第36話 ロディ、再び魔法を試す
すでに秋も深まり冬の訪れも実感しつつある季節。
ロディの次の休日に、兄妹二人は再び森にやってきていた。理由はもちろん、前回試していなかった他の初級魔法を試すためだ。
今回の実験場所もエマが探してきた場所だ。
「お兄ちゃんの魔法は10倍くらいの威力とみておいた方がいいわね」
ということで、魔法の威力を考慮して選びなおしたらしい。
◇◇◇◇
≪お試し魔法 サンドウォール編≫
森の路から少し外れたところに移動した二人は、土が20m四方で露出した場所に立っていた。
「じゃあ、ここでサンドウォールを使って見て。」
なるほど、土魔法は当然土があるところの方がやりやすい。サンドウォールを試すにはちょうどよさそうだ。
「よし、いくぞ。『サンドウォール』!」
ロディが魔法を使うと、地面がググッと盛り上がり始め、3秒後にはロディの目の前に2m四方の壁がそそり立っていた。
「うーん、サンドウォールって俺は見たことないけど、こんなもんじゃない?」
ロディはエマに振り向いて同意を求めようとしたが、エマはあきれて首を振った。
「完成まで早い。普通は倍以上かかるわよ。」
「そうなのか?」
「魔法の速さは、魔力量よりも主に魔力制御力に影響するそうよ。お兄ちゃんは制御がとても優れてそうね。」
完成までの速さは魔力制御力に関係しているらしい。毎日欠かさずザゼンの訓練しているので、ロディの魔力制御はかなりハイレベルだ。
そのまましばらく”壁”を見ていた二人だったが、エマが再びつぶやいた。
「・・・どうして崩れないの?」
「え?」
エマは壁に近づいて目を近づけて、さらにコンコンと叩いた。
「・・・かなり硬い。まるで石みたい。」
「なんかおかしいのか?」
「おかしいなんてもんじゃないわよ。」
エマがなぜか怒りながらロディに振りむく。
「普通のサンドウォールは、”脆い土壁”って感じのものなのよ。」
「お、おう、そうなのか。」
元々サンドウォールは攻撃力はないし、防御力もさほどない。このサンドウォールが戦闘で使われるのは、主に『攻撃をわずかに遅らせるため』と、『視界をさえぎるため』だ。硬さもないため、攻撃を受けたり時間が経ったりすればすぐに壊れる。しかし戦闘ではそのわずかな時間が勝敗を分ける。通常の戦いではおもに後衛の防御に使われることが多いのがこの魔法だ。
しかし、ロディのそれはまるで『石壁』だった。叩いた時の音で硬さの違いが分かる。
「お兄ちゃん、魔力を切ってみて。」
エマはロディにサンドウォールに魔力を流さないように指示した。
サンドウォールは魔力を流し続ければその間硬度は持続する。しかし魔力を切れば徐々に硬度は落ちていき、10秒程度で砂のように崩れるのだ。「サンド」ウォールと呼ばれる所以である。
しかしロディは怪訝そうな顔で言った。
「魔力なんて流してないぞ。」
「え?」
ロディは壁に魔力を供給していなかった。
「・・・ということは、魔力供給がなくても、この硬さと持続力なの?すごい・・」
(※作者注:エマの言葉はあくまでも”サンドウォール”に対しての言葉です。別の意味はありません。)
「じゃあ質問だけど、魔力を流し続けるとしたらどのくらい長く流せる?」
「うーん、やったことないけど、この感じなら1時間くらいはいけるかな。」
「1時間!?普通の魔法師は1分くらいで限界よ。」
エマはあきれた顔でロディを見る。ロディの魔力の多さを再認識した。
「お兄ちゃん。同じやつをもういくつか出せる?」
「やってみるよ。」
ロディはサンドウォールを唱えて、新たに3つの壁を作り出した。そのいずれも、最初の壁とほぼ同じものだ。
エマはロディの魔法の速さにあきれながら尋ねた。
「あといくつ出来そう?」
「この感じだと・・・あと100個くらいかな。」
「100個!?」
「少ないか?」
「馬鹿なこと言わないでよ。普通の魔法師は連続5回くらいで魔力が尽きるわよ。」
「そ、そんなものか。」
「・・・お兄ちゃんは、ギフトもすごいけど、魔力量もとんでもないんだね。」
ロディはこれまで魔法を使えなかったのでわからなかったが、どうやら魔力量は桁違いのようだ。
「・・・もういちいち驚いていられないわ。お兄ちゃんは異常だと思ってやっていく。」
「異常、ってそれはやめてほしいんだが。」
妹に”異常”認定されてしまったロディは悲しそうに言うのだった。
「ところでお兄ちゃん、この壁って魔力で崩すことはできるの?」
通常のサンドウォールは自然に崩れるため、あえて壊そうとする必要はない。だがロディのサンドウォールは”異常”な堅さのため、魔力で壊せるかどうか確認する必要がある。
「やってみる。」
ロディは作った壁の一つに、崩すイメージをして再度魔力を流しこむ。するとあれほど堅かった壁はあっけなく、それこそ砂のように崩れ去った。
エマは崩れた砂と、まだ立っている石壁を交互に見ながら考えていた。
「硬く、長持ちしそうで、しかも壊すこともできる壁。これって、ダンジョンのパーティで安全地帯を作ることも可能ってことじゃない?」
「たしかにそうかも。」
「もしこのことをみんなが知ったら、これだけで引く手あまたになるでしょうね。」
ダンジョン内で常に問題になることの一つに野営がある。ダンジョン内では安全地帯もあるのだが、深く潜ろうとすれば安全地帯に頼れずに野営を行う場合も出てくる。その場合は交代で見張りを立てたりするのだが、肉体的にも精神的にも疲労せざるを得ない。
だがロディのこの魔法であれば、野営地四方に壁を作っておけば、簡易の安全地帯となって交代での番も必要ないかもしれない。そうなればダンジョンの攻略も捗るだろう。地味ながらも使いようによってはかなり使える魔法だ。
「まったく、お兄ちゃんには驚かされっぱなしだけど、まだ魔法2つしか確認してないんだよね。」
エマの言う通り、ロディは2種類の魔法しか使っていない。しかしどちらも破格の性能だった。残る2つはどうなるだろうか。
「時間もあまりかけられないし、次の魔法を確認しましょう。ここにある残りの壁はこのまましばらく放置しておかない?耐久性を確認してみたいの。」
「わかった。そうしよう。」
二人は壁をそのままにして、次の場所へと移動した。




