第35話 ロディ、決意を新たにする
「ロディ、ちょっとこの書類に修正をお願いするわ。」
ある日、ロディはリーセから書類の修正をお願いされた。
それだけならば普通のことだったが、その時は普通と違うところがあった。書類の数が多すぎるのだ。その数およそ50枚。いつもとは桁が違って多かった。
「リーセさん、結構な金額になりますが、いいんですか?」
『書類1枚につき大銅貨1枚』という全ギルド長の通達はまだ生きていた。職員が『ロディに手間賃を払うのは当たり前。』と考えるようになっていたからだ。また、現ギルド長も知ってか知らずか、何も言わなかった。おそらく自分に関係のないことだと思ったからではないか。
「いいわよ。その代わり、このことは内緒にしておいてね。」
「え、はい、ギルドの書類だから内密にするのは当然ですが・・。」
『内緒にする』などという、いつもとは違う依頼に首を傾げたロディだったが、その時は特に深く考えず、書類を受け取った。
仕事の手が空き、ロディが書類の修正に取り掛かると、すぐにその資料の『異常』に気づいた。
「これは・・」
その書類には修正箇所がやたらに多かった。1枚につき5,6か所は当たり前。中には一文章丸々修正という箇所も複数あるのだ。
通常、間違いはあっても1,2箇所がせいぜいだ。ロディにはこの書類が『間違ったこと』を記載することを前提として作られているとしか思えなかった。
明らかに不審と思いつつ最後まで修正を終えたロディは、元の文と修正した文を改めて読み比べて、そして確信した。
仕事終わりごろの時間にリーセに修正入りの書類を渡すとき、ロディはリーセに質問しようとした。
「あのリーセさん、これ・・・」
「ロディ。」
ロディが言い終わる間もなく、リーセはロディの口に人差し指を当てた。
「女性に秘密を聞くものじゃないわよ。」
「でも・・・」
「あなたは気にしなくていいの。私に頼まれて修正した。ただそれだけよ。」
リーセはロディの言葉を制止して、そしておどけたようにウインクした。
「時期が来たら教えてあげるわ。それまで黙ってて頂戴ね。」
リーセはそう言うと書類を持って部屋を後にした。ロディはその後姿を見つめることしかできなかった。
ロディはリーセが何をしようとしているかおおよそ見当がついていた。しかしリーセは何も語ってくれなかった。
リーセにとって自分は、まだ「頼りない少年」でしかないのだろう。自分に力がないからそう思われているんだ、とロディは感じた。
ロディは自分が『保護すべき対象』と思われていることが悔しかった。しかし、今はそれを覆せるだけの力がないのも事実だ。
「・・・今は考えても仕方ない。今は自分にできることをやっていこう。」
それが将来自分の力になる、そして一人前と認めてもらえるようになるんだ。
そう信じて、ロディは仕事に戻っていった。
◇◇◇
ここは王都。
ある建物のある一室。
この部屋に二人の男が居た。
一人は机に向かい椅子に腰かけ、一人は机を挟んで立っていた。
座っていた男は手に持っていた書類を読んでいたが、やがて机に書類を置いて顔を上げた。
「・・・間違いないな。急いで手を打たねばならん。」
「はい」
厳しい声と、同意する静かな声が聞こえる。
「早急に準備を進めるように。それから、お前は責任者として現地に行ってもらう。」
「承知しました。」
返事をした男は、すぐに体を返すと部屋を出ていった。
残された男はつぶやく。
「・・・許さん。」




