第31話 ロディ、秘密にする
「でも、どうやってお兄ちゃんは魔法が使えるようになったの?」
しばらく時間がたって落ち着いてきたエマは、当然の疑問を口にする。
「そうだな、お前には教えておこうと思う。リビングで座って話そう。」
ロディはエマには自分の”秘密”をすべて話そうと考えていた。大切な唯一の肉親だし、彼女ならロディに不利益なことは誰にも話さないだろうと信頼していた。
ロディは、魔法陣製作士試験の時からの一連のことをエマに語った。ギフトを使うと魔法陣に”赤い線”が現れること、ギフトで体の中に魔力の空白部分があると分かったこと、空白を潰したら魔力があふれ出たこと、魔力制御することで体から出る魔力を調節できたこと、そして魔法陣を覚えたこと、etc
ロディの言葉を時には静かに、時には喜び、時には相槌を打ち、時には驚きながら、エマは聞いた。
ロディの告白をすべてを聞き終え、エマはその感想を言葉にした。
「・・・お兄ちゃん、今の話って実はとんでもなく大変なことじゃない?」
「え、そうか?ギフトの使い方が分かってきたことと、俺が魔法を使えるようになっただけだろう?」
ロディはわざととぼけて答えた。
「何言ってるのよお兄ちゃん!」
エマが突然机をたたいて前のめりになって話し出す。
「お兄ちゃんは、今みんなが使っている魔法陣が、実は間違っているって知ることが出来るのよ。そんなの王都の偉い研究者や国一番の魔術師もできないわ。それに魔力が体の外に放出される仕組みを発見して、さらに魔力を外に出す量も自在に変えることが出来る。そんなことが出来るって話、本で読んだことも聞いたこともないわ。つまり、お兄ちゃんは誰もできない、誰も知らない、誰もやったことがないことを全部出来るのよ。」
「・・・あー、やっぱそうだよな。」
エマの言ったことは当然ロディもわかっていた。しかし事の重大さからわざと目をそらしたい気持ちから、『そんなに大したことじゃないよ』と言ってくれることもわずかに期待していた。が、そんな『妄想』は全く無理だったようだ。
「こんなこと誰かに言ったら大変な騒ぎになるわ。そしてロディの名前は一躍有名になる。どこに行っても注目されるだろうし、多分貴族や王宮からも何か接触があるでしょうね。」
「だろうな。」
「で、お兄ちゃんはどうするの?」
「全部黙ってることにする。」
ロディは断言した。
今日仕事中に魔法のことにワクワクしながらも、今後どうするかも考えていた。自分のできることや、分かったことを公表したらどうなるか。
いろいろ考えてみたが、結局楽しい未来は思い浮かばなかった。自分への称賛や利益よりも、自分に降りかかる困難や災難のほうが圧倒的に多そうだ。
ならば今は黙っておくのが一番いい。
「今言ってもろくなことにはならなそうだ。エマも巻き込むことになるだろうし。みんなの役に立つことだからいずれは公表するけど、それは状況を見て少しずつやらないとね。だから、エマもこのことは黙っておいてほしいんだ。」
ロディの言葉を聞いて、エマは少しほっとして
「それがいいと思う。私も誰にも言わない。」
と同意した。
「でもさ、魔法を使えるようになったことは言ってもいいんじゃない?『ザゼンやってたら突然できるようになった』とか胡麻化してさ。」
「いや、それも黙っておいてほしいんだ。」
「え、どうして?」
「俺は『修正』された魔法陣の魔法を覚えたいんだ。」
ロディのギフトは魔法陣を『修正』できる。そしてロディは修正魔法陣を描くことが出来るし、今は魔法を覚えることもできるようになった。
じゃあ、ギフトで示された”修正魔法陣”の魔法をロディが覚えて、行使すればどうなるか。おそらく修正魔法は今使われている魔法とは違う性能になるだろう。
ロディが魔法を使った時に、それを見た人から「彼の魔法はどこか違う」なんて噂になったら大変だ。どうしてそうなのか追及されるだろう。そしていずれギフトのことがばれる。
だから今まで通り魔法は使えないということにして、ひそかに魔法を覚えておくつもりだ。
「で、でもその魔方陣って、修正したら「改変」したことになっちゃうんじゃないの?」
エマは問題があることを指摘する。
『魔法陣は改変してはいけない』これは法で決められている。ロディの魔法陣はいわゆる改変した魔法陣ということになるため、この魔法陣を使ったことが分かればそれだけでも処罰される。
「そう、エマの言うとおりだ。でもそれじゃいつまでたっても俺のギフトが教えてくれる『修正魔法陣』がどんな性能なのか、ほんとに正しい魔法陣なのか、確かめられないんだ。この先ずっと、正しい魔法陣を知っていながら使わないでいるなんて俺にはできない。だからたとえ禁じられていようとも、俺は「修正」ギフトが教えてくれた魔法陣を覚えたい。」
「で、でもお兄ちゃんの話は推測でしょ、その魔方陣で本当に魔法がすごく良くなるかどうかわからないじゃない。」
エマはロディを何とか止めようとする。リスクが大きいと思っているのだろう。
が、ロディは迷わなかった。
「ダメだったらその時は仕方がないとあきらめる。俺はギフトを信じる。」
ロディの言葉とその瞳には確固たる意志が宿っているのがエマには分かった。彼女はしばらく言葉を探したが、無駄なことだと感じてため息をついた。
「わかったわ。もう止めない。お兄ちゃんの思うとおりにやってみてよ。」
「エマ、すまないな。」
「でもこれだけは言わせてよ。」
エマはロディを真っ直ぐに見つめ、そして宣言した。
「私はお兄ちゃんを信じてる。どんなことがあってもお兄ちゃんの味方。力は無いかも知れないけど全力でお兄ちゃんを守ってあげる。だから私のことは気にせず、自分のギフトの可能性を試してみて。」
「エマ・・・」
ロディは思ってもみなかったエマの言葉に衝撃を受け、同時に胸が熱くなった。
ロディは今までずっとエマを守ってきた。孤児院のころからずっと。そしてこれからもずっと守ってやる、そう思ってきた。けれどエマはロディに守られているだけじゃなかった。
(俺を守る、か。エマがそんな風に思ってくれるとはな。まったく俺は何もわかっちゃいない未熟者だ。)
エマはロディの思うよりもはるかに成長していた。もう守られるだけの存在ではない。自分の意志で自分だけの人生を歩んでいける、それがロディには分かった。
「ありがとうエマ。俺もエマを信じているよ。」
ロディの言葉には、これまでの人生のすべての想いを含んでいるような、優しい響きがあった。
「え、や、ちょ、・・なにそんな真顔で言ってんの。兄妹じゃない、当たり前でしょ当たり前。」
エマは兄の言葉とさっきの自分の言葉に急に恥ずかしくなり、耳まで真っ赤になってワタワタと言いつくろい始めた。
そんなエマを見て、ロディは以前のエマが少しだけ戻ってきたような感じがして、少しだけ嬉しくなった。
「とにかく、いろいろあるかもしれないが、これからもよろしくな。」
「もちろん。」
ロディに変化があっても、ロディとエマの兄妹には変わらない絆が存在した。




