第33話 ロディ、「修正」魔法を試す
「へー、これがお兄ちゃんの魔法陣か。」
ロディの描いた魔法陣を見てエマがつぶやく。
休日の今日、ロディとエマは家でテーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルにはロディの描いた魔法陣数枚と、「魔方陣全集」がおかれている。
今日は、ロディの”修正魔法”の試し打ちをする予定だ。
ロディとしては早く修正魔法を覚え、試してみたかったのだが、エマから『街中で使うのはダメ。特に家では絶対禁止!』と厳命されていたのだ。
「私が試し打ちの場所を探してくるから、それまではおとなしくしててよ。いい!?」
有無を言わさぬ勢いに、ロディは了解するしかなかった。
ロディはあまり魔法に詳しくない。
Dランク冒険者ではあるが、護衛や調査業務が主だったため魔法師の戦いというものをあまり見ていない。またギルド職員のため、普通の冒険者のようにいろいろと動き回ったり戦ったりできる時間は取れなかったためだ。
だからロディは魔法のことは書物で読んだ以上のことはあまり知らない。実地での経験が少ないのだ。だから魔法に関してはすべてエマに任せることにしている。
ロディはしばらくの間魔法はおあずけとなったのだが、それを利用していくつかの魔法陣を描きためた。
魔紙もインクもお金がかかるため、適当に魔法陣を作るわけにはいかない。ロディはまずは初級攻撃魔法を覚えるべきだと考えていた。
初級攻撃魔法は火、風、水、土属性にそれぞれ1つずつ、「ファイヤーボール」「エアカッター」「ウオーターボール」「サンドウォール」がある。この4つをロディは描いて準備した。
この初級魔法は取得に必要な魔力が低く、魔法陣も複雑ではなく比較的安いため、たいていの冒険者は4つとも習得している。
しかし全員が魔法を実戦に使うかというとそうではない。例えば”剣士”のような前衛職は大体魔力量が低く、2、3回魔法を使えば魔力枯渇を起こしてしまい動けなくなるのでめったに使わない。逃げる時の目くらましなど、いわば緊急の時の”最後の切り札”的に使うくらいだ。魔法を使うのは主に魔力量が豊富に体内にある魔法師などの後衛職だ。
「あ、あんまり触るなよ。エマが魔法陣を覚えることになるからな」
「大丈夫よ、直接触らないから。それに私、『ファイヤーボール』はもう覚えてるから。」
「そうなんだが・・・、ちょっと心配でね。」
魔法陣は一度覚えたら同じ魔法を2度は覚えられない。エマはすでにファイヤーボールの魔法を習得しているので触っても魔法陣は反応しないわけだ。
だが、ロディは覚えることが出来る。
ロディにとって幸運だったのは、今まで魔法が使えなかったので、魔法を全部覚えていないことだ。そのためロディは「修正」魔法を今から覚えることが出来る。
魔法を使えなかったことは今思えばよかったのかもしれない、とロディは感じるのだった。
「でも、これ見ても違いが分かんない。」
エマはロディの描いた修正魔法陣と、「魔法陣大全」に載っていた魔法陣とを見比べていた。
(※魔法陣大全は所有者しか中を見ることができないため、ロディがわざわざ同じものをエマのために描いていた。)
「俺でもパッと見は分からないよ。ギフトが教えてくれなきゃね。この魔法陣は2か所違うところがある。」
ロディが魔法陣の違う個所を指し示す。線の不足と、位置の微妙な違いの2箇所だ。
「本当だ、ちょっと違う。このくらいなら、少しずつ変化していったっていうのもわかるかな。」
エマが納得したように頷く。
「さて、いよいよ魔法を覚えるか。」
ロディはテーブルに座りなおし、「修正」ファイヤーボールの魔法陣を手に取った。
魔法陣を目の前にして、ロディは魔紙に魔力を流し始める。エマはかたずをのんでロディを魔法陣を見つめる。
すると、魔力が流れ込んだ魔法陣と魔紙は、ほかの魔法陣と同様に光り輝き、そして塵のように細かくなって消えていった。
「・・・」
「・・・」
「なんだか、普通だね。」
「そうだね。同じだった。」
魔法陣の消え方は、これまでの魔法陣の消え方と何ら違いはなかった。ちょっとしたら違った反応があるかも、と少しだけ期待していた二人は拍子抜けしたように顔を見合わせた。
「コホン。ま、覚え方に変化があるわけないか。気を取り直して、次に行こう。」
ロディは、次に「エアカッター」の魔法陣を取り出し魔力を流して魔法を覚えた。
そして同様にして「ウオーターボール」「サンドウォール」も覚え終わった。
「じゃあさっそく魔法の試し打ちに行こう!」
いよいよ魔法を試すことが出来る、そんな嬉しい気持ちがロディの言葉にあふれていた。
二人は準備をして街を出て、東の森に足を踏み入れた。
「こっちだよ。」
エマはロディを道案内しながら森をしばらく進み、そして二人は小さな池の前に来た。
この池はおよそ直径100mくらいの丸い形をしていて、周辺は木々に覆われていて遠くからは見えない。
「ここは魔法師たちが初心者の頃よく練習に来る池よ。ファイヤーボールを池の中に投げ込めば森が火事になることはないでしょ。」
「なるほど、試すにはもってこいだ。」
みんなが魔法の練習をする場所ならちょうどいい。ただし人に見られたら困るので、人がいない時を狙わなければならない。
エマは索敵をして、周辺に人や魔物がいないことを確認した。
「うん、あたりには誰もいないわ。池の中には多分水生の魔物がいるけど、ここの魔物は弱いし、めったに出てこないから大丈夫。」
「よし、じゃあやってみる。」
気合を入れたロディが池の方に体を向ける。『いよいよ修正魔法を使うんだ』と思うと、ロディに自然と気合がみなぎる。
ロディは右手を前に出し、魔力を放出しつつ火の玉をイメージする。すると、ロディの頭上やや前方2mの位置に、人の頭と同じくらいの大きさの”ファイヤーボール”が出現した。
「やった、出た。ファイヤーボールだ。魔法陣は間違ってなかった!」
ロディは「修正」魔法陣で出来た”ファイヤーボール”を喜びの表情で見つめる。
「お兄ちゃんおめでとう。やったね!・・で、どう?何か違いを感じる?」
エマは祝福と一緒に、質問をロディに投げかける。
「うーん、他の人のファイヤーボールと変わらないと思うけど。」
ロディは落ち着いてファイヤーボールをじっと見る。
「ん?そういえば色が薄いな。黄色・・いや白っぽいか。」
「・・・そうね、私のファイヤーボールはもっとオレンジっぽかった気がする。」
ロディのファイヤーボールの色はオレンジの火ではなくかなり白っぽい。二人して首をかしげて眺めるが、それ以外に違いはなさそうだ。
「というかお兄ちゃん、よくこんなに長くファイヤーボールを留めておけるわね。私はすくに打ち出さなきゃ保ってられないし、私の知ってる魔法師の人でも10秒も留められなかったわよ。」
「え、そうか?魔力を流しているだけでいいから、まだまだ留められるけど。」
「・・・どんな魔力量なのよ?」
攻撃魔法のファイヤーボールやエアカッター、ウオーターボールの発現には術者の魔力が必要だが、それをキープするにも魔力が必要だ。ロディが今やっているファイヤーボールを同じ位置にとどめておくには、彼自身の魔力を供給し続けなければならない。
ロディがファイヤーボールを出してかれこれ1分以上、平気な顔で空中に保持している。エマからすればこんな芸当が出来る人は見たことがない、普通の魔法師ではできないものだ。
(お兄ちゃんって、実は魔力量がとんでもないんじゃ・・・)
エマが新たに疑念を抱きつつ見ていると、ロディが聞いてきた。
「なんか体の魔力が少し減ってきてるみたいだし、これ消した方がいいかな。」
魔法は行使した本人ならば魔力がつながっていれば魔法をキャンセルできる。ただ、投げつけるなどして距離が離れれば、魔力のつながりも切れてキャンセルはできなくなる。
「お兄ちゃん、せっかく池の近くでやってるんだから打ち出してみないと。」
「あ、そうか。じゃあやってみよう。池の中央でいいかな。」
ロディは池の方に向きなおし、手を振り上げる。
ファイヤーボールなどの打ち出す魔法の飛行速度や着弾位置は魔力量と魔力制御力がかかわってくる。込める魔力が多ければ速度が早くなり、魔力制御力が高ければ命中精度が上がる。ちなみに頭でイメージするだけでも飛んでいくのだが、イメージのしやすさや打ち出すタイミングなどがとりやすいため、大半の魔法師たちは発射の際に、体を使ったアクションをする人が多い。
「それ!」
掛け声と同時にロディが腕を前方に振ると、ファイヤーボールはヒュッと池の中央に向かって飛んでいく。
「池に落ちたら水柱が上がるわ。見てて。」
エマが言ってすぐ、それは池の中央に着弾した。同時に、
------ ズバーーーーン!! ------
という音とともに着弾地点から巨大な爆発が起こった。




