。生きるためには何はなくとも水は必須だから、川などの水が確保できなければ自前の”水”を飲むしかない。
ダンジョンなどでは水の確保のために水魔法が必要不可欠となる。そのため冒険者が最初に覚えるべき初級魔法は「ウォーターボール」と相場が決まっている。
エマは水球に手を入れて水を掬う。そして口元に持って行って飲んでみた。
「・・・おいしいわ。問題なく飲める」
エマがニッコリと笑う。修正魔法でも水は質的には問題ないようだ。
「まだ空中に保持しておけるの?」
「まだ大丈夫そうだ。」
「普通10秒くらいで限界のはずだけど・・・」
エマはロディのキープ時間に驚きあきれた。が、気を取り直して別の指示をする。
「じゃあ、このウォーターボールを、どのあたりまで体から離してもキープできるかやってみて。」
「よしきた。」
ロディは魔力供給を続けながら少しずつ体から離していった。
通常、魔法というのはウォーターボールに限らず、魔力でつながっていれば制御できる。しかし体から離れるほどにその制御は急激に困難になる。
ロディからウォーターボールが離れて行って、およそ10mくらい離れた時、ウォーターボールの挙動が不安定になった。
ロディが少し苦しそうに言う。
「・・・このくらいが限界みたいだ。」
「10mも離れても留めておけるなんて、驚異的ね。まあこれは修正魔法だからじゃなくて、お兄ちゃんの魔力制御のレベルが高いからだけど。」
「普通の魔法師はどれくらい離せるものなのか?」
「2mくらい離したところに水を出せるって自慢を聞いたことある。けど普通そんなことやらないわね。」
普通は出現させた魔法をそのままとどめておくなんて使い方はほとんどない。攻撃魔法は作り出してすぐに射出するものなので、そのようなことをやる必要がないのだ。
しかしロディはこの実験で、ある考えが閃いていた。
(この「魔法を体から離して留めておく」方法って、魔力制御力を鍛えるいい方法なんじゃないかな?)
ウォーターボールは10m以上離せば制御できなくなる。でも制御力が上がればもっと距離を離すことが出来るだろう。今は10mが限界だが、その限界状態を続けることが訓練になるんじゃないか。
10mの制御が容易になったら、さらに距離を伸ばして常に限界状態で魔法をキープすれば・・・
「これは使えそうだ。」
「え、どうしたの?」
「いや、こっちの話。」
ロディは少しにやけた顔で答えた。
最近ロディは、ザゼン中の魔力の訓練に物足りなさを感じていた。魔力を動かす方法をいろいろ試してはいるが、所詮は体の中のこと。簡単にできてしまうのだ。もっと魔力制御に良い高負荷の訓練方法はないかと考えていたのだ。
(いい方法を見つけたぞ。)
ロディは心の中でひそかに喜んでいた。
「じゃあ、ウォーターボールの試験はこれくらいにしましょ。」
エマが試験の終了を宣言した。
「で、このウオーターボールはどうだった?」
「量が多いというだけでも、すごく使えると思う。けど、それ以外の違いは無いみたい。」
「火や土に比べ、ちょっと物足りない感じかな。」
これを聞いたエマはあきれた顔で反論する。
「何言ってるの。水魔法も十分異常なんだから。これまでの魔法が規格外すぎるのよ。あんまりトラブルばかり起こさないでほしいわ。」
「あ、ごめんごめん。・・・ところで、このウォーターボール、どうしようか。」
ロディは驚いたことに、まだウォーターボールをキープしていた。
エマは空中に浮かんだままのウォーターボールを見て、ため息をついた。
「いつまで続けてるのよ・・・。はぁ、お兄ちゃんの魔力量と制御力は異常だから、驚くことじゃないか。」
「いや、異常とかトラブルメーカーとか、普通に傷つくんだけど・・・。」
「私としては、早く自覚してほしいんだけど。」
エマに突き放されて意気消沈のロディは、ウォーターボールの魔力を切って、池の中に落とした。幸い、爆発などはしなかった。(当たり前か)
「じゃ最後はエアカッターだけど、どこに行こうか。」
気を取り直してロディがエマに次の場所を聞いた。
「この池を超えた向こう側に岩場があるのよ。そこに行こうと思う。」
「わかった、そこに行こう。」
二人が池の反対側に行こうと池のふちを歩き始めた時だった。
『ゲコッ』
「・・ん?」
「え・・・」
『ゲコゲコッ』
「「・・・」」
二人は不吉な鳴き声を聴いて立ち止まる。そして恐る恐る池の方に目を向ける。
「・・・あ。」
風が無いのに水面が波立っている。
数個の目が水面から上に出ている。
さらに底の方から何かが上がってくるように影が揺らめいて大きくなっていく。そしてそれは一斉に水面から顔をのぞかせた。
「れ・・・レインフロッグ!!」
「なんで!?」
彼らは知らなかったのだが、ロディが池に落としたウォーターボールにはロディの魔力を大量に含んでいた。そしてレインフロッグたちはそのロディの魔力を感じ取り、
『このあいだの”敵”がまたやって来た』
と認識して迎撃しようとしていたのだ。
水面の顔は増え続け、さらに徐々に岸に上がってきていた。赤い目をして。
『ゲコォォォォォォォーーーーーーー!!』
「逃げろォォォォォォォーーーーーー!!」
二人が再び一目散に逃げだしたのは言うまでもない。




