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第34話 ロディ、追いかけられる

「え?」

「ウソ!」


 ファイヤーボールの着弾地点から10mくらいの半球形の範囲で火球が広がったかと思うと、そこから大量の水が飛び散る。火球が水に触れたせいで爆発的に水の体積が膨張して爆発したようになったのだ。

 飛び散った水と爆風は、二人のところにまるで横殴りの暴風雨のように飛んでくる。しかし彼らは避けようともせず濡れながら呆然と池の惨状を見ていた。

 爆発が起こった池の中心は、えぐれたかのようにくぼみが出来、そこにすぐさまそこに周囲の水が流れ込み、そして中心でその水の力が中心で合わさって、その力が上に向かうようにして


------ドーン!!------


と、水柱をそそり立たせる。

 その水柱は高さおよそ20mくらいにまでそびえたった。


 やがてその水柱が自重で崩れ落ちると再び水がえぐれ、さらにまた水が流れ込んで中心で水柱を作る。これの繰り返しだ。

 何度も何度も立ち上がる水柱。

 池の周辺には大きな波がうねうねと全体にすごい速さで広がっていく。


「・・・すごい爆発だね。いつもこんな感じなのか?」


引きつり笑いを浮かべながらエマに尋ねるロディ。


「そんなわけないじゃない。こんなの見たことないよ。いつもは、ちょっと爆発して軽く波立つくらいだったよ。」


 エマは否定しながらも、目は池の状況にくぎ付けだった。


 やがて爆発による波が岸に大量に押しよせ、岸辺から水が押し出されるように流れ出る。二人のいる足元にも水が浸食してびしょびしょになっていた。

 足元が濡れてきたことに気づいたロディは、と同時に池の異変にも気づいた。


「あ、池の中から・・・」


『ゲコッ』

『ゲコゲコッ』


 水が暴れ続けている中、池の中に何かの影が見えたかと思うと水面から緑色をした生物が顔を出し、そして陸に上がってきた。

 この池に住むレインフロッグという魔物だ。レインフロッグはゲコ、ゲコと鳴きながら水から出てきている。

 レインフロッグは体長1mくらい、普段は温厚で人は襲わないし、さほど強くないので全く脅威は感じない。

 しかし今回は勝手が違った。


『ゲコッ』

『ゲコゲコッ』

『ゲコゲコゲコッ』

『ゲコ・・・・・・・・・』


「・・・100匹はいるかしら。」

「これ以上増えなければね。」


 二人の目には無数のレインフロッグが池の底から浮かんでくるようにわらわらと沸き出てくるのが見える。

 その数は増え続け、ゲコゲコと鳴く声も大きくなる。もはや100匹ではなくその数倍はいる。

 そして彼らの目は一様に赤かった。安住の地に騒ぎを起こした者に対する怒りに満ちたように・・・。


『ゲコゲコッ!ゲコッ!』


「逃げるぞ!」


 言うが早いか、二人は一目散に駆け出した。たとえ弱い魔物だとしても数百匹と戦えば大変なことになるのは目に見えている。三十六計逃げるにしかず。後ろからすごい大量の鳴き声が追ってくるのを振り切るかのように、二人は全力で走った。


◇◇◇


 二人がようやく立ち止まったのは、森の中の少し開けた場所だった。ロディが息を切らしながら後ろを見た。


「もう、大丈夫、そうだな。」


 レインフロッグは追って来ていないようだ。

 レインフロッグは跳びはねて追って来ていたがそのスピードは比較的遅く、逃げるのは簡単だ。それに池からはあまり離れたくはないだろう。二人の前に現れる様子はなかった。

 追ってこないとわかり、二人ともその場にへたり込んだ。


「しかし、ひどい目にあった。」

「お兄ちゃんのせいでね。」


エマのジト目がロディに突き刺さる。ロディはごまかし笑いを浮かべて「ごめん」とあやまった。


「でも、なにあのファイヤーボールは。めちゃくちゃすごい威力だったわよ。普通の10倍以上じゃないかしら」


 やはりあの威力は普通じゃなかった。少なくとも初級のファイヤーボールではありえない。


「これはやっぱり、「修正」魔法だから、だよな。」

「間違いなくね。」


 ロディの修正魔法陣により魔法の劣化が解消されたため、威力も元の力を発揮したということだろう。


(これが「古代文明の魔法」の本当の力なのか)


まさにそら恐ろしくなるくらいの衝撃的な力だった。古代文明おそるべし。


「これはお兄ちゃんの力を秘密にしておくのは当然だわ。知られたらどうなるか見当もつかない。」


エマが空を仰ぎ見ながら言う。


「しかし、ここまで威力が変わるとは・・・・」


 このファイヤーボールの魔法陣は2か所直しただけだ。けれどもたったそれだけでこの違いだ。

 ロディとしては「威力が5割くらい向上していればいい方かな」なんて考えていたが、そんな甘っちょろいレベルではなかった。


「なんかこのギフト、恐ろしくなってきたな。」


 ロディは自分のギフトが思いもよらない力を示したことから、気持ちが少しネガティブになっていた。


「うん・・・でもね。」

「ん?」

「私、お兄ちゃんは本当にすごい、うらやましいって思う。」


エマは兄を見てニコッと笑って言った。


「だって、その辺の魔法師の人が絶対敵わないくらいの魔法を使えるんだよ。『どう、わたしのお兄ちゃんすごいでしょ!』って自慢して回りたいくらいなんだよ。私も使えたらいいなって思うくらいだよ。」

「・・エマ・・」

「お兄ちゃんが恐ろしいと思うのもわかるけど、ギフトは自分の味方なんだよ。ギフトには『ありがとう』って感謝すればいいんじゃないかな。」


 ロディは少し驚きの感情でエマの言葉を聞いた。

『ギフトは味方』

 その言葉は、ともすれば落ち込みそうになっていたロディの心をフワッと掬い上げたのだった。


「そう、だな。せっかくもらったギフトだ。そしてすごい力があることもわかった。・・・俺のギフト、ありがとうな。」


 ロディは自分のギフトと、エマにも感謝したのだった。


 結局、その日は他の魔法は試さずに帰路についた。あまりの衝撃に、他の魔法を試す気が起こらなかったからだ。


◇◇◇


 森を出て街に入ると、噂がそこかしこから聞こえてきた。


「森の方ですごい爆発音が聞こえた。」

「池の水があふれてフロッグが大量に出てきていたらしい。」

「水龍が目覚めたのでは・・。」


 あの爆発は、街で大変なことになっていた。

 二人はいたたまれずに、こそこそと家路へと急ぐのだった。

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