第30話 ロディ、魔法が使えるようになる
ロディが目を覚ましたのは、翌日の日が昇るころだった。
昨日は魔力制御を夢中でやっていたため、ベッドに倒れこんだのが何時だったのかまったくわからない。ただ自分のお腹の具合から、夕食を抜いたことだけはいやでも理解した。
リビングに降りると、エマはすでに起きていて朝食を作っていて、ロディに気づくとすぐに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、大丈夫?全然起きないから心配したよ。」
「え、・・いや、大したことはしてないよ。ただ訓練してただけ・・」
「嘘。普通に訓練してただけならあんなに騒がしくしないし、夕食を呼びに行ったら服のまま寝てて全く起きないし。」
「あ、あはは、ごめん。ちょっと魔法陣作りに気合入れすぎちゃって」
ロディはごまかしながら謝る。エマはしばらくじっと顔を見つめていたが、
「・・・ま、いいわ。顔色もいいみたいだから病気とかじゃないみたいだし。それより夕食抜きでお腹すいてるでしょ。ご飯できてるから顔を洗ってきて。」
「うん、ペコペコだ。ありがとう。」
体の魔力はどうやらほぼ回復しているらしい。体調も悪くない。ロディは魔力が減ったままになっていないことに少しホッとした。
ロディは顔を洗ってから、エマの用意した朝食を一緒に食べた。夕食の残りもあって結構なボリュームだったが、空腹なロディはぺろりと食べてしまったのだった。
朝食後あわただしく冒険者ギルドに出勤して仕事をし、そしてあわただしく帰宅して、あわただしく夕食を食べ(エマからは『体に悪いからゆっくり食べてよ』と怒られたが)、すぐさま自室にこもった。
ロディは仕事中ずっとワクワクしていた。
(帰ってすぐ魔法陣を作って魔法を覚えてみよう。)
仕事中はそればっかりを考えて、気もそぞろだったのだ。
机に座り、ひとつ深呼吸してから、いそいそと魔法陣インクと魔紙を取り出す。
そして10分ほどかけて一つの魔法陣を描いた。
「着火」の魔法陣。あの鑑定の儀の日に覚えられなかった初歩の魔法。
その魔方陣を描き終えたロディは、手袋を外してその小紙片を手に取った。
これに自分の魔力を流せば、自分は魔法を覚えることが出来るはず。今まで夢にまで見たことが現実になる。
ロディは99%の期待と1%の不安を抱きながら魔力操作を始める。
昨日寝る前に作った”魔力壁”をゆっくりと、少しずつ小さくしていく。一気になくしてしまうと昨日のように一気に魔力があふれてしまい魔法陣に不具合が起きるかもしれない。ロディは慎重に小さくしていく。
ある程度小さくしたところで体からわずかに魔力が出てきたのが分かった。ロディはそこで”卵”を小さくすることをやめ、魔力を魔紙に流すように集中した。
すぐに魔法陣は強く光りだし、魔紙も淡い光を放つ。
そして魔紙は光をまといながら少しずつ細かく分かれ、それはさらに小さくなり、やがて魔法陣とともに消えていった。
ロディはガッツポーズをした。魔紙が消える、それは他の子たちは全員出来て、自分だけが出来ないために見ることが出来なかった光景。ロディは4年の時を経てようやく自分で魔法陣を取り込むことが出来たのだ。
消えた魔紙の残滓を見つめながら、ロディは自分に落ち着くように言い聞かせた。まだ魔法を出せたわけじゃない。
ロディは目の前に人差し指をゆっくり差し出す。
(本当に魔法を覚えているだろうか・・・)
わずかな不安の為の数瞬の後、意を決して指先の”火”をイメージしながら声を発した。
「着火」
するとロディの指の先に、ポッと小さな火が現れた。
ロディの、初めての魔法だった。
「・・・やった、やったぞ!「着火」が出来た。ついに魔法が使えるようになった!」
ロディは万感の思いで両こぶしを振り上げて喜びを表した。目から涙があふれそうになる。が、たったこれだけのことで涙するのはカッコ悪いと思い、ロディは必死に涙をこらえていた。
「ちょっとお兄ちゃんうるさいわよ。夜なのに近所迷惑でしょ!」
そこにエマが怒った顔でやってくる。ロディはエマに満面の笑みで飛びついてがしっと肩をつかんで言った。
「エマ、聞いてくれ。魔法が、魔法が使えるようになったんだよ!」
「え、ちょっと、何。痛いって、魔法が使えたくらいで・・・・」
ロディのテンションに戸惑ったエマだがその言葉の意味をようやく理解し、目を見開いた。
「魔法!?お兄ちゃん魔法が使えるようになったの?本当?」
「ああ本当さ。」
ロディは手を放して、さっきと同じように指先に火をともして見せた。
「本当だ。着火の魔法だ。お兄ちゃん本当に魔法が使えるようになったのね!おめでとう!良かった・・・。」
その小さな炎を見たエマは喜びの声をあげてロディを祝福する。最後の言葉は涙声になってしまい、ロディを戸惑わせた。
「わわ、泣くなよ。そんな泣くほどのことじゃないだろ。」
ロディはさっき自分の目が潤んだことを忘れたかのようにエマに言葉をかけ、あわててハンカチを渡した。彼女の指の間から零れ落ちる大粒の涙はとめどなく白い布に吸い込まれていく。
「だって、だって・・・だって・・・」
エマが泣き止むまでしばらくの時が必要だった。
泣き止んだ後、エマは少し恥ずかしそうにはにかんだ笑顔をロディに見せた。
「・・・ごめんね、泣いちゃって。」
「いいよ。エマがそんなに喜んでくれて俺はうれしいよ。」
「だって、お兄ちゃんは魔法が使えないことをずーっと悩んでて、だけど何とか頑張ろうってずーっと努力していて。だからね、魔法が使えるようになって本当にうれしかった。」
エマはまた目を潤ませてきた。さっきは突然泣き出したため戸惑っただけのロディだったが、今度はエマの心からの言葉を聞いてもらい泣きしそうになった。
「そっか。ありがとう」
それをごまかすかのようにエマの頭をなで感謝の言葉を口にする。妹に見せたくない一心で、涙が出るのを気合を入れて我慢するロディだった。




